「持続可能な開発目標(SDGs・エスディージーズ)」とは、2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された、持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するための国際目標だ。2016年から2030年までという期限と、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「質の高い教育をみんなに」等の17の国際目標を設定している。
JAPAN SDGs Action Platform(外務省ホームページより)

ライフネット生命では7月17日にSDGsのワークショップを実施。SDGsの世界観を体感するカードゲーム「2030 SDGs」を通して、どのような学びがあったのかをレポートする。

■さまざまな背景を持つ193カ国が、全会一致で賛成したSDGs

『2030 SDGs』ファシリテーター・荒木朋之さん

「SDGsの共通コンセプトは、『No One Left Behind(誰一人置いていかない)』。誰かが損をして、誰かが得をするというものではありません。全員が等しくよりよい世界に住む。本日は『2030 SDGs』というカードゲームを通して、皆さんにこの点を体感していただきたいと思います」。

2030 SDGsのファシリテーター・荒木朋之さんの言葉から、今回のワークショップはスタートした。

【図表1】

SDGsは、17の国際目標がベースとなっている(図表1参照)。さらに、それらを達成するための具体的なターゲットと232の指標が設定されている。このように目標ごとに具体的なターゲットと指標で表すことで、各国の目標進捗率が見えやすくなる。

「例えば、目標1の『貧困をなくそう』や目標2の『飢餓をゼロに』等を見ると、発展途上国だけのものではないかと思われるかもしれませんが、日本も例外ではありません。相対的貧困という言葉がありますが、日本でも格差がかなり広がりつつあり、対策が進んでいない国の一つとされています」と荒木さんは主張する。17の目標は、どの国も等しく関係があるという意識が重要だ。

■「2030 SDGs」を体験する

このSDGsの17目標を達成するまでの道のりを体験するのが、「2030 SDGs」というカードゲームだ。

「これから、この部屋にいる21人で、1つの世界を作っていただきます」と荒木さん。ルールは至ってシンプルだ。1チームに等しく時間とお金が与えられ、それらを使ってプロジェクト活動を行い、最終的に自分の目標(ゴール)を達成するというもの。ゲームの成否は、ゴールを達成できたかどうかで決まる。

今回は、2人1組で1チームとし、合計11チームで1つの世界を作ることになった。

【図表2】

まずはゴールを決めるため、1チームあたり1枚のゴールカードを引く(図表2参照)。今回使用したゴールカードは以下の5つである。

  • 「大いなる富」……お金を潤沢に持つこと
  • 「悠々自適」……十分な時間を得ること
  • 「貧困撲滅の聖者」……経済を活性化させること
  • 「人間賛歌の伝道師」……戦争撲滅や格差是正に注力し、平和な社会を実現すること
  • 「環境保護の闘士」……環境を守り、クリーンな地球にすること

これらはゴールであると同時に、各チームの「価値観」を表す。現実世界と同様に、ゲームの世界でも異なる価値観が複数存在するというわけだ。

続いて、各チームには平等に資金500G(ゴールド・単位)と時間のカード12枚が与えられ、その他にプロジェクト活動を示すプロジェクトカードが2枚ずつ配布される。どのようなプロジェクト活動があるのか。例えば、「交通インフラの整備」というものがある。(図表3参照)

【図表3】

このプロジェクトを実行するためには、「使うモノ」としてお金500Gと時間3が必要になる。交通インフラが整備されることで、経済が循環する上、移動時間も短縮されるため、「もらえるモノ」としてお金1000Gと時間1が与えられる。さらに、次のプロジェクトカード1枚と「意思のカード」1枚がもらえる。この「意思のカード」とは、やりがいや情熱といった無形のものを示す。

一番下には、「世界の状況メーターの変化」がある。ここがもう一つの大きなポイントだ。このゲームでは、みんなで一つの世界を創るというもの。ホワイトボードには「世界の状況メーター」が表示される(図表4参照)。これは参加者全員が創り出す世界の状況を表していて、青のマグネットは「経済」、緑は「環境」、黄は「社会」を示している。マグネットが増えるほど、豊かになるということだ。

【図表4】

ワークショップに参加するライフネット生命社員

先ほどの「交通インフラの整備」というプロジェクトを実行すると、青の経済はプラス1となるが、緑の環境はマイナス1となり、ホワイトボードのパラメータの数が変化する。どのプロジェクトを行うことで世界の状況が刻々と変わり、2030年の世界が現れてくる。

ちなみに、「交通インフラの整備」のカードの一番上には「必要な世界の状況メーター」が示されている。青(=経済)のパラメータが3以上なければ、このプロジェクトは実行できない。

ルールとして最も大切なのは、このカードゲームは世界を模しており、現実の世界と考えるということだ。つまり、現実の世界と同じく、交渉はプレイヤー間で自由に行ってもよい。例えば、プロジェクトの交換や、お金と時間の交換も可能だ。相手との合意があれば、基本的にはどのような交渉も成り立つ。

■前半は、自分の目的を達成することに集中した

前半は9分間、中間発表を挟み、後半は16分間。

われわれ編集部チームが引いたゴールカードは「悠々自適」。目標達成には時間のカードが15枚以上必要だ。現在保有している時間は12枚だから、あと3枚あれば達成になる。しかし、時間を増やすプロジェクトカードを持っていない。時間を増やすプロジェクトカードを交換によって得るか、お金で時間を買う交渉をするか等の手段が挙げられる。

周囲を見渡すと、どのチームもまずは自分のゴールを達成するために何が必要なのか、どのようなプロジェクトをやるべきなのかを考えて動いているようだ。とにかく利害が一致するチームを探し、交渉する。編集部チームもようやく時間を増やせるプロジェクトカードを持つチームを探し当て、交渉して交換してもらうことができた。

ホワイトボードを見て世界の状況メーターの変動は確認していたが、それは「世界が経済、環境、社会のバランスが取れているか」ということよりも、「自分のプロジェクトが実行できるか否か」という観点で見ていた。

前半もそろそろ終わりに近づいてきた時、早くもゴールを達成したチームが出始めた。編集部チームも、時間のカードがあと2枚あれば達成できる。あと一歩だ。

結局、目標達成したチームから無償で時間のカード2枚をいただき、われわれはあっけなくゴール達成となった。現実社会で言えば、ボランティアに来ていただいたという感じだろうか。やはり目標を達成したチームには余裕があるようで、余剰資源を必要なところに分配しようという動きが見え始めていた。

そして前半が終了し、中間発表となった。

前半でゴールを達成したチームは、11チーム中9チーム。「すばらしいですね!」と荒木さん。続いて世界の状況を見てみると、どうだろうか。

経済が16、環境が2、社会が4。経済は超好景気で様々な施設やインフラがどんどん建設されているが、環境は危機的状況で、森林伐採、大気汚染や水質汚濁の問題が起こるという悲惨な世界になっている。社会は、全体が分裂しつつ、一部には課題がある。一定の教育は受けられるが、格差の問題が噴出したり、孤立する人がいたりする世界だ。

「自分のチームがゴールを達成しても、今の世界の状況を見ていただき、どんな活動ができるかを考えてみてください」という荒木さんのコメントを得て、後半が始まった。

■中間発表で世界を「見える化」し、後半で現れた大きな変化とは何か

後半開始直後に、「環境と社会のパラメータがあまりにも低いので、皆さんの余った資源を回収して一カ所に集中し、効率よくプロジェクトを遂行していきましょう」と声を掛けるテーブルが出現した。

ほとんどのチームがゴールを達成していたために、賛同者がどんどん集まり、一カ所に資源が集まり始めた。「バランスのいい世界に」「プロジェクトの優先順位はどうするか」等、皆で議論が始まった。我々のチームも、余った資源をそのテーブルに預けた。

中間発表で全員が世界の状況を改めて把握したことと、ほとんどのチームがゴールを達成して「満足感」が生まれたことから、ようやく周囲に目が行くようになったようだ。「自分の目的を達成していると、余裕を持って考えることができる」「経済を多少犠牲にしてでも、環境や社会を伸ばそう」との声も聞こえてきた。この部屋にいる参加者が望む世界は、「経済、環境、社会、均衡の取れた世界」ということが自然と共有されてきたように思う。

ホワイトボードを見ると、各パラメータが徐々にバランスされてきた。後半も残り少ない時間となった時、「時間のカードが足りない」という意見が増え始めた。金はある。プロジェクトもある。でも、時間が足りない。

しかし、社会のパラメータだけ1足りなかった。あるチームが「世界の均衡を保つために、このプロジェクトを使いましょう。自分のチームのゴールは達成できないけれど、それでバランスさせられるなら資源を使います」と、最後のプロジェクトを遂行した。

ゲーム終了。結果はどうか。

目標を達成したチームは、11チーム中10チーム。そして、世界の状況パラメータは、経済が12、環境が12、社会が12。見事にバランスした。

荒木さんは次のように総括した。「きれいな数字が並びました。経済は前半の16から12に落ちましたが、それでも十分豊かな状況です。環境は良好で、水はきれいで緑も多く、空気が澄んでいる。社会は豊潤で皆が教育を等しく受けられ、介護も安心して受けることができ、家族は笑顔で過ごしている。非常にバランスのとれた素晴らしい世界になりました」。

ファシリテーターの荒木さんのにこやかな仕切りで会場の雰囲気も和む

さらに荒木さんは次のように評価した。

「私はファシリテーターとして、皆さんの創った世界を100点満点で評価しなければなりません。バランスやそれぞれの数値、ゴールを達成したチームの数、総合的に見ます。今回の参加者の点数は、98点です。素晴らしい! 残り2点は、皆さんのこれからの活動にプレゼントしたいと思います」。

後編では、今回の「2030 SDGs」の振り返りとともに、SDGsと世界の状況について荒木さんに詳しく解説していただく。

<プロフィール>
荒木朋之(あらき・ともゆき)
大阪府出身。上智大学にて地球環境法学科で企業環境法を学ぶ。広告、小売業界などを経て現在は保険業界でマーケティング部門に所属。仕事と並行して2018年「2030 SDGs」カードゲーム公認ファシリテーターの資格を取得。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/森脇早絵
撮影/横田達也