ライフネット生命のアスリート社員で、ろう者のオリンピック(デフリンピック)陸上短距離の日本代表である岡部祐介が、聴覚障がいのある子どもたちに向けて、8月18日に「第1回 デフ・キッズ向け陸上教室」を開催しました。

場所は、新豊洲Brilliaランニングスタジアム。オリンピックで活躍した為末大さんを館長に、「障害のあるなしや、年齢、性別に関係なく、すべての人がスポーツやアートを楽しめる」場として作られた、60mの直線コースをもつ施設です。

他の講師や選手と一緒の陸上教室は経験している岡部ですが、実は単独での子ども向けの指導は初めて。どうしたら子どもたちが楽しく参加できるか、走るコツを伝えられるか、悩みながらプログラムを考え、ドキドキしながら教室が始まりました。

はじめは自己紹介。手話と手話通訳を併用して子どもたちとコミュニケーション。

手話は手だけでなく表情も使います。

手話で先生とおしゃべり! 子どもたちの表情も豊かで、話もはずみます。

まずはウォーミングアップ。ストレッチしたり、腕を回したり。

一人ひとりをよくみて、話しかけたり、アドバイスしたり。

いよいよ走ってみます。

ここで、スペシャルな装置が登場。スタートを光で知らせるスタートランプです。まだ日本に1セットしかない貴重なもの。東京都立中央ろう学校教諭で、一般社団法人日本聴覚障害者陸上協議協会事務局次長の竹見昌久先生が、このスタートランプの説明をしてくれました。

「スタートのピストル音が聞こえないと、他の人より出遅れてしまいます。みんなも、聞こえなくて困ること、あるでしょう? 聞こえないことで不利にならないように、音ではないスタートの方法がないかな、と考えて作ったのがこのスタートランプです。日本各地に広げていくところです」

実際にスタートランプを使って走り出すスプリンター岡部。間近で見る迫力に食いつく子どもたち。

自分たちでもやってみます。

「先生と、勝負してみたい人!」

先生はハンデをつけて後ろからスタート。ライフネット生命スタッフたちも少し後ろから。

アスリートの意地で追いあげますが……見事に小学生チームが勝利! 負けず嫌いの岡部は本気でくやしがっていました。

最後はみんなで写真撮影。「楽しかった」「走るコツがわかった」「僕もデフリンピックの選手になりたい」と手話でのおしゃべりが止まりません。

最後に、この会に込めた思いを岡部にききました。

「耳が聞こえないと、どうしてもスポーツをするときに不利になったり、ついていけなかったりして、おっくうになってしまう子が多いんです。楽しめないのはもったいないこと。僕は子どもたちに、走りの基本を伝えつつ、技術よりも走る楽しさを伝えたいと思いました。今日のことを忘れずに思い出して、これからもスポーツを楽しんでもらえたらうれしいです」

保護者の方からも好評をいただき、またこうした機会をつくっていく予定です。

 

<プロフィール>
岡部祐介(おかべ・ゆうすけ)
秋田県由利本荘市出身。陸上競技(400m)でデフリンピック2回出場(日本代表)経験あり。聴覚障がい者向けの唯一の国立大学、筑波技術大学卒業後、大手電機メーカー勤務を経て2016年5月よりライフネット生命保険株式会社に勤務。2021年のデフリンピックでのメダル獲得を目指して日々練習に励みながら、聴覚障がい者に対する理解を促すための講演や取材対応など幅広い活動を行っている。

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
撮影/村上悦子