普段意識することはないけど、生まれてから死ぬまでの生活になくてはならないものといえばなんでしょう。ズバリ「社会保障制度」です。病院で支払うお金が3割で済むのも、保育所があるのも、ぜんぶ社会保障制度があるおかげなんです。
でも、「社会保障って難しい」と感じている人のほうが多いと思います。大丈夫、それはふつうの感覚です。
「社会保障のことを勉強しなきゃとよく言うでしょ、でも、一生に一度か二度くらいしか経験しないようなことについて、みんながみんな、詳しくならなくたっていいんです。困ったときに社会保障を分かっている人に聞いて、そのときそのときで解決していけば」とおっしゃるのは、社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生。
「だって社会保障って難しいし改正もあるから面倒だもの! 私のような存在に聞いてくれればいいんです」という素敵なお言葉に甘えて、薫先生に「社会保障」のことを教えてもらいましょう!
今月の疑問 「国民年金って入らなくても別に違法じゃないよね?」 【今回のポイント】 ・違法かどうか ・メリットはあるか ・払わなかったらどうなるか ・自前で用意するとどうなるか ・でもムリ、払えない……そんなときは |
■国民年金に入らないのは違法?
国民年金の基本ルールは「20歳~60歳までの日本に住んでいる人は加入義務がある」ですから、入らないと義務違反、つまり法律違反となります。
「でも、加入義務があるというだけで入らないといけないのは、なんか納得できない……」と思うかもしれません。そこで、国民年金に加入するメリット・デメリットも見てみましょう。
■国民年金に加入するメリットはあるか?
気になるのは損得だと思いますが、率直に言うと、年金制度は貯金ではないので、損得で考えるものじゃありません。では何なのかというと「保険」です。
みなさんは、健康保険や国民健康保険の掛け金を損だとはあまり思わないはずです。家が焼けたときに備える火災保険も、事故に備える自動車保険も「火事にならなかったから、事故を起こさなかったから損した」とは思わないですよね。
保険というのは、みんなで出し合ったお金を、困った状態におちいった人に分配する制度です。
では、国民年金はどのような“困ったとき”に備えてくれるかというと、以下の3つです。
- ケガや病気で重い障がいが残って、生活や働くことがかなり難しいとき(若くてもOK)
- 子ども(基本は高卒までの子ども)を遺して親が亡くなったとき(若い親もOK)
- 思うように働けず収入を得るのが難しい年齢になったとき(老後)
年金といえば3番の老齢期のことだと思っている方も多いと思いますが、実はそれだけではありません。若い世代にとってはそれ以前に1番、2番の価値が非常に高いのです。それに加えて老齢期の備えもあるわけですから、ひとつの制度で3つもオイシイのが国民年金です。
■払わなかったらどうなる?
「いやいや、そうは言っても制度が崩壊したら1番も2番もないじゃない」と心配して、保険料を払わなかったらどうなるのでしょうか?
国民年金で、先述した1~3番のときにもらえるのは年間約78万円(2019年度)が基本ですが、保険料を払わなければゼロ円になります。つまり、例えば
- 30歳で重い障がい状態になり日常生活がとても困難なとき(障害年金2級なら年間約78万円)【障害年金】
- 35歳で3歳の子供を残して亡くなったとき(配偶者と子が遺された場合、遺族年金は年間約100万円)【遺族年金】
のようなときに何も受け取れないということです。
仮に上の遺族年金を、子どもが18歳になるまで15年間受け取ると約1,500万円ですから、この金額を受け取れないとしたらもったいないですよね。
そこで、国民年金と同程度の老後の年金と遺族や障がいへの備えを、生命保険などの民間保険を組み合わせた場合、保険料はどの程度になるか調べてみました。
結果は、国民年金の3セット(障がい・遺族・老齢)と同程度の仕組みは作れない=保険料が高額になってしまうので商品としては難しいようでした。
特に障害年金は仕組みが複雑で、民間保険では代わりを探すのが難しい状況です。
そこで、少し無理矢理に老齢年金と遺族年金に近い民間保険の商品を組み合わせてみたところ、障害年金がないにもかかわらず、国民年金保険料より高くなってしまうことがわかりました。
国民年金保険料が先の3セットで月16,410円*なのは、税金によって保険料が低く抑えられているからなのです。
(*第1号被保険者および任意加入被保険者)
■でもムリ、払えない……そんなときは
「そう言われても、現実問題お金がなくて払えない!」と困る人もいるでしょう。
そんなときは、とにかく急いで住所地の役所の国民年金課か年金事務所へ行き、保険料「免除」や納付「猶予」の相談をしてください。
本来は保険料を払っていないと障害年金や遺族年金のしくみから除外されてしまうのですが、きちんと手続きをして、しばらく保険料を払わなくても良い「免除」や「猶予」が適用されれば、しくみから追い出されずに済みます(収入などの要件があります)。
特に障害年金は初診日、遺族年金は亡くなった日より前の保険料納付状況が、年金をもらえるかどうかのポイントになります。
お金がないからと支払いを放置している間に、体調不良になり病院へ行き、その後、障害年金を受給できる障がいの状態に該当したにもかかわらず、保険料納付要件を満たせず受給できなかった……といった非常に残念なケースもあります。
また、退職後、転職までの間のブランクには要注意ですし、結婚して配偶者の扶養に入る手続きも急ぐ必要があります。
■まとめ
国民年金は、障がい状態への備え、遺族への保障、老後への資金準備の3点がセットになった「保険」です。
保険料納付期間に未納期間があると、若くてももらえたはずの障害年金や遺族年金が受けとれなくなってしまうことがあるため、保険料は払ったほうが良いです。
収入が少なくてどうしても無理なときは、急いで免除等の手続きをすれば、しばらくの間は未納のリスクを防ぐことができます。
困ったときは、担当窓口や専門家に相談しましょう。
※年金額は2019年度の額です。
※年金制度等については、わかりやすくするため概要にとどめ、表現も簡略化しています。
※役所の担当窓口は各自治体で名称が異なる場合がありますので事前に確認してください。
<クレジット>
文/中村薫(なかむら・かおる)
●なごみFP・社労士事務所
<プロフィール>
1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。