第1回 がんアライ宣言・アワード ゴールド受賞企業のみなさんと、がんアライ部発起人のみなさん

「がんと就労」の問題に取り組む民間プロジェクト「がんアライ部」(代表発起人:功能聡子、岩瀬大輔)は、発足からほぼ1年を迎えた10月2日、優れた取り組みをしている企業を表彰する「第1回 がんアライ宣言・アワード」表彰式を執り行いました。

受賞企業は、どのような取り組みにより、がん罹患者の就労をサポートしているのでしょうか。表彰式の模様をレポートします。

■他社からも学べるネットワークが構築された1年目

「がんアライ宣言・アワード表彰式」ではまず、代表発起人の功能聡子さん(ARUN代表)により1年間の活動報告がありました。

がんアライ部はこの1年間、ウェブサイトやFacebookファンページの開設、医師や社会保険労務士などを招いての勉強会、カナダで開かれた国際肺がん学会(IASLC)での講演など、さまざまな活動を重ねてきました。

ワークショップの参加者からは、「他社の事例を知ることができてよかった」といった声などがあり、勉強会にとどまらず、参加企業間のネットワークづくりも進んだようです。

がんアライ部 代表発起人 功能聡子さん(ARUN代表)

「がんアライ宣言(※「がんとともに働き続けられる企業」であることを、世の中や働く従業員たちに宣言すること)を通して、企業のトップを交えて意識改革や制度の導入を決めたといううれしい声も聞きました。私たちは2年目もがんアライ部の活動を続けてまいりたいと思います」(功能聡子さん)

続いて発起人の一人、駒崎弘樹さん(NPO法人フローレンス代表理事)から、がんアライ宣言・アワードの総評をいただきました。

「がんアライ宣言・アワード」のエントリー企業の取り組みをまとめた事例集を読んで、涙が出るほど感動したそうです。

がんアライ部 発起人 駒崎弘樹さん(NPO法人フローレンス代表理事)

「さまざまな企業の方々が、魂のこもった、創意のある施策をしてくださっている。この事例集を多くの企業の人事部、経営者の方々に読んでもらうことによって、『自分たちもできるかもしれない』『やってみようじゃないか』というふうに、一歩踏み出していただければと期待しています」(駒崎弘樹さん)

■医療費負担や働き方改革でサポート。家族の就職を斡旋する企業も

表彰式では、受賞企業の中から3社が講演を行いました。

1社目は大手商社の伊藤忠商事株式会社。同社では、がん罹患者となった一人の社員が社長に宛てたメールをきっかけに、がんへの取り組みが加速していったのだそうです。

当時の岡藤正広社長(現会長)の「家族のつもりで支援していく」というメッセージは、その社員のメールを受けて全社員に宛てたもの。実際、社員にはかなり手厚いサポートをしています。がんの早期発見を目的としたがん特化健診の義務付け。先進医療費の会社負担。家族の将来の不安を軽減するために設けられた子女育英資金は、子どもの大学院までの学費を支援するものです。

さらに、家事専業の配偶者や、将来子どもが希望すれば、グループ内で就職先を斡旋することも約束しています。

伊藤忠商事株式会社 人事・総務部、企画統括室長の西川大輔さん

2社目は、スウェーデン人のクヌート・ガデリウスが1907年に横浜に日本事務所を開設したことが始まりの外資系商社、ガデリウス・ホールディング株式会社。

同社では、社長ががんの治療がとても高額になることもあると知ったことを機に、がんを患った社員に治療費として100万円を支給する制度をスタートさせました。

さらには、社員の体調や治療の進捗に合わせた働き方を支援するため、時短やフレックス、在宅勤務など働き方を自由に選択できるようにしています。

ユニークなのは、整備を進めているという休暇寄付制度。使用しなかった有給休暇を、がん治療のために休暇が必要な社員に寄付できるというもの。これにより、治療を続けながらも給与が保証されることになります。

ガデリウス・ホールディング株式会社 総務本部人財開発部課長の山下智子さん

3社目は日本航空株式会社。同社は2017年に、従業員の健康推進プロジェクト、「JAL Wellness 2020」を策定しました。

「企業理念の追求のためには心身の健康が不可欠である」という考えからつくられたもので、5つの重点項目として生活習慣病、がん、メンタルヘルス、タバコ対策、女性の健康を設定しています。同社の取り組みの特徴は、治療と就労の両立支援をしていること。

例えば客室乗務員の復帰プログラムにおいては、復帰時に産業医と相談し、復帰後の1~2か月は乗務時間を通常の50%程度に抑え、近距離路線からスタート。徐々に乗務時間を延ばし、5~6か月頃には乗務時間80%程度になることを目指します。

こうした取り組みにより、過去5年間において、「がんの治療と仕事の両立が困難であることを理由に退職した社員はゼロ」だということです。

日本航空株式会社 人財本部担当役員の小田卓也さん

■受賞企業発表

「第1回 がんアライ宣言・アワード」の受賞企業は20社。ブロンズ、シルバー、ゴールドの3つの部門で表彰され、それぞれの部門から1社ずつ、受賞のコメントを述べました。

【ブロンズ 受賞企業】
株式会社GRCS、株式会社グローバンス、株式会社繋

ブロンズ受賞企業のみなさん

株式会社グローバンス(写真中央)、古川宗明さんのコメント。

「弊社は、がんになってしまった従業員が、がんを経験した従業員からカウンセリングを受けられるという体制を取っています。何を隠そう、それを担当していたのが僕自身。昨年まで、抗がん剤治療で髪の毛もありませんでしたが、会社は自分を受け入れてくれて、お客さまのもとにも行かせてくれた。

がんになった時の気持ちは、実際になってみないとなかなかわからない。でもやっぱり働きたいという気持ちを大切にしてくれて、『がん患者だから』という目線ではなく、常に仲間が横にいて一緒に働いてくれました」

【シルバー受賞企業】
ハウスコム株式会社、日本オラクル株式会社、合同会社SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、株式会社エグゼクティブ、株式会社アートネイチャー

シルバー受賞企業のみなさん

日本オラクル株式会社、遠藤有紀子さん(左から2番目)のコメント。

「弊社では、多様な人材、働き方を尊重していくということを徹底しており、在宅勤務であったり、場所や時間に制限されない働き方を推奨しております。がんに罹ってらっしゃる方にとっても、自分の思い通りの仕事ができ、キャリアと言う面での自己実現ができる環境があります。

一方で、無意識のバイアスといった課題もあります。『がんに罹っていることを言いたくないという社員も多い』という声もあり、カミングアウトしなくても会社は支えている、ということを社員にも知ってもらう機会として、今回の宣言を活用させていただければと思っております」

【ゴールド受賞企業】
伊藤忠商事株式会社、株式会社エーピーコミュニケーションズ、株式会社MTG、ガデリウス・ホールディング株式会社、株式会社クレディセゾン、コロプラスト株式会社、サッポロビール株式会社、日本航空株式会社、野村證券株式会社、株式会社日立システムズ、三井化学株式会社、株式会社ローソン

ゴールド受賞企業のみなさん

株式会社エーピーコミュニケーションズ、永江耕治さんのコメント。

「実は私も8年前、がんに罹患しました。そして今もがんとともに生きていて、会社の中では、副社長という役割で働くことができています。今回の受賞をきっかけに、今後社員がさらに興味関心を持つことができるのではないかと思っています。

私が必要だと思っているのは、コンパッションという概念。ただただ相手のことを考えて、感じるというものです。これが会社全体でできるようになるのは非常に難しいことではありますが、そんな会社を作っていきたいと思っています」

 

2年目に突入するがんアライ部は、活動の幅をさらに広げていきます。

勉強会ではこれまで専門家を講師に招いていましたが、今後はがんの当事者の方、または一緒に働く職場の方を招いて、実際の事例をうかがいながら学ぶ機会を作ります。

そして、東京中心だった活動を、地方にも展開していくとのこと。活動は全国に広がります。

<インフォメーション>
●がんアライ部公式サイト
●がんアライ部公式Facebook

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
撮影/村上悦子