(写真はイメージです)

1980年代にエイズ患者の存在が一般的に知られるようになり、HIV感染者が増加するとともに、感染者に対する偏見や差別意識も広がりました。そうした背景の下、タイでHIVに感染した女性から母子感染して生まれ孤児になった子どもたちの存在を知り、彼らを育てるための施設を運営し、病気とそれに伴う差別や偏見とも闘ってきた日本人女性がいます。1999年からタイを中心に活動するNPO法人バーンロムサイジャパンの代表、名取美穂さんにお話をうかがいました。

当記事はFMラジオJ-WAVE「JK RADIO TOKYO UNITED」の番組で、世の中をもっと楽しく、グッドにするためのアクションを紹介する『COME TOGETHER』より許可を得て加筆転載しています

■バーンロムサイジャパンとは?

HIVに母子感染した孤児たちのための施設であるタイ・チェンマイの孤児院バーンロムサイの運営ほか、タイ北部の恵まれない環境にある人たちを支援するNPO法人です。バーンロムサイは、寄付だけに頼らない、少しでも自立した組織にしたいと考えて、“家業”として縫製場やコテージリゾートを運営しています。

この活動を通して、子どもたちに将来の自立に向けた職業訓練の場や就労機会を提供し、また隣国からの難民や少数民族を積極的に雇用することで、タイ北部の地域社会にも貢献したいと考えています。

代表の名取美穂さん

■活動はどのようにして始まったのでしょうか?

1999年12月、私の母である名取美和が、HIVに母子感染した孤児たちの生活施設としてバーンロムサイを設立しました。当時タイではエイズが猛威をふるっていましたが、治療薬が行き渡らず、たくさんの人が感染し亡くなりました。この病気で両親を失い、自らもHIVに母子感染した子どもたちが増加していたので、バーンロムサイは国立孤児院からそのような状況にある30名の子どもたちを迎え入れたのです。

■その後の経緯と活動状況は?

開設から3年の間に10名の子どもたちがエイズを発症し命を落としたのですが、やっと普及し始めた抗HIV療法を取り入れた2002年10月以降は一人も亡くなっていません。医療の発達により、現在では母子感染を防ぐことができるようになったので、HIVに感染はしていないけれど、さまざまな事情で孤児になってしまった子どもたちや、事情があって親と一緒に生活できない子どもたちもバーンロムサイに入園してくるようになりました。

当団体は、卒園生の健康管理や、学業を続ける子どもへの経済的な支援、貧困などが原因で就学が困難な子どもたちへの教育費、ならびに進学支援を実施しています。また北部タイの山岳民族の村に対する物資調達・提供などの支援も行っています。

■子どもたちを支援する活動として大切にしているプロジェクトがあるそうですね?

「+art(プラスアート)プロジェクト」と題する活動で、多くのアーティストがバーンロムサイを訪れ、子どもたちと一緒に絵を描き、粘土をこね、写真を撮るという創造力を豊かにするさまざまな創作活動に開園当初から取り組んできました。19年間の活動を通して、子どもの創造力の素晴らしさを再認識しています。

そして、子どもが生まれつき持っている創造力を伸ばし、ポジティブ(+)に生きてほしいという願いは、多くの人が「自分以外の人のためにできることをしたい」と考える気持ち、いわば分かち合いの精神に支えられてきたのだと考えているのです。

人々が支え合う気持ちが集まり、さまざまな人がバーンロムサイという場を通してつながり、それが心地よい場になれば、さらに新しいつながりが生まれる……そんな循環を「+art」(プラスアート)という言葉にこめて発信しています。

■日本でもそのアート作品に触れる機会がありますか?

オンラインショップのほか、鎌倉の「banromsai kamakura shop」で販売しています。作品を購入すれば、当団体が支援する地域の女性や、縫製場で働くHIV感染者を助け、さらにバーンロムサイの子どもたちの命をも支えることになります。

■現地、タイでの反応はいかがですか?

開設から数年の間は、子どもたちがHIVに感染しているという理由で地域の住民の反対を受け、小学校への通学を拒否され退学を余儀なくされたり、村の子どもたちがホームに近寄ることを禁止されたりして、多くの差別や偏見がありました。それでも活動を続けるに従って、状況は改善しています。

現在では、地域の子どもたちがホームに来て一緒に勉強をしたり遊んだりするようになりました。特に2010年以降、スポーツやキャンプ、図書館、防災訓練などの継続した活動を通して、村の子どもたちと交流を深めていますし、村で差別、偏見を感じることはなくなるばかりか、現在では地域のリーダーとしての役割をも担うようになってきたのです。

■バーンロムサイが描くヴィジョンを教えてください

開園以来、バーンロムサイは多くの人たちの金銭的な支援のほか、さまざまな支援を受けてきました。この活動は、友人たちに支えられている大きな家族とその家業のようなものです。多くの人から多くの刺激を受け、バーンロムサイは成長してきたのです。そのうち子どもたちが跡を継いでくれたらいいなと願いつつ、今後も子どもの創造力をのばしていきたいと思っています。

また、生きていくための技を身に着け、それを必要としている人とシェアすることの大切さを感じる気持ちが循環する社会を目指したいと考えています。 タイでの活動の様子や、支援について、また縫製場で作られた製品の情報、購入については、ウェブサイトをぜひご覧ください。

<インフォメーション>
特定非営利活動法人バーンロムサイジャパン
●https://www.banromsai.jp/
banromsai オンラインショップ
●http://www.banromsai-shop.com/