自宅から、カフェから、コワーキングスペースから。さまざま場所で仕事ができるテレワーク。誰もがメリットだけを享受している……わけではありません。今回の相談者さんも、在宅勤務に気持ちを切り替えられず、落ち着かない毎日を送っているそうです。もともと自宅でお仕事をすることが多かった黒田先生のお答えやいかに。

【相談】
初めてテレワークをすることになりました。これまではずっとオフィス勤務だったので、なかなか気持ちを切り替えることができません。なんだか職場と家が混ざってしまったようで気分が落ち着かず、仕事の合間に洗濯物を取り込んでいていいのだろうか、などとあれこれ気になってしまいます。黒田先生はご自宅でお仕事をするなかで、大切にしていることはありますか? テレワークをうまくこなせる方法を教えてください。(28歳・女性)

■テレワークになじめないのはあなただけではない

気持ちの切り替えができないという相談者さん。きっと真面目な方なんでしょうね。ダラダラと仕事をするのがいやで、オフィスでもてきぱきとお仕事をこなしてこられたんだと思います。だからこそ、プライベートと仕事が一緒、という環境になじめないのでしょう。

でも、それは相談者さんだけではありませんよ。安心してください。

リクルートマネジメントソリューションズが実施した「テレワーク緊急実態調査」の結果を見ると、誰もがテレワークによってワーク・ライフ・バランスを実現し、満足しているわけではないことがよくわかります。

(出典:リクルートマネジメントソリューションズ「テレワーク緊急実態調査」2020年)

この調査では、テレワーク環境下におけるワーク・ライフ・バランスの変化のパターンを、「ワークの質の変化」「ライフの質の変化」「業務ストレスの増減」の3つの観点から分析し、以下の5つのタイプに分類しています。

  1. ワークの質もライフの質も上昇して、業務ストレスが減った人
  2. ワークもライフも質は上昇したけれど、業務ストレスは増えてしまった人
  3. ライフの質だけが上昇した人
  4. 変化がなかった人
  5. ワークもライフも低下した人

さて、相談者さんはどのタイプでしょうか。

■テレワークに必要なのは「慣れ」!?

結果を見ると、もっとも多かったのが、“変化がなかった人”で、全体の約40%。次が“ライフの質だけが上昇した人”の21%。さらに、“ワークもライフも低下した人”が約16%、“ワークの質もライフの質も上昇して、ストレスが減った人”が約12%、“ワークもライフも質は上昇したけれどストレスは増えてしまった人”が11%と続きます。

つまり、一番多かったのは、「何も変化がなかった」という人なんです。テレワークによってライフの質もワークの質もともに上がってストレスも減り、公私ともに充実した、という人は約12%。8人に1人に過ぎません。どちらも低下してしまったという人も約16%存在しています。

ただ、テレワークや在宅勤務で効率よく仕事がこなせるかは、ひとえに「慣れ」の部分も大きいと思います。テレワークを始めて間もない方の場合、その働き方になじめず、戸惑いを感じるのも無理はありません。

だから、相談者さんがなんとなく落ち着かないと感じるのも当たり前。きわめて自然な感情なのです。

でも、通勤時間がないメリットは感じていませんか? いつも満員電車に乗っている方であれば、そのストレスからは解放されているかもしれませんね。

いまはテレワークに違和感があって、気分がなんとなく落ち着かなくても、慣れで解決できることも多いはず。せっかくテレワークが導入されたのですから、できればいいとこ取りをしてみようという気持ちで仕事に臨んでみてください。

■効率的に時間を使おう

ちなみに、私の場合、普段からほぼテレワーク中心でした。セミナーや地方出張、個人相談や取材、打ち合わせなどで、外出することも少なくありませんでしたが、基本的に、パソコンとネット環境があれば、在宅でできる仕事です。
そんなテレワーク歴が長い私の1日の過ごし方を参考までにご紹介しましょう。

早寝・早起きの規則正しい生活がモットーなので、だいたい5時起床、22時〜23時就寝です。起きたらすぐにジョギングに行って、朝6時〜9時、夕方18時〜21時は家事をこなします。
なので、仕事ができる時間は9時から18時までです。
仕事の前に、私はまずその日にやることをすべてノートに書き出します。プライベートも仕事も、どちらの予定もすべて可視化し、優先順位を決めていきます。

集中力がある午前中には頭を使う仕事を割り当てます。午後の時間帯はどうしても効率が落ちるので、そこまで頭を使わずに済む作業に充てます。ミーティングは午後一番でやることが多いです。お昼をとった後はどうしても眠くなってしまうので、気が張る会議や打ち合わせを入れて、眠気を吹き飛ばしています。

夕食後は、積み残した仕事がある場合は、それを片付けます。ただし、時間を決めてやります。ダラダラと続けることはなし。原稿のゲラのチェックや、次の日の効率を上げるための仕事の下準備などをすることが多いでしょうか。
受けた取材の原稿チェックなどは、夜22時くらいに原稿が送られてきて、翌日の朝イチにご回答ください! なんてことが常なので、気が抜けません。

1日は24時間しかありません。限られた時間内で、睡眠に6〜7時間、家事に6時間を費やしたらもう残りは11時間だけ。その中で仕事をして、買い物をして、食事をすることを考えると、効率的に時間を使うしかないのです。

■テレワークにはたくさんのメリットがある

いずれにしても、テレワークについてはぜひとも前向きに考えてもらいたいと思います。というのも、これからは会社員の働き方が劇的に変わる可能性が大きいからです。

これまで会社員は、プロジェクトごとの進捗状況などを管理されることはあっても、1日あたりの生産性については、そこまで管理されてきませんでした。しかし、テレワークが加速化すると、一人ひとりの生産性や成果が求められてくるはず。仕事の達成度や中身が測られ、仕事をしていない人が可視化されるでしょう。相談者さんもぜひ、時間を効率的に使って生産性を上げてくださいね。

テレワークにはメリットが多いです。通勤時間を「ワーク・ライフ・バランス」のうちの「ライフ」に充てられるだけではありません。家で仕事ができるので、これからは病気や育児、介護といった理由で離職をする人が減っていくのではないでしょうか。家族の海外転勤が決まって、キャリアを中断せざるを得ないということも減っていくかもしれません。すでに、都心部ではなく、物価や住居費などのコストが安い地方に移住する人もいると耳にします。

テレワークで働き方の選択肢が増えるのは確かです。相談者さんにも、これからどんなに楽しいことや思わぬことが待っているかわかりません。時間のやりくりを変える必要が出てきたり、好きな場所で働きたくなったりするかもしれませんよね。慣れておくと仕事を続けやすいですよ。自分なりのテレワークスタイルを見出してくださいね。

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<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)。 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子