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最近、仕事が忙しいビジネスパーソンほど、運動をよくしていると耳にするようになりました。中でも、トライアスロンや100kmマラソンなどのエクストリーム(過酷)なスポーツに参加する人が年々参加者が増加しています。

一方で、いざ運動にトライしてみたものの、仕事が忙しくて習慣化できないと嘆く人が多いのも事実。ワークライフバランスに悩む人が多い中、エクストリームスポーツにハマる人々はどのようにして仕事や家庭、運動(趣味)などを両立しているのでしょうか?

ベンチャーキャピタル「インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ」の共同代表を務める小野裕史さんは、その名も『マラソン中毒者(ジャンキー)』という著書がある人物です。ベンチャー投資家として活躍するだけでなく、北極や砂漠といった過酷な土地のマラソン大会にも参加するなど、超エクストリームなスポーツに挑戦し続けていることで知られています(写真は2011年にサハラ砂漠250kmマラソンを完走した際のもの)

そんな小野さんも、実は35歳まで運動経験ゼロ。あるときに突然マラソンに目覚め、それから、人生が一気に変わってしまったというのです。そのきっかけとは、そして「継続」のコツとは何なのか? 

ライフネットジャーナルオンラインでは、エクストリームスポーツには実は仕事上のヒントがうまっているのではないか?という仮説をもとに、前回の「なぜ一流のビジネスパーソンはトライアスロンにハマるのか?」に引き続いて、小野さんにうかがいました。

■「できるかできないか」を考えず、とりあえず申し込んでみる

──決して運動が得意なタイプではなかったと著書に書かれていましたが、それでも運動をしてみようと思ったきっかけは?

小野:僕は2009年に35歳でランニングを始めるまで、ほとんど運動をしたことがなかったんですよ。中学、高校と部活は吹奏楽部でしたし、大学では院に進むほど研究に没頭していました。就職したのは大手コンピューターメーカーで、すぐにネットベンチャーに転職。そこからはずっと忙しくて、運動する必要性も感じていませんでしたね。

小野裕史さん

小野裕史さん

──それでも運動をしてみようと思ったきっかけは?

小野:インターネットが大好きで、オンラインゲームが趣味だったんです。典型的なインドア派のライフスタイルだったんですけど、そんな生活を35歳まで送っていたら、さすがにメタボになってきまして。そこで少しでも体を動かそうと、ゲーム機の「Wii Fit」を買ったんです。「ゲームをしながらダイエットできたら最高」と思って(笑)。それがすべてのきっかけでしたね。

まったくスポーツをしていなかった頃の写真

まったくスポーツをしていなかった頃

僕は飽きっぽい性格で、「Wii Fit」は楽しかったんですが、自宅で運動しているだけだと飽きてしまったんですよ。それでせっかく運動をする気になったのだから、外に出て走ってみようと思いました。そうやってウォーキングから始めて、次第にジョギング、ランニングと走る距離を増やしていって、フルマラソンにまでたどり着いた。そういう具合にハマっていったんです。

──でも、ほとんど運動が未経験だったのに、どうしてそんなに継続できたんですか?

小野:それは「ノータイムポチリ」ですね。

──「ノータイムポチリ」?

小野:友人が僕の行動を見て勝手に名付けた言葉なんですが(笑)、何か面白そうなことがあったら時間をかけずに、ノータイムでポチッとやってしまう。そんな軽いノリで一歩を踏み出してみるっていうことです。

僕は運動をしてみようと思ったときに、すぐにスポーツ店に行ってランニングシューズを買ったんです。そうすると、せっかくシューズを買ったから歩いてみようとなるわけです。そしてランニングを始めたそのときに、今度は3か月後のフルマラソンに応募したんです。これも後輩が挑戦したと聞いたときに、「だったら自分も」と軽い気持ちでポチッとエントリーしたんですね。

──つまり、できるかできないか考えないで応募した。

小野:そうです。もちろん、フルマラソンなんて走った経験はないですよ。でも応募してしまえば、なんとか完走する方法を考え始めるんです。そうやって3か月の間にどんなトレーニングが必要か組み立てて、ひとつひとつこなしていきました。

──初のフルマラソンは完走できたんですか?

小野:完走できましたね。30kmを過ぎたくらいから足やお尻がつり始めて、めちゃくちゃ大変でしたけど(笑)。でも走り切ったときの充実感がすごかったんです。「やってみたらできるじゃないか!」っていう達成感がうれしすぎて、終わったときにはもう次のことしか考えられませんでした。それで、その日のうちにまた別の大会にポチッとエントリーしたんです。以降はずっとこれの繰り返しですよ。

──ひとつハードルをクリアするたびに、もっと高いハードルに挑戦したくなったと。その結果が、北極や砂漠へのマラソンに行き着くわけですね。

小野:ええ。趣味で始めたランニングがどんどんエスカレートしていって、11か月後には磐梯高原で100kmマラソンに挑んでいました(笑)。それも全部「ノータイムポチリ」だったからできたことです。

エントリーする前に「できるかできないか」考えていたら、大会に応募していなかったかもしれない。でも「できない理由」が思い浮かぶ前にポチリすることで、「どうやってできるのか」というHow toを考えるようになるんですよ。

北極にも南極にも「ノータイムポチリ」で行きました

北極にも南極にも「ノータイムポチリ」で行きました

■先にゴールを決めることでタイムマネジメントが身に付く

──100kmマラソンのような過酷なスポーツは、ビジネスにも良い影響を及ぼすのでしょうか?

小野:仕事ができる人って、目標設定の仕方がうまい印象があります。漠然と「すごいことをやりたい」と言う人はたくさんいますが、何かを成し遂げる人は、明確に「いつまでに何をすべきか」イメージできる人が多い。

しかし、それがすぐに達成できる目標だったら成長につながらないですよね。だから、「ちょっと無理そうなこと」をあえて目標に設定することで、自分の能力を向上せざるを得ない状況にもっていくんです。

そして、その無理そうな目標をクリアするために、具体的な工程にブレイクダウンしていくわけです。エクストリームなスポーツに挑戦することで、そういうビジネスにおけるコツみたいなものを擬似的に体験できるという側面はあるのではないかと思います。

2013年にはブラジルのジャングルマラソンにも挑戦しました

2013年にはブラジルのジャングルマラソンにも挑戦しました

──なるほど。過酷なスポーツは、細かい目標をクリアするためのトレーニングを重ねることで、「仕事ができる人」のライフスタイルを身につけることができるわけですね。

小野:アスリートとしてお金をもらっているわけではないですから、仕事の合間にうまく時間をやりくりしてトレーニングしていかなければならない。僕なんて、忙しい時期は会社まで走って通勤していましたからね。

ゴールを先に決めてしまうことで、そこにたどり着くためのタイムマネジメントが身につく。僕はマラソンをやるようになったことで、こうした「仕事ができる人のロジック」が習慣化できるようになったと感じています。

──ちなみに、今は毎日どのくらい走っているんですか?

小野:朝ごはんの前に11kmくらい走るのが日課になっています。朝に走るのはおすすめですよ。いろいろ悩むことがあっても、脳が活性化してポジティブに物事を考えられるようになるし、ラン中は体に余裕がないので余計なことを考えられなくなるから、思考もシンプルになっていきます。気持ちいい1日のスタートが切れますよ。

■すごい人たちも、最初はみんな「普通の人」だった

──お話を聞いていると、6年前まで運動経験ゼロだったとは思えませんね。

小野:でも、どんなスポーツ選手だって最初はみんな普通の人だったと思うんですよ。そこから目標を持って努力することで、一歩ずつ登り詰めていった。それはビジネスだって同じです。たとえばGoogleもFacebookも、初めからすごい企業だったわけじゃなく、小さな成功体験を積み重ねることであそこまでの企業になったわけです。

大人になって知識があると、いろいろと「できない理由」を考えてしまいます。でも子供の頃は「できない理由」なんて考えず、がむしゃらに挑戦していた。その感覚を取り戻せば、できないことなんてないと思うんです。

──そのための方法が「ノータイムポチリ」ですか。

小野:ノータイムですから、できない理由を考える時間がない(笑)。興味を持ったら何でもポチってみる。そうすることで、ちょっと無理そうな目標でも物事がやる前提になり、「どうやったらできるのかな?」と考えるようになります。

そこで重要なのは「発信と共有」です。たとえばマラソン大会であれば、心の中だけで「やる」と決めずに、周囲に「3か月後のフルマラソンに出場する!」って宣言してしまうことです。

──自分で逃げ道をなくすわけですね。

小野:これはビジネスでもそうですが、成長には「見られている」という感覚が欠かせないんですよ。やらざるを得ない環境に自分を追い込むことで、いつも以上のパフォーマンスを発揮できる。「3か月後のフルマラソンに出場する!」「売り上げ●●千万を達成する!」と宣言してしまうことで、よりいっそう「どうやったら実現できるのか」と真剣に考えるようになります。そして、それがクリアできたら確かな自信につながっていく。エクストリームなスポーツもビジネスも、すべてはその積み重ねなんですよ。

『マラソン中毒者(ジャンキー)』(文藝春秋)

『マラソン中毒者(ジャンキー)』(文藝春秋)

<プロフィール>
小野裕史(おの・ひろふみ)
1974 年北海道生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了。院生時代より個人でモバイルメディアを複数プロデュースし、2000 年より株式会社シーエー・モバイルの創業に関わる。2008 年1月に株式会社シーエー・モバイル専務取締役を退任し、インフィニティ・ベンチャーズLLPを共同設立。 グルーポン・ジャパン、サンシャイン牧場のRekoo Japanなど、国内外にてベンチャー投資を行うとともに、自ら投資先企業の経営に参画し事業創出を行う。35年間運動ゼロながら、2009年より突如ランニングを始め、北極、南極、砂漠、日本横断など世界中のレースを完走している

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
写真提供/小野裕史

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