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読書家として知られるライフネット生命会長兼CEO 出口治明が、書評を連載している「オルタナティブ・ブログ」。その中から、当社が積極的に取り組みを進めているLGBTに関連した書籍『ルポ 同性カップルの子どもたち』の書評をご紹介します。


性的マイノリティ(LGBT)の権利保障の動きが世界的に進んでいる。LGBTとは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイ・セクシャル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった総称であり、2000年のネーデルランド(オランダ)を皮切りに、ベルギーやスペイン、カナダ、南アフリカと同性婚を認める国が次々と出てきた。06年にはLGBTの権利の擁護をうたったモントリオール宣言が採択され、15年時点で同性婚を認めている国・地域は24にのぼるという。

登録パートナーシップ制などを含めると、G7では日本を除くすべての国が対応済みだ(3国が同性婚を是認)。アメリカでは、オバマ大統領が12年に同性婚を支持すると表明し、15年6月には連邦最高裁判所が同性婚を憲法上の権利として認める判決を下して、その流れを加速させた。LGBTの国家首脳も2人誕生している。

 これに対して日本では、渋谷区や世田谷区(東京)、伊賀市(三重)で同性パートナーシップ制の先行的な取組みが行われているが、LGBTの人口は全人口の5%以上といわれており、顧客ベースとしても無視できない大きさを占めている。ライフネット生命でも昨年11月から同性のパートナーを死亡保険金の受取人に指定できる取扱いを開始したが、これからの企業経営を考えるうえでもLGBTの問題を避けては通れないだろう。本書は、アメリカのLGBT、なかんずく同性カップルの子どもの問題に焦点をあて、20組以上の取材をもとにアメリカで進行中の「家族のかたち革命」の実態をルポした意欲作である。

同性カップルが子どもをもつには4つの方法がある。

①異性のパートナーとの間の子どもを離婚後に引き取り一緒に育てる。
②養子や里子を迎える。
③レズビアンカップルの片方が精子提供を受けて人工授精や体外受精で出産する。
④ゲイカップルの片方の男子の精子を使い代理母に出産してもらう。

しかし、この4つのパターンをよく考えてみると、①と②は異性婚でも生じる問題であり、③と④は異性婚の不妊の場合とほとんど差がない。大きな違いがあるとすれば、同性の二人が子どもを育てるという点であろう。本書は、プロローグ、代理出産、人工授精・体外受精、里親・養子縁組、子育ての現実、日本の状況、エピローグという7章で構成されているが、同性カップルの子どもの4割が学校で「嫌がらせ」を受けているという現実は重い。

また、同性愛が原因で両親と仲違いし家族の支援をあてにできない人も少なくないが、「孫はかすがい」で子どもを持ったことにより親との断絶を乗り越えたケースもみられるという。アメリカに比べれば、日本は20~30年遅れているといわれているが、結婚とはなにか、家族とはなにかを根底から問い直す動きは今後強まりこそすれ弱まることはないだろう。

著者が執筆に至ったきっかけは、移り住んだニューヨークで長男の親友に2人のパパがいたことだった。「子どもには父親と母親が必要」という伝統的な考え方があるが、この世に生を受けたときから、2人の父、2人の母しか知らないという子どもたちが、現に存在している。コレクティブハウスに講演に行った時も、疑似家族の温かいぬくもりに瞠目した記憶がある。

多様な家族のかたちを認め、共生していくことこそが、これからの家族や社会をより強固なものにしていくのではないか。この著者の問いかけは僕たち全市民に向けられている。

『ルポ 同性カップルの子どもたち』杉山 麻里子(著) 岩波書店

『ルポ 同性カップルの子どもたち』杉山 麻里子(著) 岩波書店

※オルタナティブ・ブログ「ライフネット生命会長兼CEO 出口治明の『旅と書評』」より