■国が変われるか否かは国民が動くかどうかで決まる

澤上:ただね。みなさん、日本経済をよく考えてください。バブルがはじけてもう24年たったんですよ。24年経って、みなさん含めて日本人の生活水準ってとんでもなく高いと思いませんか?みなさんの中で70年代や80年代のヨーロッパやアメリカの経済状況を経験した人は覚えていると思いますが、イギリスの70年代は最悪でした。

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出口:本当にそうでしたね。あの頃はひどかった。

澤上:そう。大英帝国の末裔とは思えないほど、ボロを着ている人がたくさんいました。アメリカも、70年代から80年代の終わり頃までは、ひどい状況でしたよ。公務員をどんどん減らしたために公共サービスは低下して、ゴミの収集もなくなって、警官が減ったから犯罪が増えちゃった。でも、そういう国々が、サッチャー政権やレーガン政権を機に3、4年経つと変わってきて、そこから16年あまりで、ずっと3%強の経済成長を成し遂げた。

どうしてそれが可能だったかといえば、もちろんサッチャー政権やレーガン政権の適切な政治采配もあるかもしれませんが、ポイントは一人一人の行動です。サッチャーもレーガンも、「国民のみなさん。申し訳ない。国にはもうお金がありません。国がやれることは規制緩和だけなので、みなさん自由にやってください。思い切って大幅減税をするから、いま行動した人は得ですよ」とやった。

最初のうちは、経済学者からけちょんけちょんに批判されたし、いまでもまだ言われていますが(笑)、その後あっちこっちで動き出す人が出てきた。その人たちは、国が規制緩和に踏み切ったからこそ動けたんです。すると、じゃあ僕も私もと行動する人がだんだん増えていって、3年目以降ぐらいから、急激に経済が持ち直した。国が変われるか否かはひとえに国民が動くかどうかにかかっているんですよ。

■年齢を重ねれば、リスクが単なるコストになる

出口:そのときに大事なのがロールモデルでしょう。身近にいる普通の人が動いたら、僕もできると思える。身近な人が動き出すことはものすごく大事です。僕は、60歳で開業したので、よく還暦ベンチャーと言われますが、実は中高年の方が圧倒的に動きやすいんですね。いま日本の平均寿命が80才。社会で働き始めるのが20歳前後だとすれば、一人前になってから60年もある。その半分の30年を20歳に足したら50才。つまり、50才で人生ちょうど真ん中やと思うんです。

その年になれば、子どももある程度大きくなっているし、いろいろことがよくわかってるのでリスクも少ない。リスクが怖いと思うのは何が起こるのか想像つかないからで、例えば、清水の舞台の底は何メートルあるかのわからなければ足が震えますが、50歳くらいになって、清水の舞台といっても実は12メートルしかないと知れば別に怖くない。ゆっくり降りればいいわけです。つまりリスクが単なるコストになる。だから、まずは経験のある中高年が行動した方がロールモデルになりやすいし、社会もうまく回るんじゃないかと思います。

澤上:おっしゃる通りです。ベンチャーというと、若い人の世界と思われていますが、全然違う。長期投資の世界も同じです。僕は44年間、この世界でやってきた。経験なら誰にも負けません。ニクソンショックも第一次石油ショックも経験しました。だから、その後に何が起きてどういう行動を取ったらよかったのか、どんな行動を取った人がひどい目にあったのかを実体験として知っている。

そうした経験は、長期投資に関してはものすごく大事です。だから、出口さんが言われたように、50代、60代からのベンチャーは面白いと思いますよ。みなさんも、思い切って明日から行動したらいいじゃないですか。

(後編につづく)

<プロフィール>
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1947年愛知県名古屋市生まれ。さわかみ投信取締役会長。1969年に愛知県立大学卒業後、松下電器貿易(現松下電器産業)入社。1970年に退社して渡欧し、1973年にジュネーブ大学付属国際問題研究所修士課程修了。留学中からキャピタル・インターナショナル社のファンド運用担当者を務め、1974年に山一證券国際部嘱託でファンドアドバイザーに就任。1980年から1996年までスイスのピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を務める。1996年に日本初の独立系投資信託会社となるさわかみ投信を設立し、顧客数11万人、純資産総額3200億円のファンドに導く。