毎日仕事に忙しく、気がついたら貯金額が500万円に達していた……。今回の相談者さんはお金がかかる趣味もなく、投資にもあまり前向きではないけれど、このままではもったいないと感じているそうです。
良いお金の使い道はあるのか、悩める相談者さんに黒田先生はどんな助言をするのでしょうか?

※この記事は2022年12月に内容を更新して再掲しています。

【相談】
大好きな仕事に就いて、毎日忙しく働いています。お金を使う時間がないためお金が貯まる一方で、貯金額はとうとう500万円に達しました。趣味も週末にランニングをするくらいしかないので、お金はほとんどかかりません。一時、投資に充てようかとも考えたこともありましたが、性格的にも自分には向いていないような気がします。かといって、このまま寝かしておくだけなのもどうなのか。何か良い使い道があればぜひ教えてください!(32歳・男性)

■お金をどう使うかは人生そのもの

32歳ですでに貯金額500万円。素晴らしいですね。金融広報中央委員会が令和3年に実施した「家計の金融行動に関する世論調査(単身世帯調査)」によれば、金融資産の保有額の平均値は、70歳未満の場合、901万円と相談者さんよりも多い額になっています。ただ、平均値は、少数の高額資産保有者によって、値が引き上げられている可能性があり、高めになっています。そこで、より実体に近い額として中央値を見てみます。ここでいう中央値とは、調査対象世帯を金融資産保有額の少ない順に並べたときにちょうど真ん中に位置する額です。こちらは68万円ですから、相談者さんが実に堅実に貯金されていることがよくわかります。

ただ、お金を使う時間もお金がかかる趣味もなく、貯まる一方とのこと。それも仕方がないかもしれません。というのも、稼ぐことや貯めること、節約に関する情報やノウハウは探しやすいのですが、稼いだ後や貯めた後にお金をどう使うべきかについては、あまり語られていないような気がします。

お金というのは、何もしないままでは単なる日本銀行券。使ってこそ、価値が生まれます。何を考え、どのような消費行動を取ったのか。そのプロセスは相談者さんの足跡です。ちょっと大げさな言い方になりますが、お金をどう使うかは人生そのものなんですよ。

もし、相談者さんがお金を使うことにネガティブな考えを持っているようなら、お金を使うことは悪いことではない、と知っていただきたいと思います。まずはご自分がお金をどこに使っているのか、消費の足跡を見つめてみませんか。

相談者さんは家計簿をつけていますか? 記録をすることはとても大事です。私も娘には小さい頃から、何に自分がお金を使っているのか、を自覚させています。お金を使うことで、社会の仕組みがわかるようになるからです。

例えば、一口に食費と言っても、飲み会代がかかる人もいれば、毎日カフェでの一杯が欠かせない人もいますよね。自分が何にウエイトを置いているのか、何に支出しているのか。実態をつかむことをおすすめします。

■応援・支援の観点から投資をしてみる

気になるのが「投資には向いていないような気がする」という発言です。投資には、資金を投入して利益を得る、というイメージを持っているかもしれませんが、リターンを得ることだけが投資の意義ではありません。

「応援」を目的とする投資もあります。例えば、ESG投資をご存じでしょうか。これは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資のこと。再生可能エネルギーの利用に熱心だったり、適切な労働環境の実現を図り、地域社会に貢献し、積極的な情報開示や取引の透明化を推進したりしている。このような取り組みを熱心に行っている企業は、ESG評価が高くなります。ESG投資とは、財務情報だけでなく、企業が社会に対して負う責任を考慮して行う投資なんです。

テレビや雑誌、書籍などの情報を通じて、「企業のこの考え方に共感できる」とか、「企業のこの取り組みを応援したい」と思ったことはありませんか? そうした観点から企業に投資をするのは、立派な個人の社会貢献のあり方です。

クラウドファンディングもそうですね。金額の多寡を問わず、実現させたいと思えるプロジェクトに参加し支援するのは、新しい消費行動の形。理念に共感するNPO団体に寄付をしたり、応援したい自治体のアンテナショップでお買い物をしたりするのも支援活動の一種です。

リターン目的で投資をすることは悪いことではありません。でも、応援する・参加するという考えを起点とする投資の選択肢がこれだけ広がっているのです。もし、貯金を手元で寝かせておくだけではもったいないと考えるのであれば、支援型の投資にも目を向けてみるのはいかがでしょうか。

■いざというときに備えて、すぐに使えるお金を用意

ただし、これから年齢を重ねていくとお金が必要になる場面が増えていきます。結婚や、子育て。家を買うという選択肢もあるでしょう。もっと年齢が上になれば、病気に対する備えも必要です。

独身であれば毎月の生活費の3ヶ月分のキャッシュは用意しておきたいところ。なぜ会社員に3ヶ月分のキャッシュが必要なのかといえば、失業保険など公的なお金が入ってくるまでに、これくらいの時間がかかることがあるからです。

相談者さんは好きな仕事に就いて、バリバリと充実して働いているご様子ですが、先のことはわかりません。これから投資にお金を使うとしても、3ヶ月分は手元に置いておきましょう。ちなみに、自営業であればキャッシュはもっと必要です。最低でも半年分。会社員でも家族がいる場合は、やはり半年分はすぐ使える形で用意しておいた方がいい。いざというときに安心です。

いま相談者さんの貯金額は500万円とのことですから、そこから毎月の生活費の3ヶ月分の金額を引いた分は活用できるということです。とはいえ、投資は「マスト」ではありません。自分が関心を持てたとき、やってみたいなと思ったときが「投資どき」。いま、その気がないのなら、無理をしてお金を使う必要はありません。お金は使うのも使わないのも自由です。

でも、自分が何を重視し、どこにお金を使いがちなのかという現実はちゃんと知っておいた方がいい。自分という人間がどこに価値を見出しているのか、意外な発見があるかもしれませんよ。それがお金の使い道のヒントになるかもしれません。ぜひ日頃からお金の使い方を記録して、自分の考え方を把握してほしいと思います。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)。 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子