写真左から、ライフネット生命保険 中田華寿子、出口治明、岩瀬大輔

ライフネット生命の開業9周年を記念したセミナーが6月9日、東京・京橋の「イトーキ東京イノベーションセンター SYNQA」で行われました。

会場では、100名超の参加者の方々の前で、今期限りで退任する会長の出口治明、常務取締役の中田華寿子がごあいさつ。社長の岩瀬大輔と共に、創業からこれまでの軌跡を振り返りました。

お客さまに来て頂いてその年の活動を振り返るのは、ライフネット生命の恒例行事。特に、「できるだけみなさんからのご質問に答えたい」ということで、質疑応答はいつも1時間近くにわたって行われます。

この記事では、「出口、会長やめるってよ」というイベントタイトルにちなみ、これが最後の登壇となった出口と中田が、会場からのご質問にどう答えたのか、そして、社内に向けてどんなメッセージを送ったのか、その模様を抜粋してお送りします。

■Q1「出口と岩瀬が出会わなかったら、どんな人生だった?」

出口:私は歴史が好きなんですが、その立場からいうと、歴史に「もし」はないんですよ。だから、この3人がいなかったら、ライフネット生命はないんです。もし出会わなかったらどうしていたか、ということじゃなく、この出会いは、歴史上の必然だったと思っていますね。

岩瀬:僕がいなくても出口はライフネット生命のような会社を作ったとは思います。でも、みなさんが知っているような会社にはなっていないでしょう。実は社名を2人で考えたときに、出口の案は「真っ正直生命」でした。きっと明朝体で、筆で描くようなロゴイメージで。
それでは誰も若い人が入ってくれないですよね? いまのイメージは、7割は中田が、3割は僕がつくってきたと思います(笑)。

振り返って思うのは、人生はどうなるかわからない。出口と出会う前に、自分がまさか保険の仕事をするなんて思ってもいませんでした。そして会社を作る際には、中田からもたくさんのアドバイスをもらっています。この会社は3人の作品のようなものですね。

 

■Q2「設立から振り返って思うことは?」

出口:本音でいえば、「ダーウィンは偉いな」ということです。彼が言った適者生存という考え方は、賢いもの、強いものが生き残るってことじゃないんです。世の中はどうなるかわかりません。変化に対応することだけが、生き残る術です。(開業までの準備期間も含めて)10年やってきて、そう言ったダーウィンは偉いと、あらためて思いました。

開業したときは、スマホを使っている人はほとんどいなかった。ましてや生命保険にスマホで入るなんて……という時代でした。でも、ライフネット生命も今はスマホの申込みに対応して、加入者を伸ばしています。まさに商売の原則とは、適応だなと思っています。

中田:あっという間だったといえるし、ずいぶんとかかったとも……。いろんな思いがあって、まだ一言では言えないですが、私がこの会社でできたものを挙げるとすれば、何よりも仲間ですね。安心してみなさまの前で退任のごあいさつができるのも、彼らが見守ってくれるからです。

私たちは後ろ盾のない独立系の生命保険会社です。だから、ここにいる社員はみんな、自分たちが新しい生命保険を作るんだという覚悟を持っています。そういう仲間がいるということが非常に心強いし、高い志をもつ彼らの存在自体、もっとも誇りに思います。

■Q3「岩瀬は次のステージで会社の何をどう変えるのか?」

岩瀬:正直、今はまだ次のステージへの助走期間かなと思っています。マラソンでいえば、競技場からようやく出たばかりというか。

以前、ウォーレン・バフェットの投資会社「バークシャー・ハサウェイ」の利益推移について調べたことがあります。最初の年は3億円で、10年目でまだ6億円くらいだったんですね。でも今は、5兆円を超える手元資金があり、世界一の投資会社になっています。

日本で現存するもっとも古い生命保険会社は明治安田生命さんの前身である明治生命ですが、設立は1881年だと思います。ライフネット生命は10年目に突入といっても、明治安田生命さんにとってはまだ1891年のレベルなんですよ。やっていると長く感じますが、大きな視点で見れば、まだ10年しかやっていないともいえるわけです。

よく出口は、100年後には世界一の保険会社になると言います。僕は「何を言っているんだろう」と思っていたんですけど、バークシャーを見てもわかるように、長いスパンで見れば、決して不可能なことじゃないんだなって思うんです。

あまり成長に時間がかかりすぎると問題ですが、要は、そのぐらいの時間軸で会社を作っていかなければならないということです。この10年は、ライフネット生命の土台を作るための期間でした。黒字化して、大きな会社もパートナーになってくれた。会社としての体力も付いてきた。さて、どんなことをすれば、もっと世の中がワクワクしてくれるかなと考えるタイミングだと今は思っています。

■Q4「出口が自分を慢心から戒めるために気をつけていることは?」

出口:本人の心がけもあると思いますが、もっとも大切なことは仕組みです。ライフネット生命は開業時から、チーフ・コンプライアンス・オフィサーという、社内をしっかり監視する人を独立した立場で置いています。けっこう怖いおじさんが、いつも目を光らせているんです。

ときには、「もっと融通がきかないかなあ」って思うこともありますけど、そういう立場が独立した人がいることで、仕事に緊張感が生れるんです。そうやって上に立つ人間が慢心しないように、上手に仕組み化していくことが、大事じゃないかと思っています。

あとは情報公開ですね。いろんなことを隠し立てしないでシェアして、さまざまな人にチェックしてもらう。僕は大学で憲法を学んで、情報公開は民主主義の血液だと教わりました。風通しが良い会社にするためには、そこも欠かせないですね。

■Q5「年齢差を超えて言いたいことを言うためのコツは?」

岩瀬:出口ってすごい人で、何を言われても9割は怒らないんです。それが大きいですね。「この人は怒りそうだな」って思うと、下の人はいろんなことを伝えなくなるじゃないですか。だから、上の人に何でも言いやすい空気にすることが、会社のカルチャーとして大事だと思います。(出口に)どうですか?

出口:岩瀬も含めて、若い人がガンガン言いたいことを言う風土もありますから、上の人間が何でも聞く、下の人間が言いたいことを言う、その両方が大事でしょうね。僕はよく指示されてますからね。今でも会社を出るときに、部下から指示書を渡されます。

指示書ってなにかといったら、一枚の紙に、何時にどこに行ってください、明日は何時に会社に来てください、まさに「指示」が書いてあります。多分、会長に指示書を渡す会社なんて、そんなにないですよ。そのくらい、みんな上司に遠慮せずに好きなことを言う風土があるんです。

岩瀬:われわれは3か月に一度、契約者の方と「ふれあいフェア」というのをやっているのですが、そこでお客さまから、「テクノロジーは保険をどう変えるのか」っていう質問がきて、お答えしたんです。

そうしたら、司会をやっていた新卒1期生が、「今の岩瀬の答えはイマイチだったので私が追加でお答えします」とすごくいい答えを言って、お客さまもびっくりしていました。そういう風土は、これからも大事にしていきたいです。

■Q6「なぜCMが厚切りジェイソンなのか?」

岩瀬:私は普段あまりテレビを見ないんですが、たまたま見たときに、厚切りジェイソンさんのネタがものすごくツボだったんです。友人の前でたまにモノマネするくらい面白かった。でも、社員には伝えていませんでした。それがCMの企画を考えるときに、タレントの候補としてジェイソンさんを提案されて、「あれ? 何で好きだってことを知っているんだろう」とびっくりしたんです。

もちろん、それで選んだわけではなくて、真面目に答えると、ジェイソンさんは言いづらいことをユーモアを交えながらはっきり言う方ですよね。私たちも保険料の内訳を初めて公開したりして、業界が言いづらいことを明らかにしてきました。

そこに親和性があるし、ジェイソンさんは面白いだけじゃなく、すごくインテリジェンスもある方だから、主張に説得力が感じられる。角が立ちそうなことも、ジェイソンさんを通じて言ってもらうことで、もっと幅広い層に届くのではなかと思って、ご出演をお願いしたというわけです。

■Q7「保険の仕事の面白さとは?」

出口:保険は社会のセーフティーネットだと思っています。人間にとって幸せとは何かといったら、「やりたいことに挑戦できること」ですよね。でも、病気やケガをして財産を失ってしまうようなことになったら、やりたいことも諦めなければならなくなるかもしれない。そういう不幸を防ぐためにあるのが、保険なんです。つまり、保険というのは社会を支える仕事ですから、こんなにやりがいのあることはないと思っています。

■Q8「中田にとって出口、岩瀬とは?」

中田:ライフネット生命には社員同士が言いたいことを言う文化がある、という話が岩瀬からありましたが、私にとっての出口も岩瀬も、本音を言い合える同志でした。大先輩の出口には日々身近でいろいろなことを教えてもらいましたし、私からも、お客さまへのお伝えの仕方など何でも伝えてきました。出口の提案に対して違うと思ったら、「せんえつながら、出口さんのおっしゃることは間違っていると思います」と言い合ったこともあります。

岩瀬は私のことを「ライフネットの乳母」と呼ぶのですが、どちらが上か下かということもなく、ライフネットの現在、将来のことを話し合ってきました。そういった瞬間がとめどもなく思い出されるくらい、私にとって出口も岩瀬も、大切な同志です。

■Q9「社員に伝えたいことは?」

中田:会社を支える次の世代はあなたたちです。私たち創業時の経営陣が作ってきた過去に囚われず、自分たちがお客さまの気持ちになって、一番いいと思えるものを作ってください。今日がそのきっかけの日になるのかなと思っています。

■Q10「出口が対談してみたい歴史上の人物とは?」

出口:対談してみたいのは、ぶっちぎりでクビライ・ハンです。クビライが王座にいたのは1260年から1294年くらいですが、ヨーロッパでは十字軍が最後の時代で、イスラム教徒の首を切ったローマ教会は偉いと言われていたわけです。

そのときにクビライは、「思想信条や宗教は人間の頭の中にあるもので、それだけで判断してたら人間の価値なんて見えてないではないかと。そんなことで首を切っていたらもったいない。どんなことをやりたいか、何ができるか聞いて、それに応じて使っていけばいいじゃないか」と考えた。

クビライは社会常識や通念を無視して、自分の頭で物事を考えることができた、おそらく史上最大のリーダーだと思うんですよね。これはぜひ、話を聞いてみたいです。

■最後は、来場者のみなさまに向けて3人があいさつ

岩瀬:出口と中田がいなくなってしまうのは寂しいですし、いてもらったほうが楽な部分もあります。でも、いつまでも「3人の会社」ではダメだよねって互いに話してきました。50年、100年続く会社にするためには、属人的な会社でなくて、会社自体をみなさんが安心して利用できるようにしなければならないと思っています。ふたりの退任は、それに向けた一歩です。

創業からのこの10年で会社は変化しましたし、私も41歳になって白髪が増えました。会社も人も変わっていくものですが、これからの10年は、これまでの10年よりも、もっともっと素晴らしいものになると確信していますし、みなさまからもっと信用され、愛される会社を目指していきます。

中田:社名は出口が最初に考えた「真っ正直生命」にはならなかったですが、中身は本当に真っ正直な人たちがやっている会社です。これからも応援をよろしくお願いします。6月25日の株主総会をもって退任する予定ではありますが、これからは一人の契約者としてライフネット生命をサポートしてきたいと思います。

出口:競争が激しくなっている中で、どうやって生き残っていくか? という話がありますけど、歴史的に見ればですね、どんな業種であっても、たくさんの人が「この会社はあったほうがいい」と思う会社が残っていくんです。

ライフネット生命の創業からこれまでの10年は、お客さまのみなさんに支えられてきました。これからもお客さまに支えてもらわなければ、社員がどんなにがんばったところで、やがてたち行かなくなると思います。今後は新しい経営陣をみなさんで支えてやってください。どうぞよろしくお願いします。

<クレジット>
撮影:村上悦子
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン編集部