この記事では、上皮内新生物と悪性新生物について解説します。上皮内新生物と悪性新生物との違いや、もしも上皮内新生物が見つかったときの対応について確認しましょう。

上皮内新生物とは

医学的な分類でいえば、上皮内新生物とは「がん」の種類のひとつです。
具体的には腫瘍が上皮内(体表面の皮膚や消化管など粘膜の最表層部分:基底膜を越えない)にとどまっている場合のことを指します。放置をしてしまえば悪性新生物に進行する可能性がありますが、上皮内新生物の状態では、周囲の臓器に腫瘍が広がってしまう浸潤や転移は見られません。つまり早期に切除をすることができれば、再発の可能性は限りなく低くなります。

がん(悪性新生物)とは

悪性新生物も上皮内新生物と同様に「がん」に分類されますが、悪性新生物はがん細胞が基底膜を越えています(大腸などの場合は粘膜筋板を越えた場合。部位によって異なる)。そのため上皮内新生物と異なり、血管やリンパ管を通じて周囲の臓器に腫瘍が広がってしまう浸潤や転移が見られます。手術にて病変部位を取り切れなかった場合は、再発の可能性が高まってしまいます。

部位別の上皮内新生物とがん(悪性新生物)の違い 部位別の上皮内新生物とがん(悪性新生物)の違い

がんの分類

国立がん研究センターがん情報サービス「がん(悪性腫瘍)の分類」によると、がん(悪性腫瘍)は以下のように分類されます。(ここでは引用元の表記に合わせて悪性新生物を「悪性腫瘍」としています)

表1がんの分類

分類 発生する細胞 がんの例 特徴
固形
がん
癌※ 体の表面や臓器の粘膜などを覆っている細胞(上皮細胞) 大腸癌、肺癌、胃癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、肝細胞癌など
  • 周囲にしみ込むように広がる(浸潤)
  • 体のあちこちに飛び火して新しいがんのかたまりを作る(転移)
  • かたまりで増える
肉腫 骨や筋肉などを作る細胞 骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、未分化多形肉腫、粘液線維肉腫、平滑筋肉腫など
造血器腫瘍
(血液のがん)
白血球やリンパ球などの、血管や骨髄、リンパ節の中にある細胞 白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など
  • かたまりを作らずに増える
  • 悪性リンパ腫ではかたまりができ、リンパ節などが腫れることがある

※ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を指し、漢字の「癌」は上皮細胞から発生する悪性腫瘍に限って使うとされていますが、特に区別しないこともあります。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス

日本に多いがん

日本に多いがんは以下のとおりです。
※新たに診断される患者数が、1年間に10万人あたり30人以上のがんを「日本に多いがん」としています。

  • 大腸がん(結腸がん・直腸がん)
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 膵臓がん
  • 肝臓がん(肝細胞がん)
  • 前立腺がん
  • 乳がん

性別や年齢によって、どの部位のがん罹患が多いかは異なります。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」

ポイント

  • がんは上皮内新生物と悪性新生物の2つの種類に分けられる。
  • 上皮内新生物とは、腫瘍が上皮内にとどまっている状態のこと。早期発見・早期治療によって切除できれば再発の可能性は低い。
  • 悪性新生物とは、腫瘍が基底膜を越えている状態のこと。治療が遅れると再発する可能性が高くなる。

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上皮内新生物と診断される割合

厚生労働省の「令和元年 全国がん登録罹患数・率報告」によると、がんと診断された人のうち、上皮内新生物と診断される割合は、男性で8.9%・女性で12.8%・総数10.6%でした。
上皮内新生物と診断された人の多い部位は、次のとおりです。

上皮内新生物と診断された人のうち男女別に多い部位

出典:厚生労働省「令和元年 全国がん登録罹患数・率報告」を基に作成

部位別に見ていくと、全体では、「その他および部位不明の消化器」「結腸」「子宮頸部」が上位3つとなっています。
性別に分けてみると
男性では、その他および部位不明の消化器・結腸・その他部位不明
女性では、子宮頸部・その他および部位不明の消化器・乳房
となっています。

ポイント

  • 診断された人の割合は、男性(8.9%)よりも女性(12.8%)のほうが高い。
  • 部位別に見ると、男性は「その他および部位不明の消化器」、女性は「子宮頸部」が一番多い。

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上皮内新生物が見つかったら

上皮内新生物が見つかったら、手術で切除するのが一般的な治療になります。上皮内新生物は基底膜を越えて浸潤をしていないため、血管やリンパ管を通じて他の臓器に転移することがないので、完全に切除できれば転移や再発の可能性もほとんどないと考えられます。

しかし、上皮内新生物だからといって安心して治療が遅くなると、悪性新生物になり、開腹術など大きな手術になってしまう可能性があります。

そのため上皮内新生物が見つかった場合は早期に治療をすることが望ましいでしょう。

手術の方法、入院の有無などによって治療期間や費用は異なりますが、上皮内新生物は腫瘍を切除すれば原則治療は終了となるので、手術後に化学療法や放射線治療を行うことのある悪性新生物よりも治療期間は短いことが多いです。

ポイント

  • 手術で完全に取り除くことができれば、再発する可能性は低くなる。
  • 治療が遅れると悪性新生物になる可能性があるため、早い段階で治療することが大事。
  • 悪性新生物よりも治療期間は短い傾向にある。

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上皮内新生物とがん(悪性新生物)の種類

上皮内新生物と悪性新生物にはどのような種類があるのかを見てみましょう。ここでは国際疾病分類のICD10(2013年版)に従って記載をしていきます。国際疾病分類とは、WHO(世界保健機関)が、国際的に統一した疾病、傷害および死因の統計を分類したものになります。

※民間の保険等で給付の対象となる上皮内新生物や悪性新生物は、保険会社が定める約款に準じます。

上皮内新生物の種類

上皮内新生物は以下のように分類されます(一部抜粋)。

口腔,食道及び胃の上皮内癌:
咽頭上皮内癌、口蓋上皮内癌、口腔上皮内癌、口腔底上皮内癌、口唇上皮内癌など

その他及び部位不明の消化器の上皮内癌:
結腸上皮内癌、大腸腺腫内癌、直腸S状部上皮内癌、直腸上皮内癌、肛門管上皮内癌など

中耳及び呼吸器系の上皮内癌:
喉頭上皮内癌、気管上皮内癌、気管支上皮内癌、肺異型腺腫様過形成、肺上皮内癌など

上皮内黒色腫:
口唇上皮内黒色腫、眼瞼上皮内黒色腫、顔面上皮内黒色腫、耳前部上皮内黒色腫、鼻部上皮内黒色腫など

皮膚の上皮内癌:
口唇皮膚上皮内癌、眼角皮膚上皮内癌、眼瞼皮膚上皮内癌、顔面皮膚上皮内癌、頚皮膚上皮内癌など

乳房の上皮内癌:
非浸潤性小葉癌、非浸潤性乳管癌、非浸潤性乳癌

子宮頚(部)の上皮内癌:
子宮頚管上皮内癌、子宮腟部上皮内癌、子宮頚部上皮内癌、子宮頚部上皮内腫瘍・異型度3など

※子宮頚部の軽度異形成・中等度異形成・高度異形成について:
子宮頚部異形成は、子宮頚がんの前段階(前がん病変)です。
子宮頚部異形成はその病変の程度によって、軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成・上皮内がん(CIN3)の3種類があります。

悪性新生物の種類

悪性新生物は以下のように分類されます(一部抜粋)。

口唇,口腔及び咽頭の悪性新生物<腫瘍>
口唇の悪性新生物〈腫瘍〉、舌根〈基底〉部の悪性新生物〈腫瘍〉、舌のその他及び部位不明の悪性新生物〈腫瘍〉、歯肉の悪性新生物〈腫瘍〉、口(腔)底の悪性新生物〈腫瘍〉など

消化器の悪性新生物<腫瘍>
食道の悪性新生物〈腫瘍〉、胃の悪性新生物〈腫瘍〉、小腸の悪性新生物〈腫瘍〉、結腸の悪性新生物〈腫瘍〉、直腸S状結腸移行部の悪性新生物〈腫瘍〉など

呼吸器及び胸腔内臓器の悪性新生物<腫瘍>
鼻腔及び中耳の悪性新生物〈腫瘍〉、副鼻腔の悪性新生物〈腫瘍〉、喉頭の悪性新生物〈腫瘍〉、気管の悪性新生物〈腫瘍〉、気管支及び肺の悪性新生物〈腫瘍〉など

骨及び関節軟骨の悪性新生物<腫瘍>
(四)肢の骨及び関節軟骨の悪性新生物〈腫瘍〉、その他及び部位不明の骨及び関節軟骨の悪性新生物〈腫瘍〉

皮膚の黒色腫及びその他の皮膚の悪性新生物<腫瘍>
皮膚の悪性黒色腫、皮膚のその他の悪性新生物〈腫瘍〉

中皮及び軟部組織の悪性新生物<腫瘍>
中皮腫、カポジ〈Kaposi〉肉腫、末梢神経及び自律神経系の悪性新生物〈腫瘍〉、後腹膜及び腹膜の悪性新生物〈腫瘍〉、その他の結合組織及び軟部組織の悪性新生物〈腫瘍〉

乳房の悪性新生物<腫瘍>
乳房の悪性新生物〈腫瘍〉

女性生殖器の悪性新生物<腫瘍>
外陰(部)の悪性新生物〈腫瘍〉、腟の悪性新生物〈腫瘍〉、子宮頚部の悪性新生物〈腫瘍〉、子宮体部の悪性新生物〈腫瘍〉、子宮の悪性新生物〈腫瘍〉,部位不明など

男性生殖器の悪性新生物<腫瘍>
陰茎の悪性新生物〈腫瘍〉、前立腺の悪性新生物〈腫瘍〉、精巣〈睾丸〉の悪性新生物〈腫瘍〉、その他及び部位不明の男性生殖器の悪性新生物〈腫瘍〉

腎尿路の悪性新生物<腫瘍>
腎盂を除く腎の悪性新生物<腫瘍>、腎盂の悪性新生物〈腫瘍〉、尿管の悪性新生物〈腫瘍〉、膀胱の悪性新生物〈腫瘍〉、その他及び部位不明の尿路の悪性新生物〈腫瘍〉

眼,脳及びその他の中枢神経系の部位の悪性新生物<腫瘍>
眼及び付属器の悪性新生物〈腫瘍〉、髄膜の悪性新生物〈腫瘍〉、脳の悪性新生物〈腫瘍〉、脊髄,脳神経及びその他の中枢神経系の部位の悪性新生物〈腫瘍〉

甲状腺及びその他の内分泌腺の悪性新生物<腫瘍>
甲状腺の悪性新生物〈腫瘍〉、副腎の悪性新生物〈腫瘍〉、その他の内分泌腺及び関連組織の悪性新生物〈腫瘍〉

部位不明確,続発部位及び部位不明の悪性新生物<腫瘍>
その他及び部位不明確の悪性新生物〈腫瘍〉、リンパ節の続発性及び部位不明の悪性新生物〈腫瘍〉、呼吸器及び消化器の続発性悪性新生物〈腫瘍〉、その他の部位及び部位不明の続発性悪性新生物〈腫瘍〉、悪性新生物〈腫瘍〉,部位が明示されていないもの

リンパ組織,造血組織及び関連組織の悪性新生物<腫瘍>,原発と記載された又は推定されたもの
ホジキン<Hodgkin>リンパ腫、ろ<濾>胞性リンパ腫、非ろ<濾>胞性リンパ腫、成熟T/NK細胞リンパ腫、非ホジキン<non-Hodgkin>リンパ腫のその他及び詳細不明の型など

ポイント

  • 上皮内新生物や悪性新生物にはさまざまな種類がある。
  • 民間の保険等で給付の対象となる上皮内新生物や悪性新生物は、保険会社が定める約款に準じることが多いため確認が必要。

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Q&A

上皮内新生物はがんのステージでいうといくつ?

上皮内新生物(上皮内がん)は、腫瘍が臓器の表面である上皮(粘膜層)内にとどまっている状態のため、がんのステージでは「0期」にあたります。この時点では他の臓器にがんが広がってしまう転移はありません。
一方で、悪性新生物は基底膜を越えて体内に深く広がっているため、転移の可能性が高くなります。

上皮内新生物の治療方法は?

上皮内新生物は手術で切除するのが一般的な治療になります。
現在は内視鏡などで手術できることも多くあり、体への負担も軽いものになっています。
上皮内新生物は基底膜を越えて浸潤をしていないため血管やリンパ管を通じて他の臓器に転移することがないので完全に切除できれば転移や再発の可能性もほとんどないと考えられています。

上皮内新生物とポリープの違いは?

上皮内新生物は「がん」の種類のひとつですが、ポリープは「がん」ではありません。これは細胞の中に「がん細胞」が含まれるか否かで判断されます。ポリープはがんではないため、がん保険の対象外になることがほとんどです。
ただしポリープでも腫瘍が大きくなると、がん細胞に変化する可能性が高くなってしまいますので、ポリープだから大丈夫と安心はできません。

上皮内新生物に自覚症状はある?

がんのステージでは「0期」にあたるため、ほとんどの場合、自覚症状がありません。そのため、早期発見をすることが難しいといわれています。定期検診や人間ドックで発見される人がほとんどですので、必ず検診にいくようにしましょう。

まとめ

今回は上皮内新生物と悪性新生物の違いについて解説をしました。
両者はどちらも「がん」に分類されますが、上皮内新生物は腫瘍が上皮内(体表面の皮膚や消化管など粘膜の最表層部分)にとどまっていることを指します。また上皮内新生物は自覚症状が乏しいといわれています。がんは早期発見・早期治療が大切になります。必ず定期検診にいくようにしましょう。

この記事の監修医師

上 昌広
医療法人鉄医会ナビタスクリニック

専門領域

内科,内分泌代謝科,アレルギー・膠原病内科,神経内科,肝胆膵内科,消化器内科,総合内科,血液内科,腎臓内科,循環器内科,感染症科,糖尿病内科,呼吸器内科,医療データ,腫瘍内科

経歴

1993年東京大学医学部医学科卒業、1999年東京大学大学院医学系研究科修了、1999–01年国家公務員共済組合虎の門病院血液科医員、2001–05年9月国立がんセンター中央病院薬物療法部医員、2010年7月16日-2016年3月31日東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任教授、2016年4月4日~現職(2023年5月現在)

保有免許・資格

医学博士

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