田原:「ミューぽん」に掲載していただくのに、美術館の方には個別に交渉します。だんだん「ミューぽん」の認知が広がってきて、美術館の方から「載せたい」と声をかけて下さるようになってきました。いまは40本くらいのイベントが載るようになっています。

ユーザーの方には、「ミューぽん」がきっかけで「TAB」を知りました、という方も意外と多くいらっしゃいます。割引だから使ってみたい、というモチベーションにはなりますよね。

美術展の割引クーポンアプリ「ミューぽん」。1年毎の売り切り。会場入口で、上のジップを引っ張ると、点線から割引券がもぎられる。

美術展の割引クーポンアプリ「ミューぽん」。1年毎の売り切り。会場入口で、上のジップを引っ張ると、点線から割引券がもぎられる。

富田:アプリを作る本人たちが、いちばんクーポンを使いたい気持ちがあるんです。せっかく紙のクーポンをどこかでもらっても「あぁ、今日持ってきていない」という経験もあって、いつも持ち歩くスマートフォンのアプリがいい、ということになったんです。ウェブサイトもアプリも情報掲載自体は無料で、実際に見に行きたいと思う人への告知になる、ということで美術館の方からも評価をいただいています。

──TABにはなるべく網羅的にいろいろなアート・デザインイベント情報を載せるスタンスとのことですが、「これはアートなのか、載せるべきなのか」という線引きは、どういうところにあるんですか?

富田:それは難しくて、迷うこともよくあります。情報を入力する過程で、チーム内で話し合うこともあります。いちばん大事なのは、それがTABに載って私たちが見に行きたいかどうか。例えばそれが音楽やパフォーミングアーツの分野であっても、アーティストやデザイナーが関わっているようなものであれば、それがきっかけで見たいと思う人がいるかも知れないですし、そういうものは載せましょうとか、書道でも人気のある方のものは人も集まりますし載せましょう、など。あげたらきりがないくらい、美術は色々なジャンルと接しているので、情報の幅が広く、私たちも勉強になります。

■これまでの10年、これからの10年

──「Tokyo Art Beat」を通して、いわば東京のアートシーンを定点観測しているようなお立場だと思いますが、ここ数年でアート界に何か変化は感じられますか?

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田原:見る人の体験の仕方が変わってきたと思います。ソーシャルメディアが広がって、クチコミが見に行くきっかけになったり、実際に美術展を見た人が「あの展覧会は良かった」とか、体験をシェアすることで情報が伝わっていくようになったのが大きな変化ですね。

もうひとつは、いろいろなアートスペースが増えたことです。アーティストが運営しているスペースだったり、コレクターが好きで作ったり。

富田:以前、バブルの頃に企業が美術館を持ったのとは別の形で、企業がアートイベントのスペースを持つようになってきました。もっと気軽に無料でアートに触れる場所です。特にファッション界では顕著で、表参道のルイ・ヴィトンや銀座のエルメスなどもそうですね。

──2020年の東京オリンピックは、スポーツだけではなく、文化の祭典でもあると言われていて、ますますアートのバイリンガル情報が大事になってくると思いますが、将来に向けてどういうことを考えていますか?

富田:2020年になっても、みなさんに愛用してもらえるメディアでありたいです。これまで10年間、ボランティアベースから始まり色々な方の支えによって続いてきたことを止めずにさらにその先も続けていけるように。そして、東京になくてはならないメディアだと思っていただけるように発信し続けます。

田原:最初はウェブしかなかったですが、ツイッターやフェイスブックができてきたことを考えると、10年後は今と同じ形態でやってはいないと思うんですよ。その変化に対応していきたいですね。

あとは、日本にもいい作家がいっぱいいるんですが、これまでは、それをどうやって世界に発信していくかというところで、作家本人だけではなく美術館やキュレーターも苦労してきていると思うので、そこをメディアとして後押ししていけたらいいなと思います。

●Tokyo Art Beat

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン編集部
撮影/鈴木慎平