もし、ライフネット生命が事業所内に保育園をつくるとしたら? というテーマで考える「妄想会議」。「まちの保育園・こども園」を運営し、事業所内保育の支援も手がける松本理寿輝(りずき)さんをアドバイザーに迎え、ライフネット生命からは小学4年生の子どもを育てる関根・川端と、0歳児を今まさに保育園に預けている石井が参加しています。後編ではどんな保育園にしたいか、自由にアイデアを出し合ってもらいました。
(前編「キーワードは『子どもと親の学びの場』。預けてよかったと思える保育園とは?」はこちら)
■事業所内保育だと、昼間も子どもに会える
──もしライフネット生命が事業所内に「ライフネット保育園」をつくるとしたら、どういう保育園がいいでしょうか?
関根:場所はここですか?
松本:事業所内保育は基本的に事業所内、もしくは近辺につくるものなので、このオフィス内を想定して考えましょうか。
石井:通勤が大変ですよね……。
川端:それは考えちゃいますね。けっこう通勤ラッシュで、もみくちゃになるから……。
松本:ライフネット生命さんは、出勤時間って決まっているのでしょうか?
関根:所定時間は、午前9時から午後5時半までですが、フレックスタイム制を導入していて、コアタイムは10時から3時までです。そこをどう使うかですね。
川端:まだ、抱っこで移動できる年齢ならいいかもしれませんね。3、4歳になって、歩きたいけど、長時間立っていられない、となると大変です。
関根:そう考えるとやっぱり、今ある事業所内保育を利用している園児のボリュームゾーンは、0歳から3歳くらいまでなんですか?
松本:そうですね。少し大きくなったら地元の保育園に移る、という方も多いです。本当は地元の保育園、こども園に入れたいけれど、入れるかどうかわからない。入れなかったら仕事をやめなければいけないかもしれない。そういった場合に、必ず入れる事業所内保育の選択肢があったら、安心ですよね。
──ライフネット生命は千代田区の麹町にあり、通勤のことを考えると実現へ向けたハードルは高いかもしれませんが、とりあえず一緒に通勤できたとして、どんな保育園だといいかを考えてみましょうか。
川端:事業所内保育でも、運動会や遠足ってできますか?
松本:それは自由に決めていい部分です。やっている施設もありますよ。
関根:運動会や発表会はやりたいですね。近隣の小学校の校庭を借りたらできるんじゃないかな。
川端:それに、社員も全員参加する、と(笑)。
松本:せっかくなら、大人も参加でいきたいですよね。大人も何かを発表したりして。そういう機会に、子どもを通じて社員同士がより深くつながれたら、事業所内保育の意義も大きいと思います。
関根:保育園ってお昼ごはんを子どもたちに出すから、そこで社員も一緒に食べられるようにするといいかも。
石井:あー! それいいですねえ。せっかく近くにいるんだから、子どもと一緒にランチしたい。そして、他の社員ともそこで話したい。
松本:そうなんですよ。事業所内保育のいいところは、昼間も近くにいるのでちょっとした休憩時間に会えるということなんです。普通に保育園に預けていたら見られない、日中の子どもの活動も、そのなかでの成長も見ることができます。
石井:それすごくいいですね……!
■園児も仕事をして、社員は先生になる
関根:きっと、今子育てしていない人でも保育園に行けたら、おもしろいと思うんですよね。
川端:うちの会社のメンバーも、みんなかわいがってくれるんじゃないかなあ。
松本:例えば、社員のボランティア枠をつくって、毎日1人は必ず専任で入るようにする、ということも考えられます。もしかしたら、上司が部下のお子さんの面倒を見ることで、より理解が深まって、家庭の事情にも親身になってくれたりするかもしれません。
石井:あとはやっぱり、お酒が飲めるバーですかね(前編参照)。保育園に併設じゃなくてもいいんですけど、社内に少しお酒が飲めて、話ができるところがあるといいなと思うんですよ。もちろん、子どもも連れて入れる。
松本:それは、子どもにとってもいいことだと思います。お父さんやお母さんが、他の人と真剣に議論していたり、目を輝かせて仕事の話をしていたりする姿を見せることは、子どもにとてもいい影響を与えるんです。日本だと、子どもは自然のなかでのびのび育てるのがいい、という考え方がよく語られていますが、欧米では、子どもは文化にふれて育つ、と考えられているんです。だから、普段子どもが目にしないような、オフィスで大人が働いている様子や、同僚と楽しげに話している様子などを見せるのはいいと思います。
関根:せっかくなので、子どもたちにもなにかお仕事をしてもらいたいですよね。例えば、1日に1回または週に1回、会社に何かを報告しに来るとか、成果物を出しに来るとか……。
石井:成果物(笑)。それは、会社の中にあるからこそできることですよね。
関根:何がいいんだろう。例えば、社内にディスプレイのスペースを設けて、そこは必ず保育園のみんなで飾ってくださいとお願いする、とか。
松本:それはもう、2歳後半くらいからできるようになると思います。責任感も育ちますよ。子どもに参加の機会をつくるというのは、いいですね。
関根:あと、この近辺にも住んでいる方々がいるので、そういうご家庭のお子さんにも来てほしいですね。
松本:地域枠、というのを設けられるんですよ。基本は従業員のための保育所なんですが、半数未満であれば地域のお子さんを受け入れてもいい、ということになっています。それができたら、地域との接点にもなりますよね。
川端:さらに言えば、6歳過ぎて小学生になっても来られるといいですよね。地域の方もそうですし、自分の子も来られたらいいな。
松本:川端さんのお子さんは、小学4年ですよね? それくらいになれば、もう電車に乗って放課後に来られるかもしれないですね。
石井:帰りは一緒に帰れますもんね。
川端:そう、がんばって来てくれたら帰りは一緒に帰ろう、って。保育園にいる間は、年下の子たちの面倒を見てもらう。宿題がわからなかったら、会社には頭のいい人たちがたくさんいるから、教えてもらいなさいって(笑)。もう私の能力では教えるのが限界なので……。
関根:学生時代、塾の講師を経験した社員もけっこういますしね。
川端:英語を話せる人も多いし。
松本:趣味で音楽をやっている方とかもいるんじゃないですか?
川端:ピアノを弾ける人はいますね。
松本:そういう、社員の方のそれぞれの得意分野を子どもたちに教えてあげるのはいいですね。社員先生、みたいな感じで。
関根:おもしろいですね!
■愛のある、いつでも帰れる場所に
川端:システム担当の部署の人に、プログラミングも教えてもらいたいなあ。社員の能力を活用したら、すごく贅沢な習い事や塾ができるんじゃないでしょうか(笑)。
松本:学校がつくれそうですね(笑)。そして、川端さんがおっしゃった通り、保育の時期を過ぎていても、みなさんの子どもが来られる場にするといいのかもしれませんね。
川端:保育園って、卒園しちゃうと気軽に行けないじゃないですか。でも、6歳まで濃密な時間を過ごした場所と、縁がぶっつり切れてしまうのはすごくもったいないと思っていたんです。保育園だけど、小学生も、中学生も、もっと大人も使えるとなったら、気軽に遊びにいける。いつでも帰れる場所になったらいいですね。
松本:いつでも帰れる場所、いいですね。
関根:そういう場所にするためには、やっぱり愛がないとダメですよね。保育所運営をビジネスと割り切るのではなく、人を育てる場所なんだという思いがないと。この企画を聞いて、うちの子に「保育園どうだった?」って聞いたら、最初に入っていた保育園のことをまったく覚えていなかったんです。どういう場所だったかとか、全然思い出せない。でも、「こういう優しい先生がいた」ということは覚えていて。
松本:そう、人のことは覚えてるんですよね。
関根:だから、やっぱり施設の設備とかそういうものでなく、そこにいる人の気持ちが大事なんだなと思ったんです。
川端:理想は、社員なのか、誰のお父さん・お母さんなのか、先生なのかわからないくらい大人がいっぱいいて、行けば誰かが相手してくれて、楽しい気持ちで1日を終えて帰れる場所。帰りに、「今日は◯◯さんと遊んだよ」という話を聞いて、よく聞いたら「社員の◯◯さんだ!」って気づいたり(笑)。そんなにはっきり、この人が先生です、保育者です、って決めなくてもまわるようにできたらいいですね。見守っていてくれるだけでありがたいので。
関根:あと、叱るときは叱ってほしいですよね。
川端:ああ、それ大事ですね。最近、相手の親の反応が怖くて、よその子に対してはっきり「ダメだよ」って大人が言えなくなってきている気がします。
石井:たぶん、その相手を信頼していれば叱っても大丈夫だけど、信頼感が醸成されていないなかでよその子に何か言うのはむずかしいですよね。その点、事業所内保育だったら、まわりにいる大人はみんな社員だからすでに関係が構築されている。
松本:自分の子が大好きな大人が、自分の同僚であるというのはすごくステキな関係ですよね。
──ではそろそろお話をまとめると、「“妄想”ライフネット生命保育園」の大きな特長は、社員のリソースを活用した塾&習いごとが充実している、小学生以上になってもいつでも帰れる場所、ということですね。ライフネット生命らしい保育園になりそうです。
石井:なおかつ、松本さんが運営する保育園みたいに、カフェバーがついていたら最高だと思います!(笑)
<プロフィール>
松本理寿輝(まつもと・りずき)
ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役。1980年東京都生まれ。一橋大学商学部商学科卒業。2003年博報堂に入社。不動産ベンチャーの経営を経て、かねてから温めていた保育の構想の実現のため、10年ナチュラルスマイルジャパン株式会社を設立。東京都認証保育所(のちに認可)「まちの保育園 小竹向原」を設立。現在、六本木、吉祥寺で認可保育所、代々木上原で認定こども園を運営。今年10月に代々木公園内に認定こども園を開園予定。
●まちの保育園・こども園
<クレジット>
取材・文/崎谷実穂
撮影/村上悦子