テレワーク用の場所を自宅で確保できず、オフィスで働くよりも疲れてしまうという人は少なくありません。小さなお子さんがいる相談者さんもその一人。専用の仕事スペースを確保できず、大事な会議の時間に限ってお子さんがさみしがって声をかけてくるのだとか。相談者さんの悩みを解決する効果的な方法はあるのでしょうか。黒田先生がズバリお答えします。

【相談】
2歳半の子どもがいます。夫も私もテレワークですが、夫婦がずっと家にいて、仕事をする毎日にぐったりしはじめています。子どもはまだ手がかかるので、夫と交代で面倒を見ながら仕事をしていますが、大事なビデオ会議が始まろうとしているときに限ってイヤイヤが始まるんです。自室がないので子どもの声が同僚に聞こえてしまうし、生活感が丸出しになることにもすごく抵抗があります。いっそ、夜中に仕事をしたい気分。みなさんどうやってやりくりしているのでしょうか。黒田先生、解決策を教えてください!(37歳・女性)

■ベランダやトイレでテレワークする人も!?

「自分だけの空間を確保して、子どものことも気にせずに、仕事だけに集中できたら……。」これはテレワークをしている親御さんに共通する願いではないでしょうか。

でも、現実はそうではありません。リクルート住まいカンパニーが2020年5月に実施した「新型コロナ禍を受けたテレワーク×住まいの意識・実態(SUUMO調べ)」調査の結果を見ると、「ああ、自分だけじゃなかったんだ。みんなつらいんだ」と実感されると思いますよ。

同調査では会社員・公務員の47%がテレワークを実施していますが、テレワークに対する不満のうち、1位は「オンオフの切り替えがしづらい」で35%、次が「仕事専用スペースがない」で33%、3位は「仕事用のデスク/椅子がない」で27%、仕事に向いた環境が整えられていないことに不満を持っている人が大半を占めていました。

テレワークの実施場所に関する回答を見ると、もっとびっくりしますよ。55%がリビングダイニングを利用していますが、マンションの共用スペースや「ベランダ・バルコニー・デッキ・屋上・庭」を挙げた人もそれぞれ1%。オンライン(Web)/テレビ会議実施場所に至っては、お風呂やトイレで実施している人もいました。

この調査では、テレワークを快適にする工夫として、

  1. 視界を遮断する
  2. 音を遮断する
  3. 気分を切り替える

の3つを挙げています。その上で、DIYでパーテーションを作ったり、カーテンレールで仕切りを設けたりといった簡単な対策が紹介されているので、参考にしてみてください。相談者さんのお宅で取り入れられる方法が見つかるかもしれません。

■集中したいときには子どもにタスクを与えよう

相談者さんには2歳半のお子さんがいらっしゃるとのこと。私は自営業者ですから、産休も育休もない中で仕事を続けてきたので、そのしんどさはよくわかります。育児をしながらの仕事、楽ではありませんよね。

我が家の場合、夫の方針で、保育園に預けるのは3歳から。それまでは、子どもの面倒を見ながら、テレワークを続けていました。個人のお客さまからのご相談や打ち合わせなど、外出しなければいけない時は、保育園の一時保育を利用していましたが、月に○回までなど制限がありましたし、訪問先からOKが出た場合は、ベビーカーに乗せて、子どもを同行させたこともあります。大人しい、おっとりした性格だったので、私が仕事をしているときは、絵本を読んだり、お絵かきをしたりしていて、一人で遊んでいました。

もちろん、ご相談者さんのお子さんのように大事なときに限ってイヤイヤが始まることもありました。でも、子どもって、そういうものですよ。きっと、親のイライラやピリピリを感じてしまうんでしょうね。だから、私自身の精神が安定した状態に保てるよう、タイトなスケジュールの仕事は極力いれないようにしていました。

育児と仕事を両立させていた時に感じたのは、親が仕事をしている姿をお子さんに見せるのはとても大事だということ。貴重な時間ですよ。会社にいると、親がどんな仕事をしているのか、子どもにまったく伝わらないですからね。

私の子どもはすでに、将来の自分のやりたいことや職業を考える年齢になりましたが、「結婚しても、子どもができても、お母さんみたいに、ずっと働けるような仕事がしたい」と言っています。これも、頑張って働く姿を見せてきた成果かなと思っています。

そこで、その貴重な時間をどう過ごすか。私のアドバイスとしては、相談者さんが仕事に集中したい時間にはお子さんにタスクを与えてみてはいかがでしょう。2歳半なら積み木や塗り絵を与えるといいかもしれません。「お母さんは隣で仕事をしているから、〇〇ちゃんもその時間に塗り絵を○ページやってみようか」と、具体的に指示を出してみるんです。達成感が得られるような形でタスクを出すと、意外に子どもは素直にやってくれます。

どうしてもお子さんがぐずってしまうようなら、ご主人の協力を仰ぎましょう。外に連れ出してもらうのもいいですね。

近くのカフェやワーキングスペースなど、自宅以外で仕事をするのも効果的。1時間だけでも、その後の気分がまったく違ってきます。気持ちを切り替える時間をうまく作って、お子さんと一緒の空間で仕事ができる喜びをかみしめてほしいと思います。

■テレワークについて会社に交渉してみるのも手

さきほど紹介した調査結果にも出ていますが、テレワークの場合、インターネットの通信費や光熱費、食費、文具類など意外に出費がかさみます。どうしても子どもを預けなければならないときの費用、カフェやワーキングスペースに出かけたときの費用は、重なると大きな出費になりますよね。

会社によっては、テレワークに対して援助が出るところもあるようですが、相談者さんの会社ではいかがでしょうか。

もし、補助が出ない、出たとしても非常に少ないということであれば、会社に交渉してみるのもいいですね。交渉なんてとても無理、と思われますか?

いま、国をあげて働き方改革を推進し、テレワークを推奨しています。テレワークは時代の趨勢です。追い風が吹いているようなものですから、もし補助が必要だと思うなら会社に打診する道も検討してみてください。

相談者さんがどうしてもこれ以上、テレワークを続けられないと思うなら、会社に対してオフィスワークの希望を出してみましょう。事情を話し、「もうこれ以上続けるのは難しい」と冷静に論理的に伝えるんです。

ダメだったら? 条件を交渉するといいですね。週に何日かでもオフィスワークに変えるとか、相談者さんが妥協できる範囲を伝えてみる。意外に、受け入れてもらえるかもしれませんよ。

これからの企業は、従業員が働きやすい環境を整えなければ生き残れません。働きやすい環境の中身は人によって違います。テレワークに大満足の人もいれば、相談者さんのようにストレスがたまってしまう人もいる。個々の従業員が納得できる形で働く環境を整備する必要性は多くの会社が理解していますから、交渉なんて最初から無理だと思わず、ぜひトライしてみてください。

■プチ家出と適度な運動のすすめ

いろいろ挙げてきましたが、最後に同じ働く母として、私からアドバイスを2つほど。1つは、プチ家出のすすめです。

ストレスをためるのは、相談者さんにとってもお子さんやご主人にとっても良いことではありません。もう本当につらい! というときには、パートナーにお子さんを預けて家を出てしまいましょう。プチ家出といっても、リフレッシュのためのちょっとした気分転換です。

ほんのちょっとの時間でも、仕事や家庭から離れるとリフレッシュできますよ。もちろん私もまだ子どもが小さかったころに経験があります。本当は、パーっと遊びに行きたかったんですけど、子どものことが気になって、あまり遠くにも行けず。結局、駅前のデパートに行ってぶらぶらと売り場を見て回り、家族の好物をデパ地下で買っただけ。それでも家に帰ると気分がスッとしました。

もう1つのアドバイスは運動です。狭い空間にじっとしていると精神的にもよくありません。ちょっとした運動で十分です。運動は、身体的なカラダの健康だけでなく、精神的なココロの健康にも役立つとされています。
流行りのヨガでもいいし、ジョギングやストレッチでもいい。体を動かすとイライラが消え、スッキリした気分で仕事を再開できます。

おそらく、お子さんがいらっしゃる方の時間管理や危機管理能力は高いはずです。うまくガス抜きをして、その優れた能力をぜひ仕事に活かしてくださいね。

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<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)。 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子