社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ。今回は、元気なときこそ使いたい「社会保障制度」について、そのポイントについて教えていただきます。


今回のポイント

  • 社会保険制度は健康な人も活用できます
  • 失業時だけでなく会社勤め中のキャリアアップのための給付も受けられる雇用保険
  • 公共職業訓練を受けると失業手当の受取期間が延長できる場合も!

※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、詳細な説明を省略しているため、すべての要件まで触れていません。
※当記事では、2022年8月時点の制度をご紹介しています。

困った時も健康な時も活用できる社会保険制度

―2022年は、大きな制度の変更が複数ありました。そういった流れを汲んでか、4月から学習指導要領に金融教育が入り、資産形成や投資についての教育が進んでいます。一方で、公的保険についての情報は少し手薄だなという印象を持ちました。

公的保険はほぼ強制で加入するものですが、投資などは自分で考えて判断をすることが求められるものです。学習指導要領の変更を前向きにとらえると、国は「自分で調べて学ぶことが大切である」と考えて、資産形成や投資についての学習項目を厚くしているのかもしれません。しかし、公的保険にはどのような保障があるのかがわからなければ、民間保険を過剰に契約してしまい家計にムダが生じるかもしれません。資産形成を考えるうえでも公的保険について学ぶことは大切なんです。

―確かに、正しい判断や納得につながりますよね。

社会保険の保障はさまざま。その中には、原則一生涯続くものもあります。子どもや家族のいる方も、シングルの方も、いろいろな場面で使えるんですよ。

社会保険の守備範囲は、病気やケガで仕事を休んだときにお金を受け取る、介護を受けたときに負担を抑えられるといったことはもちろん、障害を負うような大きなできごとの際に使うものもあります。しかし困ったときだけではなく、健康なときも活用できる制度ということも知っておいて欲しい点です。

例えば、スキルアップのために資格を取ったときや、キャリアチェンジのために専門的な学校に通ったとき、親の介護が必要になって仕事をしばらく休むことになったときなどです。20代や30代の若いうちは関係ないと思うかもしれませんが、若い時期&病気でもケガでもない元気なときにも活用できる社会保険制度があります。今回は雇用保険の中から、元気なときに使える制度をいくつか紹介します。

会社勤めの人のキャリアやスキルを支える雇用保険

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注目したいのは教育訓練給付です。専門学校の講座を受けた際の費用が一部戻ってくる制度で、かなり幅広いジャンルをカバーしています。キャリアアップやスキルアップなど、仕事の役に立つ技術を身に付けることにも使えます。就職したあとにも使えるのが雇用保険ですから、しっかり活用してほしいですね。

厚労省のサイトなどで、どんな講座を受けられるかも簡単に調べられます。自分の受けやすそうなものを探して、選んで、身に付けた技術で給与アップを狙うことを雇用保険が応援してくれます。

【教育訓練給付金の種類と概要】

種類 一般教育
訓練給付金
特定一般
教育訓練給付金
専門実践
教育訓練給付金
支給額 教育訓練費
の20%
教育訓練費
の40%
教育訓練費
の50%※
支給額範囲 4千円以上
10万円以下
4千円以上
20万円以下
4千円以上
40万円以下(年間)
必要な
雇用保険
加入期間
3年以上
(初受給時は1年以上)
3年以上
(初受給時は2年以上)

※修了後1年以内に再就職する等の要件を満たすと+20%(上限16万円/年)
参考:ハローワークインターネットサービス「教育訓練給付制度」

「特定一般教育訓練給付金」と「専門実践教育訓練給付金」には、所定のキャリアコンサルティングを受ける必要があります。自分のキャリアについての希望を整理して、キャリア・コンサルタントと相談して、訓練を受けることを目指してみてください。一般教育訓練給付金であれば講座選びの制限は厳しくありませんので、とても便利です。自分が給付の要件を満たしているのかどうか、ハローワークで確認をしてくださいね。

―なかなか雇用保険にこういった制度があると知る機会がないように思います。

そうですね、制度について会社から説明を受ける機会は少ないかもしれません。今後は、60歳以降も働き続けた方が安定した生活が送りやすい時代と考えると、キャリアアップやキャリア継続のためにスキルを身に付けることは大切です。今の仕事と直接関係がなくても、違ったキャリアへの入り口になるかもしれません。
雇用保険は「雇用を保つ」と書くように、雇用を継続するためのものです。一般的には失業した時の保険というイメージがあるかもしれませんが、雇用をされ続けるためのものなんだと覚えてほしいですね。

なお、教育訓練給付を使う上では、「始めたらやり遂げる」ことが大切です。例えば申し込んではみたけれど、飽きてしまって教育訓練を修了できなかった場合は、給付を受けることはできません。キャリアに必要な学びをやり遂げるぞという意識のある人が活用できる仕組みになっています。

―結果を出す気持ちがある人をサポートする制度と考えると納得です。

失業後の再就職準備期間に受けられる制度もチェックを

また、公共職業訓練のメリットも知っておいてください。公共職業訓練とは、再就職のためにスキルアップを目指す人向けの訓練のことです。例えば勤続1年以上10年未満で自己都合退職をした場合、失業給付(基本手当)の受給は90日間になります(※)。しかし、公的職業訓練を受けることでその期間が延長される場合があります。
※勤続期間や離職理由(定年、倒産、契約期間の満了等)により基本手当の日数は異なります。詳しくはハローワークのウェブサイトをご確認ください。

基本手当の受給期間を3分の1以上残して再就職が叶った場合には、基本手当の6割を再就職手当として受け取ることもできますよ。まだ給付を受けられる日数が残っているうちに再就職するのはもったいないかな?と思うかもしれませんが、給与にプラスで手当が受け取れることになりますので、安心して再就職に踏み出してくださいね。

 

<プロフィール>
中村 薫。1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。
●なごみFP・社労士事務所

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル 編集部
文/年永亜美(ライフネットジャーナル 編集部)
撮影/村上悦子