初めて農業者と生活者が 一緒に参加したイベント「土と平和の祭典。種まき大作戦」記念撮影

初めて農業者と生活者が一緒に参加したイベント「土と平和の祭典。種まき大作戦」記念撮影

「一次産業を、かっこよくて、感動があって、稼げる3K産業に」したいという夢をかかげ、都会でのサラリーマン生活を卒業し、2006年に実家の養豚農家を継いだ宮治勇輔さん(前編はこちら)。弟さんとの二人三脚で瞬く間に自社の「みやじ豚」のブランド化を成功させたのち、2008年には1000人もの発起人を集めて「NPO法人農家のこせがれネットワーク」を設立しました。そのNPOで何をめざしているのか、引き続き宮治さんにお話をうかがいました。

■農家のこせがれネットワークとは

農家のこせがれネットワークは、都会で働く農家生まれの「こせがれ*」たちが、実家に帰って農業を継ぐこと=「帰農」を支援する団体です。

*こせがれ……ここでは、女性も含め、農家に生まれた人。

このような組織が生まれた背景には、減り続ける農業人口、農業従事者の高齢化、耕されないままの田畑の増加など、日本の農業が抱えるさまざまな難題があります。宮治さんはその根本原因のひとつを、農業がきつい・汚い・稼げない3Kだからだと考え、そこから転換をはかるために、どうすればいいかを考えていました。

「ぼくが実家に戻って養豚業を継いだ当初は、『こせがれ〜』のような組織をつくることは全く考えていませんでした。ぼくの夢は『一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業に』することなので、うちの養豚業がある程度軌道に乗ったところで、ふと、うちだけそうなってもだめだと思ったんです。

じゃあ一次産業全体が、『きつい・汚い・稼げない』3Kのイメージから、夢である『かっこよくて・感動があって・稼げる』3Kに変わるために、何が必要かと考えてたどりついた結論が『農家のこせがれネットワーク』なんです。自分と同じように都心でビジネスの経験を積んだこせがれが実家に帰って、親父の農業技術と地盤、看板を受け継いで、自分のビジネスのスキルと、親父が持ちえないネットワークを融合させて、新しい農業経営者を増やしていくというのが、農業を最短・最速で日本の農業を新しい3K産業にする道だと。

もし農業を新たに始めるとなると、まず土地を手に入れて、設備や機材を揃えたり、技術を習得したりしなければならない。ゼロから立ち上げていくのはとても大変です。でもこせがれには、そうした資源がすでに実家にそろっているわけですから、立ち上がりのスピードが断然違うんです」

■7年目にして事業を再構築。新たに始めた「農家のファミリービジネス研究会」

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農業についての理解を深めてもらおうということで始めた丸の内朝大学農業クラス。 フィールドワークを交えた講座で、食や農に興味のある受講生は延べ800名ほど

農家のこせがれネットワークは、それまで宮治さんや設立メンバーたちが築いてきたネットワークの力もあり、発起人が1000人以上集まり、設立当初から多数のメディアで取り上げられ、農業界のニューウェーブとして注目を集めていきました。

「立ち上げから5、6年は、とにかく農業に関して考えられるだけのあらゆる企画に取り組みました。六本木農園という飲食店に関わらせていただくことを皮切りに、マルシェの運営、旅行会社との農業体験ツアー、ネットベンチャーと組んだECショップの共同運営、地域プロデューサー養成塾などです。

でも去年、“これまでやってきたことは、本当にこせがれたちの帰農に役立っているのか”と考えて、事業はパートナーに託し、農家のこせがれと就農間もない農業者のための場を改めて考え直すことにしました」

その結果、同団体の事業は、こせがれ同士の交流会のほかは、「ファミリービジネス研究会」に集約されました。ファミリービジネスとは、一般的には創業者ファミリーが資本か経営に関与している形態ととらえられていて、町の八百屋や本屋など、家族だけで経営する小規模なものから、トヨタやサントリーといった大企業まで、実に幅広い企業が該当しています。いまなぜ、農業者のネットワークで「ファミリービジネス」研究なのでしょうか。

「全世界のGDPの70%〜90%をファミリービジネスが形成していると言われ、いま世界的にその形態に注目が集まり、研究対象にもなってきています。日本の農家の中には、家族で営んでいる農業をかっこ悪いと思い、ファミリービジネスにネガティブなイメージをもつ人もいます。また、誇りは持っていても、いざ親父と経営の話をしようとすると感情的になって話にならない、というケースもよくあります。

だから、そうしたこせがれたちのために、まずは実家のファミリービジネスに誇りをもつこと、次にファミリービジネス最大の課題である事業承継への理解を深めること、経営課題の解決策を検討できる場を持つこと、さらには販路もつくれて農家の抱える主要な課題を解決できるようにと『農家のファミリービジネス研究会』を立ち上げました」

(次ページ)「ファミリービジネス研究会」が、農業を育てるエコシステムに