■結婚や出産でキャリアをあきらめるのはもったいない
──そもそも、どうしてワーキングマザーをターゲットにしたジョブマッチング事業を始めたのでしょうか?
田中:私はもともと日経ホーム出版社(現・日経BP社)で、特に女性向け情報誌『日経ウーマン』の編集者をしていたんです。そこで働く女性たちの声を聞いていると、女性は大学を卒業してバリバリ働いていても、結婚や出産でキャリアをあきらめてしまう。優秀な人が多いのに、それはすごくもったいないことだと思ったんです。
かといって、子育てをしながらそれまでの経験を生かして働くのは、企業のサポート体制がまだまだ整っていないこともあり、なかなか難しい。だとすれば、フレキシブルに働けるフリーランス、それも女性たちが経験してきた文系総合職のフリーランス化への道をつくることが、こうした問題を解決する助けになるのではと考えたことがきっかけです。
──文系総合職に注目したジョブマッチングには前例があったんですか?
田中:あまりなかったんです。大手の人材紹介会社はあくまでも正社員としての転職がメインでした。弊社は働くお母さんが抱える問題を解決することが目的でした。スキルを生かして、働く時間や場所をできるだけフレキシブルにする。そこで業務委託を中心にすることにしたんです。
──企業側はどんなことを求めてWarisに依頼するのでしょうか。
田中:能力値が高い人にリーチしたいというのはありますね。特にベンチャーであれば手取り足取り教えている時間も余裕もないので、経験があり、自分で考えて業務を進められる自走性のある人が求められます。
──文系総合職は能力を数値化することが難しい職業ですから、ベンチャーはすでにしっかりとしたキャリアがある人材がほしい。そこさえ満たしていれば、働き方は柔軟に応えられる。一方で、働くお母さんたちは自分のスキルを生かしながらも、フレキシブルな働き方を求めている。となると、給与の水準はどのくらいでしょうか?
田中:業務委託のなかでも「準委任契約」というかたちになるんですが、最初に例えば「この人に依頼するには1時間3,000円です」のような時間単価を決めます。あとは単純に稼働時間で左右されますね。
一般的な派遣社員であれば時給1,500円~1,800円くらいが本人への手取りの相場ですが、それよりは高い水準となっています。
──企業としても、プロフェッショナルな文系総合職をそのくらいきちんと評価しているし、雇用リスクを軽減しつつ、そうした人材へリーチできるということですね。確かに、これは幸福なマッチングです。
田中:そう思います。実際に企業様からも好評で、クライアント数は右肩上がりに伸びています。
■フリーランスでも”人材”になる文系総合職に必要なもの
──もちろん文系総合職といえども、誰でもフリーランスになれるわけではない。では田中さんから見て、必要な条件とはなんでしょう?
田中:まずは自分のスキルのコアをしっかり見極めることではないでしょうか。フリーランスになると、常に「あなたは何ができるのか」ということが問われます。会社員のときから、それを自問自答してキャリア形成をしていくことが大切です。
それがある程度わかってきたら、今度はキャリアを縦や横に伸ばしていく。例えば、広報であればマーケティングもやってみるとか、あるいはリーダー、マネージャーに志願してよりプロフェッショナルな経験を積むといったことも必要です。
あとは仕事の再現性ですね。どんな企業のどんな環境でも、一定のクオリティでアウトプットできることは欠かせません。
──その再現性を会社員のうちから鍛えるには?
田中:フリーランスになる前に転職を経験して、さまざまな環境で働いておくといいでしょう。あるいは、同じ会社の中でも違う部署に異動してみるとか。同じ顔ぶれで働くことに慣れてしまうと、フリーランスになって戸惑うことばかりでしょうから。
最後は、なんといってもタイムマネジメントですね。自己管理ができないと、フリーランスになるのは難しい。
──会社に縛られないけど、責任はすべて自分が負うわけですからね。
田中:その通りです。ただ、これから日本はどんどん流動的な社会になっていくと思うんです。そうなったときに、女性が結婚や出産でキャリアをあきらめなくていいということは、すごく重要な価値を持ってくると思います。誰もがフリーランスになる必要はないですが、文系総合職でも選択肢としてフリーランスになる道があると意識しながら働けば、いろいろな可能性が拓けるはずです。個人的にも、そういった女性たちを応援していきたいですね。
<プロフィール>
田中美和(たなか・みわ)
株式会社Waris代表取締役CCO。米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー。1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現 ・日経BP社)入社。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく12年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て、13年に株式会社Waris設立。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』がある
<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/小島マサヒロ