写真左:出口治明(ライフネット生命保険 会長)、右:津田大介さん(ジャーナリスト)

写真左:出口治明(ライフネット生命保険 会長)、右:津田大介さん(ジャーナリスト)

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『働く君に伝えたい「お金」の教養 ~人生を変える5つの特別講義~』の出版トークショー後編。出口治明(ライフネット生命会長兼CEO)が本の中で「人生を豊かにしてくれる3本柱」と述べている「人・本・旅」について、ジャーナリストの津田大介さんがどんどん掘り下げていきます。(前編はこちら)

■旅で見えてくる「教科書に載っていない歴史」

津田:本の中で、人生を豊かにしてくれる3本柱として「人・本・旅」と書かれていて、自分のことと重ねながら読みました。「人」でいうと、僕が大学生向けに講演する時には「人に会いなさい」と言っています。大学生には特権があるからです。例えば社会人が忙しい経営者に「会いたい」とお願いしても、普通は断られる。でも大学生に「会いたい」と言われて断るのはちょっと罪悪感があるので、比較的会ってくれますよね。

出口:突然電話がかかってきても「学生ならしょうがないか」となりますね。僕のところにも「ベンチャーをやりたい」という人が相談に来ますけど、仕事に差し障りない範囲で会うようにはしています。

津田:若い人と会って、出口さんが得るものもありますか?

出口:得るものというより、面白い話が聞けるんじゃないかとワクワクしますね。面白い話はめったにないですが(笑)、面白い話を聞けたら得した気分になれます。それに、「会いたい」と言われるうちが花だと思います。ライフネット生命のことももっと皆さんに知ってもらいたいので、10人以上集まる場所でしたら全国どこへでも講演に行くようにしていますよ。

津田:2つめの「旅」についてうかがいます。ズバリ、旅の魅力はどこにありますか?

出口:旅というのは、何も海外旅行のようなものばかりではありません。身近なところにも旅は常にあります。僕は31歳くらいの時に日本興業銀行(現みずほ銀行)に1年間出向して、銀行員としてアナリストの仕事をしていました。その時の上司に、「BS(バランスシート)やPL(損益計算書)、キャッシュフローを見てばかりいても会社のことはわからんぞ」と言われた。「工場に足を運んで、そこで働く人の表情を見て、機械がちゃんと動いているかを見てこい」と。そこで、現場に行ってみたらとても面白い。「レポートに書いてあった新しい施設はこれなんや」と感動もするし、理解もする。「百聞は一見にしかず」は正しいと思いました。

津田:『半沢直樹』みたいですね(笑)。僕は2009年に『Twitter社会論』という本を書いたら話題になって、「使い方を教えてほしい」と地方からよく呼ばれるようになりました。だいたい泊まりになりますが、地元の人とご飯を食べながらその土地の歴史を聞くのが面白い。最近も福島に行っていろんな話を聞きました。原発のある双葉町の町名は、楢葉(ならは)郡と標葉(しねは)郡が合併する際2つの葉っぱだからということで便宜的に付けた名前なんですね。

双葉郡になったことから来ているんですが、標葉と楢葉はもともと藩が違って文化的にも違ったバックグラウンドを持っているので対抗意識が強くて、今でも町の運動会では「あっちの地区の奴には負けるな」というような意識があるそうなんです。そういうことを知ると、原発のニュースだけでは見えてこない地域の特性が見えてきて面白いなと。

出口:どんな地域でも、人間は昔のことを忘れない動物ですからね。

津田:長州藩と会津藩の仲の悪さが今も続いていることも有名ですよね。山口に行った時に「会津の人とは結婚するな」という話が今もあると聞いたんですが、会津に行った時にも名残を見つけました。鶴ヶ城に入ると展示室に、「明治維新はテロリストが起こしたクーデター」と書いてあったんです。違う視点での歴史を学べるのが、「人・旅・本」の面白さだと思いました。旅慣れしていない人に向けて、出口さん流「旅を楽しむコツ」みたいなものがあれば教えていただけますか?

出口:どこへ行くのにも、週末その辺をブラブラしているのと同じ格好で出かければいいと思います。海外でも同じです。外国は言葉が通じないから怖いという人がいますが、京都に行きたい時に切符売り場でわざわざ丁寧に「私はこれから京都に行きたいので往復乗車券を2枚売っていただけますか?」とは言いませんよね。「京都2枚」と言えば切符が買える。

海外でも「ローマ、2」などでいいのです。それでニ等車になってしまうかもしれませんが(笑)。外国語ができるのに越したことはありませんが、できるまで待っていてもしょうがないので、行きたいと思った時に行けばいいと思います。レストランでも「メニュー」だけ言えばメニューを持ってきてくれますし、わからなかったら隣の人を見て、「あれ」と言えばいい。難しく考える必要はないです。

■歴史に名を残す人には必ず面白エピソードがある

津田:3つめの「本」でいうと、先ほど歴史の話もしましたが、歴史マニアとしても知られる出口さんはいつごろから歴史本をお読みになっているんですか?

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出口:中学校からです。

津田:歴史って、好きな人はたくさん本を読む一方で、授業だけで終わってしまう人も多いと思います。「そんなことを学んで何の役に立つの?」と思う人も少なくない。出口さんが、「歴史は仕事に役立つ」と思ったのはいつ頃ですか?

出口:僕は面白いから読んできただけです。人間というのは面白い動物ですが、その中でも歴史というのは、面白いエピソードがあるから後世に名が残っている。ただ、面白いから読んでいるというだけでもいろんなことがわかるようになってきて、世の中を見る目は大きく変わりましたね。

津田:出口さんは読書家なので歴史以外の本もたくさん読まれていると思いますが、だいたいどのくらいのペースで読まれていますか?

出口:昔は週に10冊弱でした。今は仕事が忙しくて週に3~4冊です。

津田:読むのは寝る前ですか? 移動の時とか?

出口:僕は寝ることと食べることが好きで、その次に本を読むのが好きなので他のことはやめました。テレビはほとんど見ませんし、ゴルフも1度やったのですが、すごく時間がかかるのでやめました。

■好きなことに投資すべきか、向いていることに投資すべきか

津田:好きなことに投資するのがいいか、向いていることに投資したらいいのか。才能と好きなことが一致しないことについて、若い人からよく質問を受けるのですが、出口さんはどう思われますか?

出口:スポーツをやっている人は自分の限界というものがわかると思います。僕も陸上部で100メートル11秒台を目指していたのですが、どう頑張っても12秒フラットまででした。これは持って生まれた才能だから仕方がありません。がんばったからといって、ウサイン・ボルトみたいにはなれません。好きなことというのも同じで、ある程度までやれば、これでご飯が食べていけるかどうかがわかると思います。無理なら趣味でやっていけばいいと思います。

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津田:僕は大学4年の時に就職で悩んでいました。自分の好きな音楽の道に行くか、高校の時に新聞部だったのでモノ書きになるか。音楽のほうはバンドのオーディションで最後の8組まで残って、優勝すればインディーズデビューだったんですが、結局そこで落ちました。それなりに評価はされたことはわかったけれども、「こんなものか」ということもわかった。音楽よりモノ書きになったほうがいろんなことができると思って、音楽はスパっとやめました。

出口:好きなことって一所懸命やるからよくわかるんですよね。「もう伸びないな」とか、「まだまだ行ける」というのが。スポーツは記録でわかる。音楽だったら人に聴いてもらってわかる。人間というのは自分ができることとできないことがわかる動物だと思います。仮に1番好きなことがダメだったら、次は2番目に好きなことに投資すればいいのではないでしょうか。

津田:「好きなことが見つからない」という若い人も少なくないのですが。

出口:好きなことがわからないと言って悩む人は、不勉強だと思います。「自分以外の他の人はやりたいことがわかっている。自分だけがわからず悩んでいる」というあり得ない前提の中で生きているからです。本当はそんなことはなく、歴史上でみれば、人間の99%は偶然で選んだ仕事のままで一生を終えています。

津田:僕も2011年の震災の時に、「一生やるべきことはメディアの仕事だ」とわかるまでは、わかっていなかった。当時30代後半でした。20代でやりたいことが見つかる人はラッキーですよね。

出口:僕も若い頃は何がやりたいのかなんて全くわかりませんでしたよ。司法試験に落ちて行くところがなくて、人の紹介で入ったのがたまたま日本生命でした。

■人生の楽しさは「喜怒哀楽の総量」で決まる

津田:好きなことがある人は好きなことに投資する。好きなことが見つからない人は、見つかるような勉強をする。それが人と会うこと、旅をすること、本を読むことなんだと思いました。では自分の好きなことへの投資というのは、預貯金や収入に対して何割くらいと考えておくのがよいとお考えですか?

出口:貯蓄は手取り給与の半年くらいあればいいと思います。それだけあればとりあえず飢え死にはしないでしょう。その上で、「なくても困らないお金」を投資に当てる。手取りが20万円で、毎月15万円で生活できるという人なら、残りの5万円で投資をするということです。

津田:無意味な貯蓄をするよりは、割り切って使っていくことが大事なんですね。

出口:人と会うために飲み代に使ってもいいですし、語学学校に行ってもいい。自分が心底「いい」と思ったものにお金を使えばいいと思います。

津田:仕事の浮き沈みや困難を、出口さんは楽しめるほうですか?

出口:晴天の日ばかりだとそのありがたさがわかりませんけど、土砂降りの翌日に晴れたら嬉しいでしょう。僕は人生の楽しみって「喜怒哀楽の総量」だと思うのです。女性と付き合って幸せの指数が100になったとします。振られて0に、新しい人が見つかってまた100になると思うかもしれませんが、僕はそうじゃなくて200になると思うのです。
ベースが少しでも右肩上がりなら問題ない。一喜一憂せずに、毎日を過ごしていければいいと思っています。

『働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義』 (ポプラ社)出口治明著

『働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義』
(ポプラ社)出口治明著

<プロフィール>
津田大介(つだ・だいすけ)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。京都造形芸術大学客員教授。IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)など。テレビ・ラジオのレギュラー出演や役職も多数。週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
津田大介公式サイト

<クレジット>
取材・文/香川 誠
撮影/村上悦子

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