34才でパート勤務の相談者さん。貯蓄は現在600万円ほどあるものの、将来ちゃんと年金がもらえるのか心配でなりません。最近、NISAやiDeCoなどの投資に興味はありますが、損をしたくないという気持ちも強いとか。老後に備えてコツコツ貯金した方がいいのか、それとも思い切って投資に挑戦した方がいいのか。悩める相談者さんに黒田さんが爽快な答えを提示します。

【相談】
ただいま34歳、パートタイム勤務の主婦です。これまでコツコツ貯金を続け、ようやく600万円ほどの額になりました。ただ、将来は年金がもらえないかもという話も聞くし、貯金だけで老後の生活を乗り切れるのか不安です。NISAやiDeCoなどに投資する人の話もよく聞くので、自分でもやってみようかと考えています。とはいえ、損はしたくない。私のようなタイプはこのまま貯金を続けた方がいいのか、あるいは投資に踏み出すべきなのか。もし投資をするならどんな点に注意したらいいのでしょう。教えてください、黒田先生! (34歳・女性)

■「貯蓄か投資」ではなく「貯蓄も投資も」

貯蓄か投資か。非常によくある悩みですが、ぜひこう考えてください。

「貯蓄か投資か」ではなく、「貯蓄も投資も」。二者択一でどちらかを選ばなければと考えるのはナンセンス。可能ならどちらもやりましょう。利息がほとんどつかない普通預金に長期間預けっぱなしで、投資をしないのもまたリスクだからです。

リスクというと、どうしてもネガティブなイメージがありますが、リスク=デンジャー(危険)ではありません。金融商品におけるリスクとは、儲かるかもしれないし、損をするかもしれないという「ブレ」。投資した結果、得られる収益の幅の可能性、つまり「不確実性」のことです。

不確実ならやっぱり損をするかも。だから投資は怖い。はい、その思考はそこでストップ! 自分のリスク許容度をしっかりと見極めれば、投資は恐るるに足らず。ご自分の年齢や家族構成、職業、投資への考え方などを踏まえて、どのくらいのリスクなら受け入れられるかを割り出してみましょう。

例えば、一般的に、若い人は失敗をしても取り戻せる時間がたくさんあるので、シニアよりもリスク許容度は高くなります。年収が高い方が低い人よりもリスク許容度は高いですよね。このように置かれた環境や条件から自分のリスク許容度を考えて、その範囲内で投資をすればいいのです。

人生100年時代。この先は長いですよ。ぜひお金にも働いてもらいましょう。それこそが投資です。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

■おすすめは、つみたてNISAやiDeCo

相談者さんのような投資ビギナーのキーワードは、長期・分散・積立の3つ。投資と一口に言っても、株式、不動産、債券などさまざまです。株式も国内、海外、両者のミックスもあれば、先進国、新興国の株式もある。一つの商品で短期間に儲けようなどと考えず、投資対象や投資時期、投資期間を分散させて長期戦で積立型の投資をしましょう。
投資はシステマティックに行うのが一番。コツコツと積み立てていって、気づいたら増えていたという形がベストです。できるだけ早くから始めれば、金額も少しずつですみますよ。

手持ちの資産は、当座の生活に必要なお金やイザという時のためのお金である「流動性資金」、教育や住宅の頭金など、3年以内に使う目的が決まっている「目的別資金」、目減りしては困る「安全性資金」、5~10年以上など中長期の運用が可能な「収益性資金」の4つに分類できます。流動性資金は生活費の3カ月から半年分を見ておくといいですね。

安全性資金と収益性資金の配分をどうするのかは、「100から年齢を引いたパーセンテージ」を株式などの収益性商品で持つのも一つの考え方。40歳なら金融資産の60%を収益性商品で持ち、40%は債券など安全性商品に投資するという方法です。一つの目安にしてみてください。ただし、実際には、手持ちの資産から、流動性資金と目的別資金を差し引いたら、投資できる金額がほとんど残らないというケースが多いんですけどね(笑)。

ではいったい何に投資をすればいいのか。投資もしたいがリスクも怖いという方は、「アセット・ロケーション」を考えて、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の口座で積立投資をすることをおすすめします。

アセットとは「資産」、ロケーションとは「置き場所」を意味します。つまり、資産をどこに預けるか?ということ。これまで資産運用の際に考えられてきた「アセット・アロケーション(資産配分)」をもじった、近年、注目の考え方です。

たとえば、高金利の定期預金を取り扱う銀行や、手数料が割安で利便性の高い証券会社を選ぶといった金融機関選びも、アセット・ロケーションを重視した行動のひとつ。そして、金融機関だけでなく、アセット・ロケーションを効率化するために優先すべきが税制優遇のあるNISAやiDeCoの口座を利用することなのです。

通常、投資における利益はインカムゲイン(利息、配当金など)、キャピタルゲイン(値上がり益)ともに20.315%の税金が課せられますが、NISAは1年に120万円までの新規投資の利益や配当金・分配金はすべて非課税。しかも、従来のNISAでは非課税の期間は最大5年間でしたが、2018年1月から始まった「つみたてNISA」は、最長20年間にわたって運用益が非課税なのです。

「つみたてNISA」は年間投資額の上限が40万円と低く設定されていますが、それでも、非課税が最長20年間というメリットは大きいです。年間40万円の投資を20年間続けたら800万円。夫婦がそれぞれこの金額で投資をすれば合わせて1600万円。この投資金額に対する収益はすべて非課税で、通常かかる約20%の税金分と同等の収益を国が保証してくれているようなものなのです。運用期間が長期にわたるので、とくに老後資金にうってつけ。使わない手はありません。

iDeCoは、毎月一定額を積み立てる掛け金から、定期預金や保険、投資信託といった金融商品を選んで運用し、60歳以降に年金または一時金で受け取る制度ですが、こちらも運用で得た定期預金利息や投資信託運用益は非課税です。ある意味、国から優遇されているこうした制度を使って長期にわたり積立をしていきましょう。

■投資の成功体験を積み重ねよう

ただし、金融商品にかかる費用は要チェックです。「つみたてNISA」は運用期間中に運用管理費用が発生します。商品によってこの費用は異なりますが、コストも複利で膨れ上がるので、できるだけコストが安いものを選ぶことが大事。日頃の生活だけでなく投資においても、コスト意識はとても大切です。

売り時にも気をつけましょう。金融商品を買うのは誰でもできますが、いつ売るべきなのか、いつ売った方がいいのか、悩める方は多いようです。私からのアドバイスは「投資する前に決めておくこと」。例えば、運用実績が30%減ったら損切する(損失額を確定すること)、など、あらかじめ基準を明確にしておくといいでしょう。売り時だけでなく、投資の目的や運用期間なども決めておくことが大切です。

そして、成功体験を重ねていくこと。投資の経験がないまま、60代で退職金が入ったとき、危ない投資に手を出して大失敗してしまった、というのはよくある話です。投資は種まきが大事。若いときから経験しておき、成功体験を積み重ねていくことです。

「会社四季報」もぜひチェックしてみてください。「会社四季報」は私の愛読書の一つ。ファッションカタログを見るように熟読しています。私にとって株式は洋服と同じですね(笑)。この本を読んで何がいいかといえば、会社だけでなく社会の動きもわかること。知っておいて損はありません。

最後に一言付け加えると、冒頭で「貯蓄も投資も」と述べましたが、投資は必ずしもマストではありません。よく「なくなってもいいお金で投資をする」などと言われますが、なくなっていいお金なんてないですよね。家計管理的に節約はマストですが、投資は必ずしも必要ではないのです。‘食べず嫌い’は困りますが、自分が理解できないものには手を出さないと見極めることも必要です。それに、投資の中で一番、収益性が高いのは何かわかりますか?自分への投資です。個人的には、自己投資をして付加価値を高め、収入をアップさせることが、最も確実な投資法だと思っています。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子