(画像はイメージです)

こんにちは、ライフネットジャーナル編集部です。ライフネットジャーナルでもさまざまな記事を執筆しているフリーライターの三田村さんには、長年一緒に過ごしてきた大切なぬいぐるみがいます。ぬいぐるみの専門病院で修繕をお願いしたところ、見た目がきれいになっただけでなく、たくさんの心温まるサービスを受けたそうです。その驚きの技術とホスピタリティを紹介してくれました。


ライターの三田村です。みなさんには、古くなってきたけれど、捨てるに捨てられないぬいぐるみはありませんか? 思い出がたくさん詰まった、愛着のあるぬいぐるみを持っていませんか?

私にはあります。東京の大学に進学し、寮生活を始めた頃、ホームシックにかかっていた私を案じて、母が福岡から送ってきてくれたうさぎのぬいぐるみです。私は、身長30cmほどのふくふくとしたうさぎのぬいぐるみに「キャル」と名付け、それから幾星霜、いつも手元に置いていました。

修繕する前の「キャル」の姿

およそ10回近くにもおよぶ引っ越し。そして結婚。環境やライフスタイルが変わっても、キャルは私の相棒です。しかし、長い年月を経て、生地がすっかり劣化し、中の綿も縮んでぺしゃんこになってしまっていました。何箇所かほつれた場所を繕ってはみたのですが、しょせん素人芸なので、完全にきれいになるわけではありません。

このままではボロボロになる。なんとか再生させる方法はないものか──悩んでいたときにネットのニュースで知ったのが、ぬいぐるみの「治療」をしている病院。金額はそれなりにかかるようですが、キャルがきれいになるのなら惜しくない。早速、問い合わせをしました。

しかし、この病院は、私と同じようになんとかぬいぐるみを再生させたいと思う人が殺到しているらしく、実際に預けるまでに2年半かかりました。キャルの場合は全身を治療してもらう必要があったために、通常よりも日数がかかったようです。連絡が来たのは今年2月。4月からの治療が確定し、キャルを宅配便で送った後、2ヶ月後の6月に私の元に戻ってきました。

写真を見ておわかりいただけるでしょうか。新しい生地を移植し、中の綿も詰め替え、それでいて表情や雰囲気はもとのまま。母が私に送ってきたときには確かにこんな色とフォルムだったことを思い出すと泣けてきました。最初の頃の写真なんてないのに、どうしてここまで昔の姿に近づけることができたのか。プロの技に拍手です。

素晴らしいのは、ぬいぐるみ再生の技術ばかりではありません。治療をお願いしてから私の元に戻ってくるまで、そのサービスやコミュニケーションのきめ細かさには圧倒されました。例えば、依頼時に記入するフォームには、どこをどう治したいのか、姿勢はどうしたいのか、綿は多めに詰めるのか否かなど、細かな質問項目が並んでいます。できるだけ持ち主のイメージに沿って治したいという病院側の強い意思を感じました。

生地をこちらで手配することもできますが、病院側にお願いすることもできます。私は結局お願いしましたが、本当に元の生地にそっくりのものを調達してもらいました。

いざ私の元から離れてからも、途中経過の様子が画像付きで送られてくるので、心配はありません。逐次、メールが届き、画像を見るたびに泣いてしまったのはナイショです。数万円の費用はかかりましたが、高いとはまったく思っていません。

バスの絵が描かれた段ボールに乗って、キャルが帰還。段ボールを開けると、そこにはすっかり元気になったキャルがピンク色のお布団に包まれて眠っていました。しかも小さな花束と看護師さんからの手書きのメモ入りです。

ぬいぐるみに寄せる持ち主の愛情に敬意を払い、高度な技術と温かなホスピタリティで応えてくれた病院には感謝の念しかありません。と同時に、顧客本位のサービス、顧客に寄り添ったサービスとは何か。その本質を教えてもらった貴重な体験です。

<クレジット>
文/三田村蕗子