写真左から:西村創一朗さん(HARES代表・複業研究家)、加藤翼さん、上島実佳子さん、外山友香さん

日本の企業でも副業(複業)解禁の兆しが見られる中、すでに何年も前から、本業と副業(複業)を掛け持ちしている人たちもいます。「パラレルキャリア」と呼ばれるその働き方は、私たちにどのような可能性や価値観をもたらすのでしょうか。“パラキャリ”実践者を集めてライフネット生命で開かれた座談会を、ダイジェストでお届けします。

【司会】西村創一朗さん(HARES代表取締役社長・複業研究家)
【登壇者】加藤翼さん、上島実佳子さん、外山友香さん

■入社一年目から始まっているパラレルキャリア

西村創一朗さん(以下西村):今日は昨今広まっている「パラレルキャリア」という働き方の実践者のみなさんに集まっていただきました。みなさんは社会人1年目から本業の傍らで副業をされているということですが、まずは現在の本業と副業について、お聞かせいただけますか?


加藤翼さん(以下加藤):僕は本業では、空間プロデュースやコミュニティーデザインの仕事をしています。それと並行して、前職のコンサルティングの仕事も複業として続けています。そちらでは主に、中小企業の業務の改革、改善をサポートしています。今の会社に入社する際の面談では、「自分はパラレルで仕事をしたい」と伝えました。その時に「会社にとってもそれはバリューになる」と言ってくれたことも、転職を決めた理由の一つでした。

上島実佳子さん(以下上島):私は普段はコンサルティングファームで働いています。複業では、障がい者と健常者が同じ場所、時間を共有することを目的としたNPO法人の経理、総務、法務といったバックオフィス全般を担当しています。このNPOには学生時代から立ち上げメンバーとして携わっていて、車椅子に乗る人の視点や気持ちを知ってもらうための「車いすスポーツGOMI拾い」といったイベントなどを開いています。

就職のタイミングでNPOの活動は辞めようと思いましたが、周りから「大丈夫だよ」と言われて、「何が大丈夫なの?」と思いながらもそのまま続けています(笑)。


外山友香さん(以下外山):私は本業では、中古リノベーションマンションを仲介するWebサイトの編集、ディレクションの仕事をしています。複業では働き方をテーマとしたメディアでライターをしているほか、各種イベントの企画やコミュニティの運営を行っています。

後者は本業の会社の名前を借りてやっているものもあるのですが、本来の業務とは関係がないものがほとんどです。20代を対象とした宮崎県でのツアーの企画や、飲み歩きツアーや街歩きイベント、台湾の朝市を模倣したイベントなどを企画しています。自分が好きなことやみんなで楽しそうなことをやっちゃおう、というスタンスで活動しています。割と自由にやらせてくれる会社なので、社外での活動を認めてくれているのはありがたいですね。

■本業も忙しいのに、複業を続けるモチベーションはどこから?

西村:みなさん本業も忙しい中で、パラレルキャリアを両立させるのは大変だと思います。複業を続けるモチベーションは何ですか?

加藤:僕が大学時代から一貫しているのは、仲間と面白いと思えることをやってきたということ。仕事の後にいつもの仲間と集まってワクワクするようなことを議論すると、アドレナリンが出て「明日もやってやるぞ」ってなります。これで翌朝もスッキリと目覚められるんですよ。


上島:私はNPOで子どもたちと遊ぶことが多いのですが、本業の仕事で疲れている時でも子どもたちの無邪気な姿を見ると、「疲れなんかどうでもいいや」って思っちゃいます。子どもたちの発想力に触れられることも、複業を続けている理由の一つです。

車椅子の友達と一緒に畑に入るにはどうすればいいかというプログラムでも、友達を乗せたビニールシートを滑らせながら運んだり、ゴムシートを地面に敷いて車椅子ごと入れるようにしたりと、いろんな工夫を見せてくれます。

外山:私は「今の社会をもっとカラフルにしたい」と思って色々な活動をしています。自分らしく生きる人が増えるようなお手伝いをしたいんです。それを実現するためには、本業の不動産の分野だけでは難しいので、誰かが一歩踏み出すためのお手伝いを複業で続けています。本業も複業も自分がやりたいことなので、うまく両立できていますね。

■いいことばかりがパラキャリじゃないけどやめられない!

西村:パラレルキャリアをやっていて、よかったことと、しんどいことや難しいと感じることを、それぞれ教えていただけますか?


加藤:よかったのは、本業だけでは出会えなかった人たちに出会えたことです。一緒に手を動かしてモノを作るのはかけがえのない経験です。いろんな知識やスキルも身につくので、キャリアアップの観点からもいいことだと思います。ただ、どうしても自分や家族との時間は少なくなるかもしれませんね。でもそこはバランスなのかも。納得感があれば、マイナスに感じることはありません。

上島:コンサルの仕事では、大きい企業に対しては業務の一部を、小さい企業に対しては業務全般を見ないといけませんが、NPOをずっと運営してきたおかげで小規模な組織での仕事の流れについては分かっていました。本業で役立ったことの一つです。

つらいのはNPOの決算期ですが、それ以外の時期は、本業できつい時はきついと言って、NPOの活動を一時的に休んでいます。他の仲間も同じです。お互いあまり追い詰めずに、それぞれ自分ができる範囲でカバーし合いながらやっています。


外山:本業だけだと、書けることが限られてしまうので、複業で違うジャンルの記事を書くことで、編集・ライターとしての幅を広げられるのはありがたいと思っています。つらいというよりも心配だったのが、傍から自分はどう見られているか、ということ。「あいつはこっちの仕事で100%の力を出していない」と思われていないか、恐る恐るやっていたこともありました。

■最強のパラレルキャリアの実践者とは?

西村:これからみなさんに続こうとする若い方たちに、メッセージをお願いします。

加藤:最近はコンペやクラウドソーシングサイトも増えてきて、そういったところで仕事を見つけてくる方法もあります。でも、やっぱり相手の顔が見えにくいし、関係が続きにくい。なので僕は、信頼できる仲間とのつながりを大切にしたほうがいいと思います。自分がちょっとでもできること、たとえば「写真撮れます」などと発信しておくと、思わぬところから撮影の依頼が来ることもある。

最初はボランティアみたいな形かもしれないけれど、やっていくうちに自分も成長して、いずれその仲間もお金を払うようになるかもしれません。互いにサスティナブルな関係になれば、一番いいんじゃないかと思います。

外山:私も人とのつながりは大切だと思っています。私は一人でやることが苦手で一緒にやってくれる人がいたからできたところもあるので。だから、いま興味はあるけど一歩踏み出せないという人は、まずは人とのつながりを今は大事にしておくのがいいんじゃないかなと思います。

あとは、できないことも「できる」と言ってしまうこと。若いからこそ、できなくても許される部分があると思うので(笑)。そこから謙虚に学んでいけばいいと思います。

上島:私はパラレルキャリアが、必ずしも仕事と仕事の組み合わせである必要はないと思います。最近よく思うのは、働く主婦は最強のパラレルキャリア実践者であるということ。実はこれまで普通にやってきたこともパラレルキャリアだと思うので、そんなに気張らずに、みんなが楽しくやっていけたらいいですね。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/香川誠
撮影/横田達也