髙田明さん(V・ファーレン長崎 代表取締役社長・ジャパネットたかた 創業者)

■年を重ねても色あせないのが “本物の花”

──前回は世阿弥(ぜあみ)の説く「初心(しょしん)」についてお伺いしました。世阿弥のいう初心とは、己の芸の未熟さのこと。つまり、命ある限り、芸には未熟さや自分に足りないところが付きまとう。それを自覚して、“初心に還る” ことができれば、日々新しく、自己を更新し続けていけるというお話しでした。

髙田:そう、初心とは若い人だけのものではないというのが大事なところですね。壮年期の初心、70代、80代になってもその時々の初心があります。“時分(じぶん)の花”……つまり、一時的に咲き誇る若い時の輝きだけではなく、年を重ねても色あせない人だけが “真(まこと)の花”、本物であると。

──その頃は人生50年の時代でしょうから、老年になっても輝きを失わない人が本物という意味でしょうか。

髙田:世阿弥が残した『風姿花伝(ふうしかでん)』は能の秘伝書ですから、世阿弥は芸について語っているわけですけれども、私には人生や経営にも相通ずる点がとても多いと感じます。私がラジオ通販を始めたのは42歳のとき、テレビ通販に進出したのは46歳で、一般的には遅咲きとされるかもしれません。 果たしていまの自分が「真の花」かどうか、自分で判断することは難しいですが、人生最後の時まで初心を失わずに精進していける。世阿弥はその大事さを教え、私たちを励ましてくれているんだと考えるとよいのではないでしょうか。

2018年4月、V・ファーレン長崎の社長に就任してから、約半年でチームがJ1に昇格したことは、多くのニュースに取り上げられた。試合前に集まったマスメディアの質問に答える。(2018年3月3日・対サガン鳥栖戦 諫早トランスコスモススタジアム)

──髙田社長はもうテレビショッピングのお仕事にはまったくタッチされていないんですか?

髙田:番組の制作やMC(語り手)の指導について、時々、相談があれば受けている程度です。今回はそのMCに大切な、伝えるときの「間(ま)」についてお話しします。

──お願いいたします。

髙田:会社の朝礼で、通常はその日の朝礼当番が連絡事項から話し始めるのですが、私の場合、まず「昨日はこういうことがありましたが、どう思いますか」と質問を投げかけます。そしてちょっと黙ってみなに考えさせるんですね。

上に立つ立場になるほど一方的に相手に話しかけたり、指導することが多くなるかもしれません。そういう立場の方は、「いま言ったこと、わかった?」と尋ねながら話を進めていくと良いのではないでしょうか。

■一方的に畳みかけても、相手には伝わりにくい

髙田:30分話し続けたとしても、相手の集中力が続くのは最初の5分くらいです。そんなとき、こちらの意図を正確に伝え、相手の理解をうながす助けとなるのが「間」なんです。 ジャパネットのMCは専門の人を雇っているのではなくて、社員です。MCになる人たちに僕は言うんですよ、「MCには “間” が大事なんだよ」と。指導を受けて最初は間を意識していても、やっているうちに、いつの間にか忘れて元に戻ってしまって、一方的にお客さまに語り続けているということもあります。

──どうしてそうなってしまうのでしょう?

髙田:「この商品の良さを伝えたい」と一生懸命になるからです。

2018年4月28日のサンフレッチェ広島戦は、「平和祈念マッチ」と銘打たれた。“V・ファーレン” のチーム名には、オランダ語の “平和” という言葉を取り入れている。「長崎を “最後の被爆地” にするという平和への想いを込めて、選手たちは試合に臨みます」(サンフレッチェ広島の山本拓也社長と)

──一生懸命ではダメですか?

髙田:一生懸命になりすぎるから、と言うほうが正確かもしれませんね。自分は熱意を込めて、「この商品を売ろう」「商品の良さをできるだけたくさんお伝えしよう」と思って、熱弁をふるったとしても、画面の向こうにはお客さまがいらっしゃることをつねに意識しなければなりません。

たとえばリビングでくつろぎながらテレビショッピングをご覧になっているお客さまがいらっしゃるとしたら、一方的にどんどん畳みかけるように説明されても、考える暇がないのではないでしょうか? そこで「間」が生きてくるんです。適度な間をとりながら、お客さまにその間、「なるほど、ほかにどんな機能があるんだろう」「我が家にも必要なものかしら」と色々考えてもらいながら、画面を挟んでコミュニケーションをしているんです。

商品のチラシもそうですが、「余白」が大事です。何もかもいっぺんに詰め込みすぎると、逆に印象が弱くなります。的を絞って、要点をまとめて伝える。アメリカのアップル創業者のスティーブ・ジョブスさんはプレゼンテーションの時、画面に映し出す言葉を、英語では140語(日本語では70字程度)以内に絞っていたそうです。これも同じ心だと思います。

■「間」をとることで、予想外の効果が生まれる

2018年5月、『髙田明と読む世阿弥』の出版を記念して、長崎市の書店で初めてのサイン会を行った。

──コミュニケ―ションの極意は、相手に考える隙間を与えるということですね。インタビューでもふと「間」があって、黙った後に話し出されたことがとても重要なことであることが多いです。

髙田:間をとるとは、次の有を生み出す無であるという趣旨のことを言われていた方がいます。そういうときに、ふっと肩の力が抜けて、心が動き出すんですね。世阿弥は「動十分心(どうじゅうぶんしん)、動七分身(どうしちぶんしん)」と言っています(『花鏡』)。

「『心を十分に動かして、身を七分に動かせ』とは、(中略)指し引く手を、ちちと、心ほどには動かさで、心よりうちに控ふるなり」――能の差し引く手などの動作を、心を十二分に動かすほどには動かさず、ほんの少し、心より控えめにするところに興趣が生まれる。

十分に稽古した心を保ちつつ、あえて演技は7割程度におさえ、控えめにする。表に表れなかった残り3割の余白が、われわれの予想を超えた効果を生むということを世阿弥は言っています。

サイン中も一人ひとりと言葉を交わす。名前のほかにひと言、求められたときには、「夢持ち続け日々精進」と書き記す。

──その控えめにするということは、余裕ある態度でもありますね。日本人ならば腑に落ちる心の持ちようですね。

髙田:それから、伝え方のポイントの一つとして、世阿弥は「一調二機三声」という言葉を残しています。

声の高さ、張り、スピードなどを心と体の中でまず整えるのが一調です。そして、声を出すまでに「間」をとり、最適なタイミングをはかるのが二機。それから、ようやく声を発する(三声)。

これも、私がテレビショッピングの中で大切にしてきたことの一つでした。

■経営者に向いている資質とは?

髙田:前回もお話ししたように、私が世阿弥に熱心に親しむようになったのは、それほど昔のことではありませんが、私が長年、ラジオやテレビショッピングで日々考えて、実践する中で試行錯誤してきたことを、世阿弥がずばりと言い当ててくれていることに感動し、夢中になったんです。

──髙田社長はとてもチャーミングな方であることはみなさんご承知だと思いますが、ご自分では特にどういうところが経営者に向いていると思われますか?

チームのマスコット、ヴィヴィくんは大人気。手にしているのは、グッズのヴィヴィ水400円。スタジアムを歩いていると、「小さなヴィヴィくん人形を作って下さい」と声をかける若いお客さんも。

髙田:そうですねえ。過去を思い悩まず、将来を案じ過ぎず、ただ、今を200%、300%の気持ちで生きることを日々繰り返しているところでしょうか。また、知らない分野や事柄でも、その専門家や詳しい方にお聞きすると、わりとすっと掴(つか)めるほうではあると思いますね。でも、仕事以外では、わかっていてもどうしようもないこともありますよ。

たとえばゴルフ。一定以上、スコアが上がらないのは、レッスンプロの教えどおりに素直にやらないからだとわかってはいるんです。それと体幹を鍛えるとか日頃から歩くとか、ゴルフをやるために必要な基本的な体づくりですね。

ゴルフに関しては、人の意見よりも自分の考えで動くところがまだ多くて、プロから言われることをやった方が良いのは頭ではわかっているんだけれども、なかなか修正できません(笑)。

■サッカーを通じて、長崎の魅力と平和を発信

忙しい合間を縫って練習場へも足を運び、選手たちと言葉を交わす。

──髙田社長にもできないことがおありになるんですね(笑)。

サッカーに関して、「サッカーには夢がある」とSNSでも繰り返し発信されていますが、J1の中で、V・ファーレン長崎は東京から遠い場所にあるチームです。関東近辺にあるチームに比べて、集客の点では不利なのではないでしょうか?

髙田:じゃあ、こう考えてみて下さい。長崎から東京ディズニーランドに遊びに行くとき、出費はいとわずにみな行くでしょう? それはそれだけの魅力を感じているからに他なりません。

スタジアムで対戦相手のサポーターの方たちとお話しするとき、必ず、「どこに泊まられますか?」「何泊なさいますか?」と尋ねるようにしています。長崎にはたくさんの観光地があります。サッカーを観て、泊まって、島巡りをしたり、おいしいグルメを楽しんだりするお客さまが一人でも増えればと願っていますし、長崎はそれだけの魅力を持った県だと思っています。

──長崎は、先日、潜伏キリシタンの関連遺産が世界遺産に登録されました。また、世界的にも長崎と広島はよく知られています。

髙田: 長崎と広島は被爆地ですから、世界で唯一、平和のメッセージを強く発信していける街です。V・ファーレン長崎の選手たちも、夏には限定の「平和祈念ユニフォーム」を着て、サッカーができる平和の尊さを感じながら、一生懸命試合で戦う。普通の人の日常の中で、サッカーを観にきて、元気になった、楽しかったと感じることこそが平和だと思うのです。

アウェイ戦では、ふと目に留まった参考になりそうなことをスマートフォンで撮影。なんでも良いことはV ・ファーレン長崎に取り入れようとする熱意に、いつも溢れている(2018年4月11日、清水IAIスタジアム)

──それこそグローバル時代に即した、地方から世界に向けての発信でもありますね。

髙田:そうなんです。ですから、まだ、「試合を観に行きたいけど遠いから(行かない)」と思われているようであれば、それはわれわれがまだサッカーや長崎の魅力を十分に伝えきれていないからだ、と反省し、ますます努力すべきところだと思います。

──髙田社長がV・ファーレン長崎の社長に就任されて、わずか半年でJ1に昇格したということは充分に夢を与えていらっしゃると思います。

髙田:J1としては収入も25億円ぐらいと、まだまだこれからのチームですけれど、精一杯、V・ファーレン長崎を良くするためにチーム、社員ともにがんばっていくつもりですよ。サッカーを通じて、いろんなことが出来るはずだと信じていますので、みなさんもぜひ、試合を観に来ていただきたいと思います。

──はい、3回にわたるインタビューでたくさんの興味深いお話しをうかがえました。ありがとうございました。

観客の皆さんと試合の行方を見守る(2018年4月18日、対ヴィッセル神戸戦 諫早トランスコスモススタジアム)

 

【関連記事】

自分の未熟さを自覚することで、いつまでも自己更新し続ける/髙田明さん

「僕も、私もきっと出来るはず」 信じる心があれば、情況は変わります/髙田明さん

髙田明さん

<プロフィール>
髙田明(たかた・あきら) 1948年長崎県生まれ。機械メーカーで海外駐在を経て、平戸で実家が営むカメラ店に入社。1986年、佐世保に自社を設立。社長自らラジオやTVで商品を明るくPRするスタイルで、日本一有名な通販会社に。2015年、社長を退任し、2017年、サッカークラブ「V・ファーレン長崎」社長に就任した
●V・ファーレン長崎公式ホームページ
●Jリーグチケット

<クレジット>
取材・文/樋渡優子
写真提供/V・ファーレン長崎

『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』(髙田明著、日経BP社)
髙田社長の近著は、世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝(ふうしかでん)』に経営&ビジネスへの姿勢や考え方を学ぶユニークな1冊。毎日、初心に還り、新しいことに挑戦し続ければ、つねに「自分史上最高」が実現できる。人と比べて、くよくよすることもないと読者を励ます

『伝えることから始めよう』(髙田明著、東洋経済新報社)
初めて自らを語った一冊。子供時代のこと、家族、青春の日々、会社員時代、故郷に還った後の家業のカメラ店時代。そこから「ジャパネットたかた」が全国に知られる通販企業になるまでの半生を語ると同時に、著者ならではの〝伝わるコミュニケーション〟のノウハウについて記す。

 

Powered by ライフネット生命保険

人生と仕事とお金について考えるメディアライフネットジャーナル オンライン 公式Facebook