写真左:長沼真太郎さん(株式会社BAKE 代表取締役CEO)、右:印牧正貴さん(同 海外事業部部長)

写真左:長沼真太郎さん(株式会社BAKE 代表取締役CEO)、右:印牧正貴さん(同 海外事業部部長)

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「お菓子のスタートアップ」を掲げる株式会社BAKE代表取締役CEOの長沼真太郎さんインタビュー。今後の展望についてうかがった後編では、海外事業部長の印牧正貴さんにも登場していただきました。
(前編はこちら)

■「お菓子に新しい価値を」

――BAKEさんの企業理念は「お菓子に新しい価値を」。これはどういった意味なんでしょうか?

長沼:ひとつのお菓子に対して、より価値を与えていくということです。私がきのとやで携わった「焼きたてチーズタルト」の開発がまさにそれです。A/Bテスト*を繰り返しながら、プラスアルファの価値を与えていく。そのことを自分たちの使命に掲げています。

価値を与えるのは味を良くするだけではありません。PICTCAKEのように、今まで注文するのが難しくて大変だったものを、より簡単にする。お客様にとっての利便性の向上も、お菓子に対する価値だと思っています。

* A/Bテスト……ウェブページなどをつくる際、AとBの2パターンのテストページを作って効果を測定し、良い方を選ぶ手法

――御社はお菓子の販売にITをフル活用していますが、それも価値を高めるためのツールのひとつに過ぎないということですか?

長沼:その通りです。私はもともとインターネットには詳しくありませんし、ITの仕事に興味があったわけでもありません。子どものころからずっと思っていたのは、お菓子に携わる仕事がしたいということ。商社に入ったのも、流通の面でお菓子に関わりたいと思ったからです。私はパティシエの勉強をしていないのでケーキを一から作ることはできませんが、大学や商社で仕組みの作り方を勉強しました。その仕組みづくりを実現するために、ITが必要なのです。

――ITと製菓業、結びつけることの難しさはどういったところにありますすか?

長沼:正直難しいことはあまりありません。というのも、まだこの業界に導入されていないことがたくさんあるからです。やろうと思えばいくらでも新しいことができると思ってます。強いて言えば、洋菓子を作る職人さんたちに自分たちがやろうとしていることを理解してもらうことでしょうか。でもそれも、一緒に仕事をしながら理解していただけているのではないかと思っています。

厳密には、ITと製菓業の融合というよりは、テクノロジーとお菓子の融合を目指しています。テクノロジーには2つの意味があります。

ひとつは、「ツールとしてのテクノロジー」。例えば今、私たちは「ザクザク」というクロッカンシュークリームの専門店も運営していますが、カスタードクリームを作る際に使うマシンなどはまさにツールとしてのテクノロジーです。すでに紹介したPICTCAKEの注文アプリやウェブのシステムもそうです。

もうひとつは「考え方としてのテクノロジー」です。eコマースのウェブサイトを改善していく時にはA/Bテストを行いますが、これはエンジニアリングの考え方です。きのとやの新千歳空港店でチーズタルトを改良する時にもA/Bテストを繰り返しましたし、お菓子の商品に対しても考え方としてのテクノロジーを使うのは有効だと考えます。

■「日本の洋菓子」が海外でヒットする日

――海外展開もすでに始まっています。全世界で1,000店舗を目指しているということですが、どういった理由からですか?

長沼:数字のインパクトがあるからです。日本でそれだけ海外に出店している洋菓子店はまだないので、そこをまず達成したいと思っています。そのために海外事業部を立ち上げて、イギリスの飲食店での勤務経験や、店舗の立ち上げ実績のある印牧を中心に動いてもらっています。

印牧正貴さん(株式会社BAKE執行役員 海外事業部部長)

印牧正貴さん(株式会社BAKE執行役員 海外事業部部長)

印牧(海外事業部部長):私がロンドンにいた9年ほど前、向こうで日本のお菓子というと、せんべい、どら焼き、大福など昔ながらのものでした。でもちょうどその頃に、日本のシュークリーム専門店のビアードパパさんがロンドンにもお店を出しました。大行列ができていたと思います。その時思ったのは、外国から入ってきたラーメンやカレーが日本で改良されて“逆輸出”されているように、日本で進化を遂げた洋菓子が海外で評価される日が来るんじゃないだろうか、ということでした。

――印牧さんはその時に感じたことを今まさに自分自身で具現化しているところなんですね。長沼さんはいつから海外展開を考えていましたか?

長沼:学生時代、アメリカに1年間留学していたこともあって、もともとビジネスを始める時から日本と海外を分けていませんでした。日本のマーケットだけはなく、世界でやろうとしていたのは最初から考えていたことです。

ただ、個人的には一度大きな失敗もしています。商社の退社と、きのとやの入社の間に、私は上海で起業しようとしていました。ちょうど父の会社に出店の話があったのですが、父はあまり興味がなく、代わりに私がその話に乗って約半年間、上海に何度も渡って起業の準備をしました。しかしある段階になって、出資者から「ケーキを作れないのか?」と言われたんです。私はパティシエではなく、経営者として行ったつもりだったのですが、そこで行き違いがあり頓挫してしまいました。

――その失敗から学んだことはありますか?

長沼:たくさんあります。特に学んだのは、海外進出をする際の手法です。洋菓子屋さんを開くのであれば、通常はお菓子を100種類くらい用意しないといけません。それを展開していくにあたってはいろんなハードルがあります。中国は原材料の品質が日本と違いますし、パティシエさんの確保も難しい。

ですので、海外展開をするには、シンプルオペレーション、シンプルプロダクトにして、よりひとつの商品にフォーカスした業態を作っていく必要性があると感じました。

また、北海道のような地方からいきなり海外に展開するのは難しいと思いました。やはりまず東京でブランドの認知度を上げてからでないと、海外では通用しないと思います。

■日本を代表する製菓企業に!

――「お菓子のスタートアップ」というのは、業務が多岐にわたるので幅広い分野から人材が必要になりますね。

長沼:はい。現在いる社員も製菓業界出身者はごく一部です。IT業界のエンジニアをはじめ、商社、銀行、メーカーなどいろんな業界にいた人たちがBAKEで働いています。

――前例のないことに挑戦している会社だと思いますが、印牧さんは転職の際に不安はありませんでしたか?

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印牧:ありましたよ! 私は自由が丘店のビルで面接を受けましたが、その時はまだ内装の途中で、段ボールやら何やらいろんなものをかき分けて、やっと面接場所にたどり着いた。そこで座らされたのが、普通の椅子ではなくて木の箱でしたから(笑)。でも、私含めこの会社に来る人たちは、こういうのが好きなんです。これから自分たちで新しいものを作っていく、チャレンジしていくということが楽しめる人ばかりです。

長沼:私は小中高と野球をやっていましたが、高校球児に似ていると思います。高校球児ってみんな、何のインセンティブがなくても甲子園を目指しますよね。それは世の中にインパクトを与えたいという気持ちがあるからだと思います。私がBAKEを始めた時もそんな気持ちでした。

――今後の目標を教えてください。

長沼:日本を代表する製菓企業になるということです。これまでの洋菓子店というのは、オーナーの95%がパティシエ出身です。他業界から入ってくる人が少なく閉鎖的なところもあるので、ビジネス上の多くの問題が解決されないままになっています。

私たちは「お菓子のスタートアップ」としてビジネスを展開しながら、製菓業界全体を盛り上げていきたいと思っています。できることはまだまだたくさんあります。例えば私たちはオウンドメディアを持って情報発信していますし、将来的にはより生産者と結びついて原材料の部分から取り組んていくということも視野に入れています。これまでこういったことは後回しにされてきましたが、美味しいお菓子を作ることと並行して取り組むべきことだと考えています。

現在は写真ケーキ専門店「PICTCAKE」、焼きたてチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」、クロッカンシュー専門店「クロッカンシュー ザクザク」、チョコレート専門店「99CHOCOLATE」といったブランドを展開していますが、ブランドをさらに増やしていき、店舗数も増やしていきたいですね。世界中でより美味しいお菓子を提供して、より多くの人に影響を与えることができれば、日本を代表する製菓企業になれるんじゃないかと思っています。

<プロフィール>
長沼真太郎(ながぬま・しんたろう)
株式会社BAKE 代表取締役CEO
1986年北海道生まれ。2010年、慶應義塾大学商学部を卒業後、大手商社の丸紅に入社。食品流通部の菓子食品課にて流通菓子の国内営業業務などに従事。翌年、同社を退社し、父親の経営する「株式会社きのとや」に入社。2012年新千歳空港店の店長となり、大ヒット商品「焼きたてチーズタルト」を開発した。2013年、株式会社BAKEを設立。焼きたてチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」など4つのブランドを展開している。

印牧正貴(かねまき・まさたか)
店舗事業本部 海外事業部 部長
日本法人のイギリス支局にて飲食店運営や、食のECサイト運営企業による実店舗進出の運営を経て、2015年に株式会社BAKEに参加。BAKE海外進出のため、パートナー企業の選定や、商品のディストリビューション、海外店舗の品質管理などを行っている。

THE BAKE MAGAZINE

<クレジット>
取材・文/香川 誠
撮影/村上悦子

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