16010901_2中竹:コーチは選手以上に大人だからこそ、学ぶことに対して前のめりにならないと成長できないと思うんです。僕がよく言うのは、「大人の学びは痛みをともなう」。大人というのは自分の価値観が明確にあって、成功体験があって、自分なりの哲学がある。それと違うものを受け入れろと言われたら、違和感があるに決まっているんですよ。

――でも、価値観を崩されなければ「学び」にはならない。

中竹:そうです。だから僕は、一方的にコーチングを指導することはほとんどありません。自分の欠点に自ら気が付かせるように導いていきます。彼らからすると、僕に何かを学んでいるという感覚はないはずです。具体的には、必ず失敗するワークをやってもらいます。

それはすごく簡単なワークなんですが、例えば、「1分間、人前で近況を話してください」と言うんです。そうすると大体の方は考えがまとまらず、うまくしゃべれません。それを見て、「コーチは短時間でわかりやすく選手にやりたいことを伝えないといけないのに、今の近況報告で、選手の心をつかめると思いますか?」と聞く。それでみなさんドキッとするわけです。

そして今度は、「ここにいるみなさんが全員選手だとしましょう。今日、互いに初めて会いました。どんなトークをすれば協調性が生まれるのか。考えてください」と聞く。そうすると今まで僕に反発していたコーチも、やっぱり本気で考え始めるんです。

――できないことを自覚させると、自分で考えるようになるんですね。

中竹:PDCAサイクルの話をしても、最初はみなさん「そんなことはわかっているよ」と言います。しかし実際にやってみると、自分ができていなかったことに気が付く。それで学ぶことの大切さを痛感します。そういうことを繰り返していくと、1年目はあまり変わらなかった人も、やがて劇的に変わるようになっていきます。年齢は関係ありません。50歳を過ぎたベテランのコーチも、学ぶことの必要性に気がつけば、変わることができるんです。

■大学であえて行った「テンポの悪い練習」

――それを早稲田大学のときは選手にもされていたと。

中竹:そうですね。早稲田のときは……はじめは選手にため息をつかれてばかりでしたね(笑)。でも仕方ないんですよ。僕の練習ってつまらないんですから。当時はラグビー監督としての経験もなかったですからね。一生懸命に知恵を絞って戦略をプレゼンしても、「こいつは本当にラグビーをわかってないな」みたいに残念そうな顔をされるんです。

――そこから2年で早稲田大学を優勝に導くことができたのは?

中竹:これはもう簡単で、「僕に期待するな。自分たちで考えろ」というメッセージを発し続けたんです。そうすると、どうすればいいのか聞いてこなくなります。最初は期待するんですよ、一応は監督だから。でも聞いても何も出てこないので、「俺たちが何とかしないとヤバいぞ……」という意識が選手たちに広がる。そうやって僕の代わりに戦略を選手とコーチたちが立ててくれたんです。

――しかし選手たちに自分で考える意識が広まったからといって、それで勝てる戦略が自ずと生まれてくるものでしょうか?

中竹:まあ……そんな簡単に良い案が出てくるわけないですよ(笑)。僕のことをバカにしても、優れた戦略が生まれるわけじゃない。だから案を出してくれたことには敬意を払いつつも、「もうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」とアドバイスしていく。そうやって現場の人間たち(選手)とすり合わせをしていきながら、戦略をブラッシュアップしていったという感じですね。

――つまり、単純に「選手に任せる」というわけではなく、「チームとして考える」という方向にもっていかれた、と?

中竹:そうです。僕はラグビーの戦略とか戦術は本当にわからなかったんですが、その代わりに、選手のコミュニケーションの問題について、相当細かく考えたんです。例えば僕が導入したことに、「チームトーク」というものがあります。グラウンド上で選手と行うちょっとした対話を改善していったんです。

スクラムになるとプレーが止まりますよね。その30秒くらいの時間でしゃべることや、得点を決められた後に会話を交わす時間を「チームトーク」と定義し、その質を上げることを目指しました。結局、ラグビーってプレー中はコーチは何も指示できない。だから、修正する時間は「チームトーク」のタイミングしかないわけです。そうすると試合中に適切に修正するためには、修正の練習を事前にしておかなければならない。

――チームトークの練習もまた必要になると。

中竹:ええ。これはとても効果が出ました。ただ、当時の練習を外から見ると、練習を何度も中断してコミュニケーションを検証しようとするから、すっごくテンポが悪く見えたでしょう。20分練習をやったと思ったら、10分くらいダラダラしゃべっているぞ、気合が入っていないんじゃないか。そう思われたはずです。

実際に練習の効率は悪くなるんですけど、僕は10秒でパッと的確な指示を出すなんてことができないので、とにかく選手たちが考えていることを知ろうとしました。それで練習中に選手同士が話していることをずーっと聴いてわかったことがあります。それは「トークの質が悪いと、悪いプレーを修正できない」ということなんです。

仕事もそうじゃないですか。失敗したときにダメ出しの議論はありますよね。「お前のあれが悪かった」「いや悪かったのはこういうところだ」みたいな。それでは課題の抽出しか行われません。チームがそうなると、絶対に次に生かされないんですよ。

だから「チームトーク」というフレームをちゃんと作ってあげて、今やったことの何が良くて何が悪くて、次はどうすればいいのか、それを指摘し合うことが重要だと説明しました。でも実際にやらせてみると10分もかかる。それでは試合が終わってしまうので、「明日からはこの時間を半分にしよう」と伝える。そして次の練習ではさらに半分、さらに半分……と続けていったんです。

■成果はチーム内のコミュニケーションに左右される

中竹:ほかにも、プレーの映像を観ながらミーティングをしますよね? でも、僕はそこで「今のキックは良くなかった」という具体的な指導はしないんです。僕がやったのは、試合中にミスがあってスクラムになったと。その笛が鳴ってからスクラムまでの間に、誰も動いていないというシーンだけを抜き出して編集しました。プレーの内容は全然映っていない映像集です。それを選手に観せながら、「この映像で何が言いたいのでしょうか?」と問いかけました。

――編集ミスだと思われそうです。

中竹:実際に言われましたよ(笑)。何も大事なことが映っていないって。でもそこには、パスを出した選手と受け取った選手が、ミスを互いの責任にしているシーンが映っているわけです。明らかにお互いが不満そうな表情をしているからわかるんですよ。しかも現場の人間というのはミスを自分の責任にされたくないから、プレーが中断すると無言になる。どっちも謝らない。すると面白いことに、また同じようなミスを繰り返すんです。

これはどういうことか? 無言で「わかれよ」みたいなことを続けていたら、いつまで経ってもプレーは改善されないということです。「今の何が悪かった?」「もっとこういうパスをくれるとありがたい」。試合中にこういう会話ができたら、ミスがなくなって勝ちにつながっていく。プレーの良し悪しは経験の少ない僕にはわからない。でもコミュニケーションがしっかり取れたら、確実に試合内容は良くなっていくよねと伝えていきました。

――スキル向上のアドバイスではなく、コミュニケーションを円滑に回すことに集中したわけですね。まさに「逆転の指導術」です。

中竹:コミュニケーションが回っていれば結果は付いてくるんですよ。もちろん、プレーの練習をしっかりやることが前提ですが、コミュニケーションが停滞すると、チームは機能しなくなる。やっぱり試合って現場での戦いなので、次々と想定外のことが起こる。それを即座に修正できないといけないわけです。そのためにはコミュニケーションが円滑であることが何より重要です。ほとんどの監督はそこに目を向けていませんでした。

――ほかの人が目を向けない、プレーの“切れ目“に向上するポイントがあったと。

中竹:ビジネスも基本はチームプレーですから、まったく同じことが当てはまると思いますね。

(後編に続く)

<クレジット>
中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、U20ラグビー日本代表ヘッドコーチ。1973年福岡県生まれ。93年に早稲田大学に入学、同大ラグビー蹴球部に入部。4年生では主将を務める。サラリーマンとしてキャリアを送っていたが、2006年には指導者経験ゼロのまま清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。07年。08年と全国大学選手権2連覇に導く

<プロフィール>
取材・文/小山田裕哉
撮影/村上悦子