今回の相談者さんは40代の男性会社員。奥様のがんが最近、発覚したそうです。告知を受け、沈みこむ奥様を支える相談者さんは、「自分にできることは何でしょうか」という相談を寄せてくれました。がんサバイバーであり、さまざまながん患者さんやそのご家族とも接し、病気についてもお金についても豊富な知識を持つ黒田さんが、自らの体験を踏まえて回答します。

【相談】
妻が、がんになりました。つい最近、告知されたばかりです。妻はまだ40代、僕も同じ40代で小学生の子どもが1人います。会社員として仕事で忙しい毎日を過ごしていましたが、これから妻を、そして家族を支えていくために自分にはいったい何ができるのだろうと考えてしまいます。デリケートな話題なので、周囲にはあまり相談ができません。それどころか、家のことはすべて妻に任せっきりで、連絡はSNSなどが中心。告知後も妻との会話自体あまりできていないありさまです。がん経験者である黒田さんに、どんな小さなことでもよいのでアドバイスいただけるとうれしいです。(40代・男性)

■言いたいことを伝えよう

奥様ががんの告知を受けられたとのこと。これからのことを考えると、どうすべきか悩まれるお気持ち重々お察しします。ご家族もつらいですよね。私が告知を受けたときも、夫は、患者本人である私以上につらそうでした。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)2009年12月に乳がんに罹患

最近、がん患者さんだけでなく、そのご家族からの相談も増えています。とくに、ご相談者さんのように妻ががんに罹患した夫からのご相談が……。みなさん、「誰に相談したらいいのかわからない」と口々におっしゃいます。そして、多くの男性(夫)が「仕事より何より家族が大事だということがわかった。自分はできるだけそばにいてあげたいが、それもなかなか難しい」と口にされます。相談者さんと同じですね。

働き盛りの40代なら仕事も相当に忙しいはずです。そして、お子さんがまだ小さく、多額の住宅ローンも抱えている状態では、精神的にも肉体的にも経済的にも負担が大きいかと思います。

そうした状況で、私が声を大にして言いたいのは、「相手の気持ちをヘンに忖度しないで、とことん話し合う」のが大切だということです。

夫婦なんですもの。家族なんですから、遠慮してどうするんですか? これまでの、そしてこれからの自分の想いや考え、奥様にしてあげたいことやしてほしいこと。とにかく、いっぱい話してみてください。いまこそ、その機会です。

もちろん、日常会話すら満足にできなかったのに、急に話し合いなんてできないという人もいますし、治療の方針や考え方などで衝突したり、意見が合わなかったりすることもあるでしょう。患者も自分の人生や余命がかかっていますからね。家族に邪魔されてたまるかと必死ですよ。(苦笑)
でも、話し合っていくうちに、落とし所というか、到着点が見えてきて、自分たちの家族の在り方やカタチができあがってくるような。病気は、家族に大きな溝を作ると同時に、絆を深めるものでもあるんです。

■正しいエビデンスのある情報を集めよう

奥様のお話にもしっかりと耳を傾けてあげてください。告知直後や治療の初期の頃は、告知のショックや治療の副作用などで、特に気持ちが滅入りがちです。辛くて悲しいときに、泣いたり、叫んだりして感情をあらわにするのは健康な証拠です。それを家族として、受け止めてあげてください。

手術の痛みや抗がん剤、放射線治療など、治療に関しては、患者本人が乗り越えるしかありません。家族であっても痛みや苦しみを分かち合うことはできない。でも、寄り添ってくれる人がそばにいると感じられるだけでも、患者は心強いものです。

そして、家族ができることは、情報収集です。患者の精神状態が不安定だったり、自分の意思がうまく伝えられなかったりすることもありますので、できるだけ、診察などにも付き添いましょう。どのような治療法がベストなのか、家族としての意見は主治医に伝えるべきです。

収集する情報は正しいエビデンス(科学的根拠)のあるものから。インターネットの情報源は、国立がん研究センター がん対策情報センターが運営する「がん情報サービス」や日本癌治療学会の「がん診療ガイドライン」など公的なものからがお勧めです。

がん罹患後の生活や治療の副作用などを知るのに、経験者のブログなどをチェックする方も少なくありませんが、がんは多様な病気です。がんの種類やステージ(病期)が同じでも、状況が同じとは限りません。バイアスがあることを承知した上で閲覧するか、影響されやすい人は、落ち着くまでネット情報は封印しておいた方が無難です。

いずれにせよ、患者の情報を一番持っているのは主治医であることは見落としがち。がん患者は、さまざまなシーンで選択を迫られます。例えば、乳がんであれば、乳房を温存するか全摘するか。全摘した後は、再建するかしないかなど。迷ったら、主治医とよく相談をして、自分や家族にとって最適な選択肢は何なのかを選び取っていくことが大切なのです。そして、どうしたらいいのかわからないと悩む奥様と、一緒に考えてあげるのも大切な役割です。

■できる範囲でいいんです

がんの闘病は長丁場です。最初に張り切りすぎると息切れしてしまうかもしれません。こんなときに笑ってはいけないと自分を律しすぎると、つらくなって人生を楽しめなくなります。家族も根を詰めないことです。

また、あれこれやってあげたくなる気持ちはわかりますが、無理はせず、できる範囲で大丈夫。ほかの家族やご両親と分担するのも一つです。

がん治療中の奥様のケアをプロジェクト化するのも一手です。ご相談者のように会社勤めの方は、プロジェクトの計画を立ててものごとを進めるのが得意ですよね。プロジェクトマネージャーとして、奥様といっしょに治療に臨みましょう。

ご相談者さんのように、奥様とうまくコミュニケーションできていない方も少なくありません。悩みをほかの人に話し慣れていない方も多いと思いますが、いまは「がん家族外来」を設けている病院も増えています。悩みが募ってきてつらくなったら、そうしたところに足を運ぶのもいいでしょう。

■腫れ物に触るような態度はNG

それから、奥様はおそらく、医療費について心配されていると思います。自分ががんになったことで、家計にどれぐらいダメージを与えているのか、不安に感じているはずです。

そこは相談者さんの出番です。かかる医療費の目安や医療費が高額になった場合の高額療養費制度、加入している医療保険やがん保険から受け取れる給付金などを調べて、奥様を安心させてください。「お金のことは心配せず、しっかり治療をすれば大丈夫だよ」と一声かけてあげるだけでも、奥様の気持ちが楽になるはずです。

最後にもうひとつだけ、アドバイスを。腫れ物に触るような態度はNGです。そうされると奥様もつらいです。

普通にいつもどおりに、というのはなかなか難しいかもしれませんが、勝手にあれこれ奥様の気持ちを想像して、「よかれ」と思って行動するのはやめたほうがいいでしょう。

それよりも、奥様の話を聞く、思いを受け止める。そしてできる範囲で構わないので、一緒にいてあげることです。相談者さん自身が無理をして、体調を崩してしまっては大変です。

お子さんもいらっしゃるのですから、ご自分の体もしっかりと労りながら、奥様といっしょにがんと闘ってもらいたいと思います。

がんばってくださいね。エールを送ります。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子