写真左:岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)、右:髙橋ゆきさん(株式会社ベアーズ 取締役副社長)

日本初の家事代行会社、ベアーズは、2017年8月からライフネット生命が提供している「がん生活サポートサービス」の提携企業のひとつです。このサービスは、働きながらがんを治療することをサポートするために、がん保険の契約者に対し、家事代行などのサービスを紹介するものです。

ベアーズ創業の理由と同じように、ライフネット生命との提携にも取締役副社長である髙橋ゆきさんのリアルで切実な願いが秘められていました。果たしてその願いとは? 常にポジティブな高橋さんに今後の目標についてもお聞きしました。 (前編はこちら)

■大震災を機に自分らしい暮らしを考える人が急増した

岩瀬:ここ数年で、新聞やテレビで家事代行が取り上げられる機会が増えてきました。時代の流れでしょうか?

髙橋:まだまだですね。ベアーズの20年間を振り返ると、3つのパートに分かれます。創業から約7年間は世間の家事代行への理解が薄く、ハウスクリーニングとなにが違うのかと言われ続けました。ハウスクリーニングというのは、プロの清掃スタッフが専門の機材や溶剤を持ち込んで箇所ごとに行う清掃を指しますが、家事代行は家族の代わりに掃除から料理、買物、洗濯、子どもの世話までするお仕事。この違いをお話しして、家事代行への理解を深めていきました。

岩瀬:それほど時間がかかったんですか。

髙橋:ええ。でも、その2、3年後になると少し流れが変わりました。警備会社や百貨店など異業種からの参入が相次いだからです。それで家事代行の認知があがりました。ただ、家事代行業のオペレーションは簡単ではありません。事業の要は何よりも人。歴史のある立派な会社が参入してきても自社で家事代行業を手掛けるのは難しいです。

そこで異業種の方々から「我々のエンジンになってくれないか」という依頼をいただき、他社とのアライアンスを組むようになったんです。時代を作ってきた企業が、新しい社会的価値の創造のために私たちとタッグを組んでくれた。それによって日本の中で家事代行の存在感が高まりました。

岩瀬:なるほど。それが2つ目のパートですね。3つ目のパートはいつ訪れたんでしょう?

髙橋:2011年に起きた東日本大震災です。あの震災を機に、被災した地域だけではなく、日本列島全体が生きるとは何か、「自分らしい暮らし」とは何か、自分たちは何に貴重な時間を使うべきかを考え始めましたよね。リーマンショックのときもそうでしたが、自分らしい時間に全力を傾けたい、もっと楽に呼吸して生きてもいいんじゃないかと多くの人が考えるようになり、ベアーズの利用者も増えていきました。

■家事代行を通してがん患者やその家族の役に立ちたい

岩瀬:ベアーズはライフネット生命と提携して、2017年11月からがん罹患者向けの家事代行サービスを共同開発しました。この企画はどこから思いつかれたんでしょう?

髙橋:12年前になりますが、私のメンターであり敬愛する父ががんで亡くなったことがきっかけです。病気になると当事者が苦しいのはもちろんのこと、周囲の家族も大変です。でも、家族は本人が少しでも笑ってくれると心がなごむんですね。それを当事者として経験したので、こうした境遇の中に家事代行を役立てることができないものかと真剣に考えました。

そして実現したのが今回のサービスです。病気にはならないのが一番いい。でも、もしなってしまったらどうやって地に足をつけて、気持ちを強く持って生活していけるのか、ライフネット生命との出会いで大きな気づきを与えてもらいました。

岩瀬:健康な人が家事代行を使うことで気持ちが楽になるのであれば、がん罹患者であればなおさらですよね。


髙橋:私も実はこう見えて身体が弱いところがあって、子育てと仕事の両立をする中で人知れず病気に苦しんだ経験もありますので、本当にそう思います。病気になると、がんばりたいと思ってもどうしても笑顔がなくなって下を向きがちになりますよね。家族に悪い、申し訳ないという気持ちも強くなります。でも、自分が笑顔でいることがみなの元気につながることを当人は誰よりも知っているんです。そんなときに家事代行サービスを使ってもらって、心のつかえを取り、笑顔を取り戻して明るく前に踏み出してほしいと思います。

自分が身を置く場所や家族とともに暮らす場所の空間エネルギーが上がれば、気持ちも上向きになります。家事代行を通してがん患者さんやご家族のお役に立てるなら、こんなにうれしいことはありません。

■一度きりの人生をデザイニングしよう!

岩瀬:家事代行と保険との組み合わせ。発表後の手応えはいかがでしたか?

髙橋:大反響でした(笑)。「あなたの生き方のそのものですね」と言ってくれる方もいて、とてもうれしかったですね。企業の商品やサービスには、その会社の思想や生きざまが反映されています。現代は、想いと行動を掛け合わせることで社会を変えていける時代だと考えます。ベアーズ一社ではなくライフネット生命の想いや行動と手を組むことで、前にポンと進むことができました。

岩瀬:今後の展望についてお聞かせください。

髙橋:これからはAIやIoTが普及して、いろいろな職業がロボットに切り替えられていくといわれています。その中で、家事代行はますます、おせっかいや思いやりといった人間らしさが求められていくことは間違いありません。私たちのことを頼りにしてくれているお客さまから「助かったよ」「ベアーズの存在があってよかった」と心から言われる存在になりたいです。

家事の現場を担うレディさんの底上げも社会的に行っていくつもり。家事代行従事者の職業的な地位を向上させて、5年後には国家資格を作りたいですね。

岩瀬:素晴らしいですね。

髙橋:この地球では、想いと行動があればなんでもできるし、自分の人生をデザイニングできると思っていますから(笑)。いままでは、せっかく想いがあっても行動できなかったり、逆に行動をしていても意思や意識が伴っていなくて残念な結果になったりすることもありました。でも、これから3年ぐらいで違ってくるはずです。想いと行動が合致して社会が動いていくとみています。

岩瀬:人生のデザイニング、良い言葉です。

髙橋:はい。一度きりの人生をいかようにもデザイニングできる時代になっていくと確信しています。家事代行も、使ってみたいという意思はあるのになんとなく行動に移してはいけないと感じてしまう意識や雰囲気は確実になくなるんじゃないでしょうか。2018年は自分らしい一歩を意識して選べる時代の始まりだと思いますよ。

<プロフィール>
髙橋ゆき(たかはし・ゆき)
家事代行サービスのパイオニアであり、リーディングカンパニー株式会社ベアーズの取締役副社長。社内では主にブランディング、マーケティング、新サービス開発、人財育成担当。 同社は2012年テレビ東京「カンブリア宮殿」に出演。2017年には日本初となる「家事代行サービス認証」(日本規格協会)を取得した。家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広働く活躍中。2015年 に世界初の家事大学設立、学長として新たな挑戦を開始。2016年のTBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも家事監修を担当した。1男1女の母でもある。座右の銘は「人生まるごと愛してる」
●家事代行のベアーズ

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也