日本初の独立系投資信託会社・さわかみ投信を設立した澤上篤人さんと、ライフネット生命会長兼CEOの出口治明。第149回紀伊國屋サザンセミナートークショーで繰り広げられた縦横無尽のトークが続きます。(前編はこちら)

■腑に落ちると人生は楽しい

出口:経験の重要性については、面白い話があります。18万年くらい前のものと思われる、とあるホモサピエンスの古い骨が出たんですが、その人はかなりの高齢で、歯が1本もなかった。そこで、骨を分析したところ、歯をなくしてから死ぬまでに2、3年かかっていることがわかったんです。

澤上:それはつまり?

出口:昔は介護保険などないので(笑)、若い人がご飯をすりつぶして、お年寄りに食べさせていたとしか考えられないんですよ。普通の動物だったら放っておかれるところですが、ホモサピエンスはそうしなかった。なぜかといえば、経験豊かな高齢者にご飯を食べさせた方がその群れが生き残る確率が高まるからです。例えば、太陽が赤くなったら大嵐がくる前兆だと経験があれば、その群れは早く避難できますよね。

人間は、文明が生まれるずっと前から、経験が非常に重要だということがわかっていた。高齢者は早く走ることはできないし、体力もないけれど、経験がある。群れが生き延びていくためには若い人だけでも高齢者だけでもダメ。混ざり合っているのが一番いいんです。

澤上:面白い。いきなり18万年前に戻るとは!この展開こそ、出口さんですよ。みなさん、こうしたことをどんどん面白がってほしいなと思います。「ほう、そうか」とか「確かにそうだな」と自分で納得できるものはけっこう正しい。理論なんかどうでもいい。

出口:そう、自分でいろいろ考えましたが、この考えが一番腑に落ちる。腑に落ちたら、人生は楽しいですよ(笑)

■面白ければ、それが最高のワークライフバランス

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出口:ワークライフバランスについては、澤上さんはどう考えておられますか?

澤上:これはちょっと悩ましい問題ですね。自分は、ワークワークワークワーク(笑)。若い頃、とりわけ最初の5年は1日17時間、仕事をしました。とんでもないレベルの人たちが周りにいたので、その人たちを追い越すのは無理でも、ちょっとでも近づきたいという思いでやってきた。それはそれで良かったかなと思います。人生は楽しんでいるし、なんだかんだで良いお付き合いはけっこうある。だから、ワークライフバランスは自分で適当に判断して良いんじゃないかな。

出口:僕も、面白いことや楽しいこと、好きなことをやればいいし、それが一番良い人生のような気がします。僕の出した本の仲で「ライフが大事で、ワークなんてどうでもいい」と言っていますが、それは価値観の押し付けが一番嫌いだから。わけのわからない上司が「若いときは徹夜してもええんや」とか「夜10時までの仕事ぐらいで文句言うな」と仕事を強制するのは、絶対あかんと思っています。

でも、仕事が面白ければバランスを取る必要はない。朝起きて、今日も頑張ろう、楽しいなと思えるのであれば、それは最高のワークライフバランス。一番楽しい人生というのはやりたいことをやる人生ですよ。僕は、死ぬときにあれをやっておけばよかったなとか、悔いを残したくない。面白そうだと思うことはやった方が断然楽しいですね。

澤上:その本音を聞かせてもらって、ほっとしました(笑)。おっしゃる通り、好きなことをやるのが一番面白いんです。

■日本は普通の国になった

澤上:面白がることが大事だと思うのは、時代が大きく変わったからです。昔は、大企業、中企業、小企業、町工場といった具合に棲み分けができていて、いつまでたっても大は大、中は中、小は小のまま。それぞれ右肩上がり三角形の中での成長を続けていました。しかし、いまは大企業もどんどんどんどん潰れるし、ダメな会社が敗者復活で、2回、3回目の挑戦で一気に大企業を抜き去るということもあり得る。

そのときに鍵をにぎるのは、社員がどれだけやる気をもっているか、どれだけ夢を持っているか、どれだけ将来を楽しんで思いを描いてるか。そして行動力ですよ。サラリーマンとして働くみなさんも変わらないとだめ。起業したっていいじゃないですか。どんどん面白がってください。

(次ページ)面白いことをやっていると死なない(笑)。