髙田明さん(V.ファーレン長崎代表取締役社長・ジャパネットたかた創業者)

■サッカーを通じて交流人口を増やしたい

──今年5月12日の長崎県諫早(いさはや)市での対名古屋グランパス戦、5月19日、新横浜での対横浜F・マリノス戦と2度、髙田社長のスタジアムでの1日を見せて頂きました。ホーム戦、アウェイ戦とも、キックオフの4時間ぐらい前からスタジアムを歩き回って、お客さんと交流されているのが印象的でした。

髙田:北海道で行われた対コンサドーレ札幌戦だけは行けなかったんですが、それ以外はアウェイにもお邪魔しています。何百人もの方と写真を撮ったり、お話ししたり、自分のチームだけでなく、相手方のサポーターのみなさんと積極的に交わることを心掛けています。

──髙田社長はホーム戦のとき、相手方のサポーターの人たちと懇親会をなさったり、意見交換をされているとニュースで読みましたが、これまでにない新しい取り組みですね。

2018年2月18日、Jリーグ開幕を前にして、長崎市で開幕激励パレードが行われた。J1に昇格して、多くの県民のみなさんの祝福を受ける晴れがましい一日となった

髙田:いや、意見交換なんて大それたことじゃないんですよ。長崎に他チームのファンの方たちがいらしたり、長崎からも応援に出かけて行ったり……V・ファーレン長崎のサポーターがアウェイ戦に応援に行く人数はまだまだですが、この前の横浜F・マリノス戦では関東在住のサポーターの方も含めて900名ぐらい来て下さいました。そうやって双方で行き来して交流することで、サッカーファンをますます増やしていきたいと思います。

──社長の姿を一人が見つけると、あっという間に人が集まって来るんですね。1メートルずつしか進まなくなって、大写真撮影大会が繰り返されていました(笑)。

髙田:「ジャパネットでたくさん買ってるよ!」と言われると、弱いもんですから(笑)。まあ、それは冗談ですけれども、私は頼まれたら、写真やサインはお断りしないんです。それでも急いでいる時は、列の最後の2、3人の方を残して、失礼せざるを得ないことがあります。そうすると、頭にそれが焼き付いて、「あそこで撮り損ねた2人、3人の方たちは今頃、どんな気持ちでいるだろう」と思うと、夢に出てきたりするんですよ。

新調されたユニホーム。胸から背中にかけてのオレンジの部分は、長崎県の地図になっている(2018年1月、ユニホーム発表会にて)

セレッソ大阪戦のときは、マスコットのヴィヴィ君と私とがみなさんに囲まれて、動けなくなりました。気遣ったスタッフが「どうか集まらないでください!」と誘導しようとしましたが、「そう神経質にならないように。こういう交流が大事なんだから」と伝えました。

ですから、長崎に来てくださった対戦相手のサポーターの方たちに対しては、「今日はよく来てくださいましたね。ありがとうございます。何か不便なことはありませんでしたか」とお尋ねする気持ちなんです。

■サッカーチームに地域の名前が入っている意味

──社長に付いて歩くだけで、こちらは息が上がりました。いつも笑顔で、一人ひとりの方と言葉を交わして……なかなかできないことだと思います。

髙田:前回、サッカークラブも通販も、経営においては全く変わらないと申しましたが、私はサッカーの専門家ではないんです。その意味では“初心者”です。V・ファーレン長崎のマスコットのヴィヴィ君が大変な人気で、グッズもよく売れていると報告を受けたので、「それなら(ヴィヴィ君を)100体ぐらい作って、スタジアムのあちこちに立たせておいたらいいんじゃないか?」と提案したら、ヴィヴィ君は複数いては駄目らしいんですね(笑)。

──有名なテーマパークのキャラクターみたいですね(笑)。

2018年4月27日、オフィシャルショップ「V・VAREN PORT」オープン。マスコットのヴィヴィ君も社長と一緒にみなさんにごあいさつ

髙田:去年の夏、暑い盛りにヴィヴィ君と一緒に回っていて、みなさんに「ヴィヴィ君はこんなに暑いと、中に入っている人が倒れてしまうので、10分間しか保(も)たないんですよ」と言ったら、周りに止められまして。

ヴィヴィ君は人間ではないんだから、そういうことは言ったらいけないんだと。ヴィヴィ君自身も慌てて、手を振って「違う違う」と否定していましたが(笑)。それぐらいに、知らないことが多いんですね。

サッカークラブの社長として、ライバルは野球だと思っています。野球に追い付き、追い越せ。やはり野球は歴史も長いですし、日本人の生活に根付いていて、女性や子どもたちも含め、広く親しまれています。

サッカーのJリーグと野球の何が違うか? Jリーグのチームの名前には、地域名が入っているでしょう? つまり、Jリーグのサッカーチームは全国に54チームあり、全国の地域の人たちと共にあって、全国の人たちを幸せにする使命があるんです。

──J1に昇格して、新調したV・ファーレン長崎のユニフォームのオレンジ色の部分は、長崎県の地図になっているそうですね。

髙田:そうです。選手たちは長崎県民全員の期待を背負って、試合する。また、全ての長崎県民が一丸となって、V・ファーレン長崎を応援する。

V・ファーレン長崎の旗印のもとに集まるのは、長崎県内の方とは限りません。北は北海道から南は沖縄まで、全国いたるところに長崎県出身の方がたくさんいらっしゃいます。

「うちはお祖父さんが長崎の人だったんです。」とか、「主人の仕事の都合で、長崎から北海道に嫁いで40年たちます」というように、全国の長崎にゆかりのある方たちが、試合に足を運んで下さるんです。そして、V・ファーレン長崎のユニフォームを着て、故郷の人たちと一緒に応援して下さる。これはうれしいですよね。

2018年4月25日、対ジュビロ磐田戦。アウェイのスタジアムでも、行く先々で髙田社長の周りには人だかりができて、写真撮影会が始まる(静岡県磐田市ヤマハスタジアム)

望郷の念はそれほど強いものです。こちらも熱い思いを受け止めつつ、そういう方たちをも巻き込んで交流を広げていきたいと思っています。サッカーには夢があります。

■「初心」とは自分の未熟さのこと

──W杯の中断期間が終わって、Jリーグも再開されましたが、サッカーは勝負の世界。勝ったり負けたり、結果がはっきり目に見える厳しい世界です。高田社長がまさに激務というべき仕事を毎日、続けられる中で、大事になさっていることはどんなことでしょうか。

髙田:つねに「初心」に戻ることですね。

──初心忘るべからず、のですか?

髙田:そうです、これもじつは世阿弥(ぜあみ)の言葉なんです。

「当流に、万能(ばんのう)一徳の一句あり。初心忘るべからず」

初心忘るべからずというと、もっぱら、物事を始めた頃の謙虚で新鮮な気持ちを忘れずに、日々精一杯つとめなさいよ、という意味で使われますが、初心とは若さに限ったものではなく、世阿弥は“芸の未熟さ”を初心と言い表しています。

「是非の初心を忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」

ここには3つの初心について説かれています。修業を始めた頃の初心=自分の芸の未熟さを忘れてはならない。時々の初心は、年を重ね、修業をしていく上で直面する、その時々の辛さや芸の難しさを痛感するという意味での芸の未熟さ。そして、老年を迎えたときの初心も忘れてはならないと世阿弥は言っているんです。

──老年にも初心があるのですね。

初のバトルオブ九州では、サガン鳥栖の竹原社長とトークショーを開催。「たくさんのお客様に来ていただくためには、私は大航海時代のポルトガル人、竹原さんは吉野ケ里遺跡にちなんで縄文人の格好で登場して、みなさんを楽しませるぐらいでないと」と語った(2018年3月3日、諫早市トランスコスモススタジアム)

髙田:その通りです。10代、20代の若いみなさんだけでなく、60代の私にも、初心があると。70代にも80代にもあります。その年ごとに初心というものは存在する。世阿弥は能という芸について語っていますが、これは人生における「初心=いまの自分の未熟さ」と捉えることができると思いますね。

自分の未熟さを自覚する、初心があるということは、これから進歩する、自分を高めていける余地があるということに他なりません。なにしろ未熟なんですから、努力すればもっと良くなれるんですからね。

世阿弥は初心さえ忘れなければ、人間は仕事においても人生においても、いくつになっても成長して行けると教えてくれているんです。

──「初心へ還る」とも言いますね。

髙田:いつもおごらず、慢心しかけたら、自分は未熟であることを思い返して、自らを戒めること。“初心者”であり続ければ、人は死ぬまで伸びていくことができるんですね。

3月に出版した本(『髙田明と読む世阿弥』)のサブタイトルにも付けましたが、「昨日の自分を超えていく」──ライバルは自分です。これは一見、厳しい言葉でもありますが、「昨日の自分よりよくなるぞ」と思って、今日を、今を精一杯生きてみる。私は“今を生きる”という言葉が大好きなんですが、そうして、1ミリでも前に進むことができれば、日々新たに、毎日、自分が更新できるんじゃないでしょうか。

──最近の言葉でいえば、“自分史上最高”ですね(笑)。

2018年3月14日、ルヴァン杯でJ1に昇格して以来、公式戦初勝利! 舞台裏で思わず、V.ファーレン長崎のマスコット、ヴィヴィ君と抱き合う

髙田:その自分史上が大事なんですよ。毎日が自己記録更新。新記録達成です(笑)。そのための努力はし続けなければなりませんが、競争相手は自分なんですから。他人と自分を比べて苦しんだり、「あの人の持っているものを自分は持っていない」とか、必要以上にくよくよ悩んだりすることもないんですよ。

■時の運が自分に向いていないときは……?

──世阿弥はお若いときから愛読されていたんですか。

髙田:もちろん『風姿花伝(ふうしかでん)』を残した人物だということは知っていましたが、自分のメンターにするほど熱心に読むようになったのはそう昔のことではありません。ジャパネットのある社員が転勤になって、私のところにあいさつに来た時、世阿弥の本を持って来たんですよ。「この本には社長がいつも話していることが書かれているように思いました」と言って。

それで読み始めたら、驚きの連続でしたね。世阿弥は能という芸の世界のことを説いているんですが、人に何かを伝えることにおいては、私が長年、テレビショッピングの画面を通してみなさんに語りかけるときに考えてきたこと、また、経営の極意に通じることがたくさん書かれていました。

──「伝えること」は、髙田社長がずっと真剣に考え、実践されてこられたことかと思います。髙田社長の声を聞いたら、何か買いたくなるという域に達するのは、まさに“伝える達人”と呼ぶべきだろうと思います。

近年は仕事においても、コミュニケーションがメールやショートメッセージを使ったものが増え続けていて、肉声を通さない。より正確に伝えることの大切さや難しさを、みなが実感する時代になってきているのではないでしょうか。

髙田:自分では伝えたつもりが、ちっとも伝わらないということですね。自分ではやったつもり、できているつもり……と、この「つもり」というのが問題なんですね。

世阿弥も「非風(ひふう)・是風(ぜふう)」や「一調(いっちょう)・二機・三声(さんせい)」──これは“間(ま)”の大事さですが、伝えることの極意をいろいろ述べています。

私は2016年にテレビ画面から完全に引退した後も、ジャパネットのMC(語り手)の指導だけは自分でやっています。伝えることのお話は少し細かくなりますので、次回にしましょうか。

──はい、ぜひお願いします。

髙田:今日は初心と自己更新のお話しをしました……そうして、自分を日々高めて、一生懸命やっていても、どうしても結果が出せない。周りの状況が自分に利するようにはうまく回らない、という時が必ずあるんですね。世阿弥はそれを「男時(おどき)・女時(めどき)」と言っていますが。その時々の勢いが自分に向いているときが男時、そうでない時が女時。

「去年(こぞ)盛りあらば、今年は花なかるべきことを知るべし。時の間(ま)にも、男時・女時とてあるべし。いかにすれども、能にも、よき時あれば、かならず悪きことまたあるべし。これ力なき因果(いんが)なり」

つまり去年、花が盛大に咲いたとしても、今年はそう花が勢いよく咲かないこともある。時運にも、男時、女時があるように、能の芸にもいいときもあれば必ず悪いときもある。これはもう自分の力ではいかんともし難い、時の流れであり宿命であると──。

世阿弥自身、父の観阿弥(かんあみ)と共に、足利義満の寵愛を受けて、能の第一人者として大事にされていたにも拘(かか)わらず、義満の死後はがらりと情況が変わってしまって、晩年は佐渡に流されて亡くなったと言われています。

『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』(髙田明著、日経BP社)
髙田社長の近著は、世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝(ふうしかでん)』に経営&ビジネスへの姿勢や考え方を学ぶユニークな1冊。毎日、初心に還り、新しいことに挑戦し続ければ、つねに「自分史上最高」が実現できる。人と比べて、くよくよすることもないと読者を励ます

──これだけの大人物であっても、定めにはあらがえないのですね……。

髙田:仕事をしていても、自分ではいつもと変わらず努力しているのに、その努力がどうしても報われなかったり、ビジネスもグローバル化している今日(こんにち)においては、世界の戦争や経済の動きの影響をもろに受けることもあります。でも、そういうときはじっと耐えて、情況が変わるまで辛抱する。いつかきっと、情況がまた変わりますから。

私も「もうこれは駄目かもしれない」と思ったことも幾度となくありましたが、結果としては、何とか乗り越えてこられた。苦境の後ほど、その後にぐっと伸びる契機になりました。

そのためにも目の前のことに一喜一憂せず、本質を見極める力をもつこと。そして、夢を持って、それを達成していく努力を続けることはとても大事だと思いますね。

私は「何か一言、書いてくれませんか」と頼まれると、「夢持ち続け日々精進」と書かせて頂くんですが、いまはサッカーを通して、みなさんと夢を語ることに日々取り組んでいます。スタジアムに集まって下さったみなさんの目の輝きを見ると、「これが平和だ」と思うんですね。

みんなが誰かを幸せにするために仕事をする。サッカー選手もまた、みんなを幸せにするために戦っているんですね。

私はV・ファーレン長崎で目立っているのが社長である髙田明ではいけないと思っています。一日も早く、クラブが独り立ちして、次の人に経営を渡して、私は姿を消す。それを軌道に乗せるまでは、本当は自分が目立ってはいけないんですが、自分が先頭に立って、使命感を持って、ファン作りに邁進(まいしん)していく。今年の目標はこれだと思ってやっているところです。

(つづく)

【前回記事】「僕も、私もきっと出来るはず」 信じる心があれば、情況は変わります/髙田明さん

髙田明さん

<プロフィール>
髙田明(たかた・あきら) 1948年長崎県生まれ。機械メーカーで海外駐在を経て、平戸で実家が営むカメラ店に入社。1986年、佐世保に自社を設立。社長自らラジオやTVで商品を明るくPRするスタイルで、日本一有名な通販会社に。2015年、社長を退任し、2017年、サッカークラブ「V・ファーレン長崎」社長に就任した
●V・ファーレン長崎公式ホームページ
●Jリーグチケット

<クレジット>
取材・文/樋渡優子
写真提供/V・ファーレン長崎

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