赤木優理さん(株式会社チーム・ゼロイチ 代表取締役)

「会社員」か「起業家」という二者択一ではなく「会社員かつ起業家」という新たな働き方を日本の当たり前にしたい。こんなビジョンを掲げて精力的な活動を繰り広げているのが赤木優理さんです。起業家を公私にわたってサポートしながら、起業家特有の思考プロセスや新マーケット創出ナレッジの研究に取り組む赤木さんが目指す社会とは……!? ライフネット生命社内で行われた熱い講演会の模様をお届けします。

■StartUpに特化したコワーキングスペース

赤木さんは現在、3つの事業を推進しています。

1つ目の事業がコワーキングスペース「StartUp44田(よしだ)寮」の運営です。急増するコワーキングスペースの中でも、2011年にスタートした「44田寮」は異色の存在といっていいでしょう。新市場を創造しようとするStartUpに特化し、知見・サポート機能を集積し、かつ、投資を前提とせずに、月額単位での契約や解約を可能とするなど、StratUpの意思を尊重したオフィスを提供しているからです。

この寮からはすでに何社もの輝かしいメンバーが巣立っていきました。例えば、参加型の生放送授業と3,000時間以上もの動画教材を使って、「仕事に生きる」知識・スキル・考え方を学べるサービスを提供しているSchoo(スクー)、世界で戦い日本を支える協働ロボットで新しい基盤産業の構築を目指すライフロボティクス、オンライン接客型のプラットフォームで、不動産業界にイノベーションを起こすietty(イエッティ)。

いずれも、事業を軌道に載せ、ベンチャーキャピタルからの数億を超える出資も獲得。社会にインパクトを与えています。

44田寮のウェブサイトより。起業家をめざす人たちが集まるこのコワーキングスペースからは、続々と成功例が生まれている

「入居者の半分は起業家、半分が会社員ですね。20坪ぐらいのマンションなんですが、常時30人が入れ代わり立ち代わりに入ってきます。僕は端っこに座って、日常的に起業家が何をしゃべっているのかをデータベースに落しこむ作業を6年間やってきました。

あとは、個別の事業の相談。彼らとは定期的にミーティングを開き、何に迷っているのか、彼ら自身の事業のつまづくポイントを細かく情報収集して、起業家のスキルや考え方を蓄積しています」

■大企業はなぜ新規事業立ち上げに苦労するのか

2つ目の事業が、大手企業の新規事業のコンサルティングです。優秀な人材を豊富に抱えながら、新規事業の立ち上げや運営に四苦八苦している大企業は少なくありません。

なぜ、うまくいかないのか。何が阻害要因なのか。赤木さんはコンサルティングを通して新規事業で大手企業がパフォーマンスを発揮できない理由を探っています。

「社内のエビデンスを重視する稟議システムや、挑戦や失敗を評価しない人事制度が阻害要因となるケースが多いです。その他にも、そもそも大手企業のマネジメントは基本的に軍隊由来のもの。マネジメントという用語そのものが軍隊用語だったりします。いいかえると、一兵卒である現場に意思決定させないマネジメントになっている。その影響は大きいです」

参謀長が決めた作戦に一兵卒が従わなければ規律が乱れて戦線で不利になる。そうした事態を防ぐために生まれたのが軍隊式のマネジメント。『やりたい事』をあえて考えさせず「やるべき事」と「できる事」を元に、それぞれの役割を果たせと命じるシステムです。

「そんな軍隊式システムを有しながら、一方で上司は会社の柱となる新規事業を新たに作れ、イノベーションを起こせと言う。イノベーションって何ですか? と聞くと、自分で考えろと言われる。そんな状況だから現場はどうしたらいいのかわからない。

だって組織が一兵卒に独自の『やりたい事』も新しい挑戦も考えさせないマネジメントをやってきたから。ただ、それも変わらざるを得ないし、変えていけるヒントが軍隊でナレッジ化されつつあります」

「アメリカでは、ペンタゴンで作戦を立て現場はそれを忠実に遂行するマネジメントがベトナム戦争のゲリラに対しうまく機能しなかったことから、現場の状況に合わせて兵隊がその場で意思決定し、ペンタゴンは兵站と、各地から送られてきた情報を全体チューニングし、また情報提供し返す中継地点の役割を担うようにマネジメントのあり方を見直してきました。

上から下りてきた作戦だけを聞いてたらだめで、その都度自分(現場)で考えろと指導しているわけです。

軍隊でナレッジ化されたものが民間に降りてくる歴史を考慮すると、日本の大手企業もあと15年ぐらいしたら変わるのではと思っています」

■起業家のスキルを会社員にも

3つ目の事業とは会社員と起業家との相違点の研究です。赤木さんは自らもStartupである株式会社チーム・ゼロイチを立ち上げ、起業家のスキルを会社員が使いこなせるようになるにはどういうプロセスを経る必要があるのかを探っています。

「起業家と会社員の違いを研究すればするほど、全然違う人種だなと感じます。個人個人の違いがあることは勿論なのですが、それを考慮しても思考プロセス/得意なスキル/好みなど、相容れない特徴が2者にはある。教育や社内訓練などで後天的に違いが生まれるだけでなく、先天的に持って生まれた生物レベルでの違いが存在すると考えています。

そんな中、個人的に課題だと思っているのは、『起業家がイノベーションを起こすやり方』は体系化されてきていますが『会社員がイノベーションをおこすやり方』はほとんど研究されていないということ。

『44田寮』の中で、普通の会社員が起業家スキルを身につけ、新事業を立ち上げていく事例は実際に何例もありますし、その事例をつぶさに観察・研究してきました。会社員であっても最適なイノベーションを起こせる覚醒プログラムは必ずあるし、今後はそれを如何に再現するかが必要になってくると考えています」

チーム・ゼロイチでは、「会社員に眠るイノベーションスキルの覚醒と可視化」を実現するべく、 社外コミュニティを活用した、Acceleration(起業家体験)プログラムと、 プログラムを通したイノベーションスキル解析システムを提供 。「会社員かつ起業家」という働き方を当たり前にする野心的な試みが着々と進行しています。

(後編につづく)

<プロフィール>
赤木優理(あかぎ・ゆうり)
1978年生まれ。京都出身、京都大学工学部建築学科 卒。不動産ベンチャーを経て、日本を変える起業家を育てたいと2011年からコワーキングスペース『StartUp44田(よしだ)寮』を運営。2014年からは、社内で挑戦しにくい「ブルーオーシャン型事業創造」に会社員が社外で挑戦できる『チーム・ゼロイチ』を設立。会社員に最適なアクセラレートプログラム・イノベーション力の成長を可視化する独自測定システムなどを提供している。『チーム・ゼロイチ』は2015年10月に法人化。現在、株式会社チーム・ゼロイチとして数々の大手企業に導入展開中。
●チーム・ゼロイチ

<クレジット>
取材・撮影/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子