先日の総会で、ライフネット生命会長を退任した出口治明。その退任を機に、過去に取り組んだ企画の中から、話題となった「ハトが選んだ生命保険に入る」(2009年7月)の企画を生み出した「デイリーポータルZ」の林雄司編集長と、当時担当者だったライフネット生命OB社員の松岡洋平さんが集まり、出口を交えて対談しました。

“保険金額を書いた皿に豆を入れ、最初にハトが選んだ保険に加入する。舞台は猛暑の河原で、社長が参加”という冗談のような内容に、はじめは出口も出演をためらったというこの企画。

「ちょっとおバカな内容に、真面目な会社が協力する」というウェブの広告企画は今でこそよく見かけるようになりましたが、8年前の当時としては珍しいもの。大きな話題を呼び、ライフネット生命が広く知られるきっかけのひとつとなりました。

あれから8年。それぞれの歩みを振り返りつつ、会社で企画を通す方法から出口の今後の活動まで、縦横無尽に語り合います。

■後任にバトンを渡すとは

出口治明(ライフネット生命保険創業者)

出口:今日の相手はお2人ですか。

林:出口さん、相変わらず企画の詳細を事前に知らされていないんですね。

出口:「ハトの保険」以来、ずっとそうです。この流れは、当時の広告宣伝担当だった松岡くんが作ったものですね。

林:出口さんが「なんやこのふざけた企画は」と言ったら「アホは出口さんです」と返した“挑戦的な部下”の松岡さんですね(こちらの記事を参照)。いまは別の会社にいらっしゃるとか。

松岡:本日は“会社のOB”として参加します。出口さん、お久しぶりです。

右:ライフネット生命OBの松岡洋平さん。在社時はマーケティング部に所属し、「ハトの保険」の記事を担当。左:「デイリーポータルZ」編集長の林雄司さん。「ハトの保険」の記事をきっかけに、ライフネット生命といくつものタイアップ企画を実施

松岡:出口さんは6月24日をもってライフネット生命の会長を退かれるんですよね(取材は5月末に実施)。その後はどうされるんですか?

出口:いろんな人から6月以降のことを聞かれるのですが、ブログでもライフネット生命のために働くと公言しているので、そんなに聞かなくてもいいのにと(笑)。

松岡:あくまでひと区切りということですね。

出口:松岡くんが残っていれば、君に譲っていたかもしれないね(笑)。

林:今でも信頼があるんですね。

出口:会社を辞めた人を裏切り者のように言う人がいるけれど、ファンを外に作ると考えれば、こんなにいいことはないですよ。

松岡くんが頑張ってくれれば、ライフネット生命はいい会社だと思ってもらえる確率が増えるかもしれない。それに、後に残った人間も穴を埋めようと奮起しますからね。

林:後任の取締役の年齢が30代って、かなり若いですよね。

出口:2人の年齢を足したら、僕と同じくらいになる(笑)。古希の僕が若い世代に任せる方が、会社として面白いと思ったんです。

──林さんが編集長をつとめるデイリーポータルZ(以下、DPZ)は15周年ですが、長く続ける秘訣はありますか?

林:会社で目立たないようにすることでしょうか。あまり目立って調子にのると「儲かってないくせにでかい顔して」と落とされるときがきますから。

出口:林さんが目立たないように振る舞うのは大変でしょう。

松岡:編集長をいずれ譲ることは考えますか?

林:僕はしがみついてますね。もうしばらくは続けていたい。

■「ハトの保険」の記事をふりかえる

出口:でもせっかく、林さんと松岡くんが来たんだから、ハトの保険の話をしなくてはね。

【2009年7月デイリーポータルZ「ハトが選んだ保険に入る」より抜粋】

 

お皿の数字は僕が全て書きました(出口)

──今でも社内で話題になりますか?

出口:ライフネット生命には、「鳩を超える」と書いた紙が貼ってあるんです。
いまだにライフネット生命といえばハトの保険といわれるから、それを超えるもっと面白い企画をやらなくてはと思って、目標を「見える化」しているんです。

習字の上手な社員が書きました。マーケティング担当の顔を見るたびに、「ハトを超えたか」と聞いています(出口)

林:「河原でハトに保険を選ばせる」なんて企画、まさか社長(当時)に出ていただけると思わないじゃないですか。その意外性で、とても面白い記事になりました。

DPZは、王道以外のもっと面白いやり方を探すメディア。なので、ライフネット生命さんとはぴったりの組み合わせだったと思います。

出口:大きい生命保険会社だったら、担当者の段階でボツになっていたかもしれませんね。あの企画は、松岡くんが実現させてくれたようなものですよ。

松岡:そうですね。最初に企画のアポを受けたのは別の担当者だったんです。でも、内容に全然ピンときていなくて。

で、僕が偶然、横から企画書を見たんです。すぐに「その企画担当させて!」といって、出口さんにプレゼンしたんです。

林:よくぞ反応してくださいました。

松岡:僕は元々DPZのファンだったんです。だから、企画書*1を見て「これは絶対に面白くなる! 出口さんに出演してもらおう!」と。結果、とてもDPZらしさが出た記事になったので、とてもよかったと思います。

広告主としては、広告記事に対して記事の面白さ以外の結果を求めてしまいがちですが、メディアが持っているポテンシャルを最大限に引き出すのが一番いいんだということに「ハトの保険」で改めて思い知らされました。

林:DPZ自体は15年前からなにも変わっていなくて、読者のほうがどんどん偉くなっている。そして、松岡さんのように社内で権限を持ち始めた読者がDPZと仕事をしたいと言ってくれる。DPZの未来は、とにかく読者の出世にかかっています。

出口:多くの人と面識があれば、確率の問題でそのうち何人かは偉くなる。結果として人脈ができるというのは、世界共通のファクトですね。

■「僕が入れば成功します」


出口:松岡くんはライフネット生命が開業する前に入社してくれたんですが、面接の時から「この会社で僕が一番マーケティングを理解しています」と言い切っていたんです。「だから、僕を信じますよね?」といつも言われていた。

「ハトの保険」をプレゼンしてた時も、「自信あるの?」と僕が聞くと、「自信のないものを僕が持って来ると思いますか?」と返すわけです。

林:なかなか言えないなあ。

出口:そう返されたら「じゃあやってみようか」と言うしかない。

松岡:自信があったので、この企画で10人以上のご契約をいただいたら、うな重を奢ってくださいと言ったんです。結果、ご馳走していただきました。

出口:松岡くんの話は説得力があるんです。

「僕はこの10年間、出口さんが毎日1〜2時間読書するのと同じように、毎日インターネットを見ています。この会社で僕が一番インターネットを理解している人間であり、かつDPZも林さんも昔から知っています、だからDPZの企画が間違いないということがわかります」と言うわけです。そう言い切られると納得できますよね。

──さっきから薄々感じていたんですが、松岡さん、発言の力強さが尋常じゃないですね。

出口:彼は面接の時から際立っていました。なにせ、志望理由を聞いたら「出口さんと岩瀬さんの組み合わせでは能力が不足しています。僕が入ればライフネット生命は成功します」と言い切るんですから。そうだったよね?

松岡:岩瀬さん(当時副社長、現社長)との面接で言いましたね。

もちろん、相手と状況には合わせます。さっきの話だと、たまたま岩瀬さんのブログをずっと読んでいた*2ので、岩瀬さんの考え方は全部知っていたんです。だからブログで採用告知を出しているのを見て、これは自分のことだなと思いました。

林:出口さんは松岡さんの発言を聞いてどう思ったんですか?

出口:「僕が入れば成功します」と言うので「これはラッキー」と。それで即採用しました。

林:それもすごい……。

■出口さんの「いいよ、なんで?」


松岡:出口さんって、最初に企画を持っていった時の反応が普通じゃないんですよ。必ず「いいよ、なんで?」と言うんです。

普通は先に「なんで?」って聞きますよね。でも、出口さんはまずOKを出して、それから理由を聞く。しかも、年齢が40歳以上離れた若造に対して「いいよ、なんで?」と言える。そんな人には会ったことがないです。

出口:これは松岡くんへの信頼に加えて、プレゼンに説得力があるから。

僕は読書オタクで歴史オタクだけれど、ネットには詳しくない。だから「ネットのことは僕に任せてください」という人間に任せるのが自然だし楽だなという、シンプルなロジックです。

松岡:物事を判断するスピードは大事ですね。スピードを左右するのは信頼の蓄積です。「阿吽の呼吸」も、それまでの信頼があるからこそで。

「ハトの保険」みたいなぶっ飛んでるけど面白い企画は、大企業になるほど通りづらい。通すためには、企画の質と、任せてもらうための信頼が重要なんです。

──信頼を貯めるために意識していたことはありますか?

松岡:僕は常に「絶対」と言い切ります。あと、普段の発言で「こいつ、やるな」と思ってもらうことで「信頼の残高」を貯めておく。

それから、もうひとつ企画を通す方法は、打席に多く立つこと。人より10倍多く打席に立てば、10倍当たるんです。

林:外したことって、みんな忘れちゃうんですよね。DPZも外した記事はたくさんありますが、みなさん当たった記事しか覚えてない。僕も外したことは言わないし(笑)。
毎回大当たりだぞと思ってやりますけど、打率は3〜4割くらいですし。

──林さんがDPZのライターを信頼する基準はありますか?

林:優しくていい人だな、という人にしか仕事を頼みません。ふだん嫌味っぽい人は原稿にも嫌味が出るので。

出口さんは以前「初対面で感じた印象が正しい」とおっしゃってましたよね。とても納得した覚えがあります。

出口:人間は、初対面の時には集中して相手を観察し、理解しようとする動物です。だから、最初の印象というのは大切なんです。

林:大人になると、感じの悪い人でも「あの人も根は悪い人じゃないから」と、なあなあにしがちじゃないですか。でも、初対面で感じが悪かった人は、たいてい裏切る。最初の印象通りの人なんですよ。

あと、出口さんの言葉でもうひとつ「社長は偉いわけじゃない。経営という『役割』を担っているだけ」というのも印象的で。

出口:人間と同じで、頭や手足や臓器があって初めて人間は動ける。組織も同じで、社長でも係長でも役割を分担しているだけですから。

林:インテリな考え方だし、正しいと思います。ただ、「社長もひとつの役割」と思って会社で行動すると、生意気だと……(笑)。

出口:組織は指揮命令系統が必要だから、仮に仕事上の上下関係を作っているだけなんですよ。人間同士の上下関係ではないのですから、みなが言いたいことを言えばいいんです。

■出口さんにこんなことをやってほしい

──では最後に、林さん・松岡さんに「今後、出口さんにやってほしいこと」を提案していただきます。お2人の案からひとつずつ、必ず出口さんに実行していただくということで。

【松岡さんの回答】

①DGC7

松岡:世の中でまだ知られていないけど、もっと知られるべき、という人を出口さんに紹介してほしい。毎年7人を選んでプロデュースする、これが「DGC7」です。

あ、DGCは「でぐち」のことです。本当はAKBばりに48人と言いたいところですが、出口さんの体力の問題がありますから7人。

出口:7人の侍を作れということやね。

②Deguchi Portal Z

松岡:出口さんはとても合理的。なので「こうすればもっと楽ができる」というアイデアをユーザーから募集し、いいアイデアを紹介してもらいます。
日本の働き方改革を牽引する真面目な企画です。

③フリースタイルダンジョンに登場

松岡:出口さんは博識で色んな言葉をご存知。ラップもできるはず……ということで、「古希モンスター」という名前で、ラップバトル番組「フリースタイルダンジョン」に門番みたいに登場してほしいな。

出口:番組にはどうやったら出られるの?

松岡:それはテレビ局にオファーしていただいて……。

林:広報の人が大変だ。

【林さんの回答】

①掃除の人として社内観察

林:掃除人の格好で社内を回って、新人をこっそり観察したり、社内の悪い噂を聞いたりしてほしい。正体に皆が気づいて「誰かツッコめよ…」なんて気まずくなる絵が浮かんで面白いなと。

②チェーン店のそば屋

林:サラリーマンの第二の人生といえば「そば屋」。でも出口さんには力強く、どんとチェーン展開していただきたい。

出口:僕は関西人なので、きつねうどんが好きなんです。きつねうどん限定のチェーンはどうでしょう?

林:それは新しい。あえての狭さがいいですね。

③世界漫遊家

林:海外へ行くと、昼間からお酒を飲みながら街をぶらついているおじさんがいますよね。彼らはどんな仕事でなにをしているのか、出口さんに聞いてみてほしくて。

そして、僕たちDPZは世界を回っている出口さんに、たまに原稿をもらって掲載する、というおいしい設定です。

──どれも面白いアイデアですが、ひとつずつ選んでいただけますか?

出口:迷うなあ……よし、この2つで。

松岡さんの「Deguchi Portal Z」と林さんの「世界漫遊家」が採用! いつこれが実現されるのか!?

出口:会社の宣伝とトップラインを考えたら「Deguchi Portal Z」かな。林さんを見てるとやっぱりDPZに引き寄せられちゃいますね。

林:僕たちのコンテンツになるからありがたいなあ。「もっと楽できることを探す」というコンセプトもいいですよね。

松岡:もうひとつは「漫遊家」ですか。世界旅行ですね。

出口:放浪は好きですからね。もう一度、寝袋を背負ってバックパッカーをやってみたいねえ。

林:ちゃんとベッドで寝たほうがいいですよ! さすがに腰を痛めちゃいますからね……。

*1…1ページにまとめられた最初の企画書の段階では、そもそも社員が出演する予定もなかった

*2…岩瀬の有名なブログ「ハーバード留学記」よりさらに前、人材サービスを行う会社の留学生コラムに登場した2004年8月の最初の記事から読んでいたそう

<クレジット>
取材・文・撮影/Huuuu(柿次郎とだんご)

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