こんにちは。ライフネット生命の新卒5期の板東です。

突然ですがこの度、中国の深圳へ武者修行に行ってまいりました。

武者修行といいますのも、よくある表敬訪問旅行……というものではなく、自分自身で企業にアポイント取得、建設的なディスカッションのための資料作成、ローカルの交通機関を使って企業に訪問し、訪問した企業から得た学びを深夜までチーム内でディスカッションし、自社事業に貢献できる情報収集・発見をするという趣旨のツアーでした。

そのツアー内容について全3回分けてライフネットジャーナルでお伝えしております。

第1回では「深圳はどんな街か」ということをテーマに、第2回では「日常の決済シーンや、最新サービスから眺める深圳」をテーマに、ご紹介してきました。第3回では、中国発の信用スコアサービスの紹介と、中国の保険事情についてご紹介し、最後に今回私が深圳で感じたことを感想としてお伝えします。

今回が最終回ですので、少し長いですが読んでいただけますと幸いです。

■「決済革命」の次は「信用革命」! 芝麻信用をご存知ですか。

芝麻信用というのは、Alibabaの子会社であるANT FINANCIALが提供する信用スコアサービスです。性悪説が基本である中国にとって、革命的なサービスと言われています。 芝麻信用の画面を開くと、以下の5項目を使ったレーダーチャートが表示され、真ん中にスコアが表示されます。

1.年齢や学歴や職業などのデモグラフィック情報
2.支払いの能力
3.クレジットカードの返済履歴をふくむ信用履歴(クレジットヒストリー)
4.SNSなどでの交流関係
5.趣味嗜好や生活での行動

■芝麻信用が高いと受けられる特典

まず基本的にデポジットが不要になる特典があります。性悪説の中国ではとにかくあらゆるサービスを受ける前にデポジットを払うことが多いのです。

しかし芝麻信用のスコアが高いと、たとえば、ホテル・レンタカー・図書館などでのデポジットが不要になったり、賃貸サイトの敷金が不要になります。

日本でも賃貸物件を借りるときは、敷金が必要となり、引越しの初期費用が高額になりがちです。

日本でも信用スコアサービスがあると便利だと思いませんか?

ただ深圳在住の方に聞くと、「芝麻信用は知っているけど、借金をするのは抵抗があるため使ったことがない。都市部の一部の若者のみが、個人融資サービスなどを使っている」とのことでした。

芝麻信用で認証して使う充電サービス。ほとんどのカフェに設置されている。

日本のメディアでは、

「信用度が下がれば公共交通機関の利用が制限されるなどの厳しい罰則がある」
「芝麻信用で評価されるために、中国人のマナーが向上した」

と目にすることがありますが、深圳の日常を眺めていると「芝麻信用のスコアが下がってしまうから●●しないようにしよう」というような、習慣や考え方は、見かけませんでした。

日本で報じられるほど、芝麻信用が影響を及ぼしているわけではなさそうです。

ただし性悪説の価値観により、何かのサービスを使おうとすると、都度デポジットを求められるという不便な状況を考慮すると、信用スコアが高い中国人にとって芝麻信用は便利なサービスではあるな、という印象を持ちました。

芝麻信用はどのような仕組みになっているのか

芝麻信用は、基本的にAlibabaのデータと国家のデータを使って算出されています。 ユーザはAlipayで決済する前に、お金をウォレットに入金しておきます。 ウォレットのお金でとある投資信託を買うと、なんと約4%の利息がつくそうです。 また、加盟店の決済手数料もクレジットカードより低いそうです。*7

*7出典:THE WALL STREET JOURNAL「アリババの余額宝、わずか4年で世界最大のMMFに」(2017年9月) 

このように預金させる仕組みと、使わせる仕組みを両立させることで、ユーザにたくさん決済させて、ANT FINANCIALは決済データをもとにした信用スコアサービスを提供しているのです。

※図は筆者作成

少し金融の話が出てきたので、今回調査した保険に関してもご紹介します。

今回は、平安保険という時価総額が約21兆円の中国最大手の保険会社の方と、ウェブ代理店の方とお会いする機会がありました。

■保険会社の状況

平安保険は2018年、Fintech企業に1兆7000億円投資することを発表しており、テクノロジーについて伺いたかったのですが、今回訪問した方は営業職員の方だったので、テクノロジーというより中国市場について意見交換をしてきました。

平安保険の営業職員は保険だけでなく、銀行、証券も取り扱っているそうで、日本の証券会社や銀行の営業職員に近い印象を持ちました。

ちなみに中国でのオンライン生保の市場シェアは0.1%ほどで、対面営業職員がメインだそうです。

もちろんオンラインのチャネルは持っており、定期保険などはアプリからも加入できるが、変額保険などは対面のみと法律で決まっているそうです。

深圳の電気街である「華強北(ファーチャンペイ)」の一角。

契約者とのコミュニケーションは、契約者用アプリを使っているそうで、アプリから簡単に営業担当者に連絡できたり、請求ができるそうです。

このあたりはあまり日本の生保の状況と大きな差を感じませんでした。

■生命保険における中国独自の事情

中国では会社で健康診断を受ける習慣がないため、保険会社による危険選択(契約者間の公平性を保つために、被保険者の健康状態や職業、モラルリスクなどについて、申し込み時に査定をすること)が困難であることや、保険金・給付金支払時に、保険会社と契約者の間でトラブルになるケースが最近多いと聞きました。

ちなみに危険選択の問題を解決するために、Alibabaとテンセントが出資する众安(ジョンアン)保険は、アプリのメニューに保険のご案内が表示される人とされない人がいるそうです。恐らく、芝麻信用や、Alibabaの購買データを元に、申込者の生活習慣や健康状態を予測し、表示/非表示が決められていると推測されます。健康診断の情報がない中国では、このような保険のメニューの出し分けは、危険選択において有効な手法だと感じました。

■景気が良い街が、ヒトを変える

無人コンビニ EasyGoのヘッドオフィス。オフィスから荷物を運び出すために、社員総出で協力している。

今回、深圳を訪れてもっとも良かったことは「生まれて初めて景気の良い街を知った」ということでした。

私はこれまで日本で暮らしてきて、一度も景気が良い瞬間を見たことがありません。どこか閉塞感があり、どことなく社会のなかに不安や心配が影をひそめている、そんな雰囲気が普通だと思っていました。

一方で深圳はどうでしょうか。

深圳には、エネルギー、スピード、新しいテクノロジーへの柔軟さ、楽観と希望、夢が溢れています。街では人や車がぐるぐると動き回り、活気づいています。企業には、高速な意思決定をする経営者と、猛烈に実行する若い労働者たちがいます。「健全なバブル」と言えばよいでしょうか。イノベーションが起こり、雇用が発生し、真面目に働ければ、給与が上がり、労働者は報われる。

はっきり言って若者が働きたくなる社会でした。

ショッピングモールに設置されたVRゲームに熱中する子供。

右肩上がりの経済成長をしている環境で人間が生活をすると、楽観的になり、希望を持ちます。

将来への期待値が、人間の性格や考え方に影響するのだなと思いました。

■自分の強み

次に良かったことは、自分の強みがわかったことです。 「海外に飛び込んでいくこと」「最新情報をリサーチしていくこと」「人とコネクションを作ること」については、相対的に自分には強みがあると感じました。またそれらについて、自信を持つことができました。

深圳から少し離れた広州市にある「広州T.I.T創意園」ここからwechatが生まれたそう。

■中国人の優秀さと粘り強さ

中国人はとても頭が良いです。が、それと同時に、粘り強さもあります。

本記事では触れませんでしたが、急遽会うことになったウェブ代理店の経営者の方との打ち合わせが印象的でした。

当日にアポを依頼され、指定された場所に向かうと、カフェの一室が貸し切られており、ライフネットで中国人向けの保険商品を開発してほしいと2時間ほどお願いされました。 「僕たちは担当部署ではないので会社に持ち帰る」と言っても、「何が課題になっている?どうすれば実現できる?」と、詰め寄られました。

南山区にある「深圳湾創業広場」。 深?市政府主導のもと、2015年6月に運営を開始したこの産業開発エリアには、スタートアップが集積している。

日本人だと、担当者でないことがわかれば、すぐに引き下がってしまうのではないでしょうか。

些細なチャンスでも逃さず、断られても、難しそうでも、とにかくやってみる。

彼らのバイタリティや、粘り強さには心を打たれるものがあり、諦めが早い自分は、中国人の粘り強いパーソナリティを取り入れたいと思いました。

■既得権益がない街

最後になりますが、深圳は若者の街であり、上海や北京と違ってしがらみや、歴史がないため、既得権益もありません。そんな深圳にチャンスを見出し、中国全土から希望に満ち溢れた若者が集まっていました。

だから深圳にはポジティブなエネルギーが溢れています。

「ライフネットも深圳のような雰囲気を作っていけば、もっと成長し、企業価値を高めていける」そう思いました。

この長い記事を読んでくれた読者のみなさんも、ぜひ深圳を訪れてみてください。きっと、たくさんの収穫があるはずです。

以上、深圳からたくさんのエネルギーと元気を持ち帰ってきた、板東でした。

 

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