社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ第4弾。

前回は、会社を退職するともらえる「基本手当」や、勉強するともらえる「教育訓練給付」などについて薫先生が丁寧に教えてくれました!今回は、基本手当をもらっている間や、その前後も含めたちょっとしたギモンを取り上げます。

【今回のポイント】
1.基本手当(失業手当)があるなら、早めに就職したら損でしょ?
2.病気やケガ、妊娠などで働きたくてもしばらく難しいときも大丈夫!
3.会社は自己都合っていうけど、私は会社都合だと思う!そんなときは…


1.基本手当(失業手当)があるなら、早めに就職したら損でしょ?
前回紹介したように、失業すると、雇用保険から基本手当(失業手当と言われたりもします。以下、基本手当)を受け取れます(雇用保険加入期間などの要件があります)。

ゆとりある生活とまではいきませんが、働いていなくても基本手当としてお金をもらえるわけですから、「もらえるものはもらいたい」と思うのが人情なのはわかります。

ただ、全部もらうのが本当に有利かどうかはギモンです。実は、早めに再就職できると「再就職手当」をいただけるからです。
これは、基本手当の所定給付の日数が1/3以上残っていると、残日数の60%(2/3以上残っていれば70%)の基本手当相当額がもらえるというものです。

たとえば、30歳で3年務めた会社を自己都合退職して、90日の基本手当(仮に日額5,000円(現役時の月給21万円程度)として)を受け取れる場合、この90日間の動きにより自分の手元に入るお金は以下のようになります(概算です)。


【ケース1】→45万円
 90日間ずっと再就職できず、基本手当を全部受給する
[基本手当]受給90日✕5千円=45万円

【ケース2】→57万円
 50日間で就職が決まり再就職
[基本手当]受給50日✕5千円=25万円
[再就職手当]残40日✕5千円✕60%=12万円
[給 与]1月20万円と仮定

【ケース3】→74.5万円
 20日間で就職が決まり再就職
[基本手当]受給20日✕5千円=10万円
[再就職手当]残70日✕5千円✕70%=24.5万円
[給 与]1月20万円と仮定✕2ヶ月=40万円


どのケースが一番金額が多いかと言うと、やはり早期に再就職したケース3ですね。

つまり、基本手当をできるだけもらい尽くそうとするよりも、早めの再就職を狙ったほうが、手元のお金にはゆとりが生まれるということです。

なお、再就職手当を受け取れる「就職」には、雇用保険に加入し、1年以上の期間で雇われることなど要件があります。ただ、通常の就職活動で見つけた就職ではかなりのケースで該当すると思われます。こちらも視野に入れて活動をしてみると良いでしょう。


2.病気やケガ、妊娠などで働きたくてもしばらく難しいときも大丈夫!

そう言われても、しばらく仕事なんて無理! というやむを得ない事情がある場合は、基本手当の受給可能期限を伸ばす手続きをしましょう。

具体的には、病気やけが、妊娠、出産、育児等で30日以上働けない期間が続く場合です。
通常は1年しか受給期間がありませんが、最大3年間延長できます(合わせて4年)。

この他、30日とまでは行かないけれど、15日以上病気やケガで就職活動ができないときは、「傷病手当」を受け取る方法もあります。

基本手当は「元気でスグに就職できる準備万端!」という人のための、就職できていない日々の収入の代わり…という位置づけですので、求職活動ができない病気等の日は基本手当を受け取れません。でも、手元のお金も不安だし…という現実を踏まえ、基本手当と同額の「傷病手当」※を受け取れる制度があります。
※健康保険の傷病手当金とは別です。

傷病手当は基本手当の所定給付日数(例:90日)を消化してしまうので、先に紹介した「受給期間延長」にするかどうかは、手元資金なども踏まえて検討することが大切です。


3.会社は自己都合っていうけど、私は会社都合だと思う!そんなときは…

自己都合退職と会社都合退職とでは、会社都合のほうが基本手当の給付日数がかなり多いですし、基本手当が出ない給付制限期間もなく、有利ですよね。

自分は会社都合だと思っていたのに、会社からの書類では自己都合扱いになっていて…という場合、念のためハローワークで「求職の申込み(「退職したので基本手当が欲しいです」という手続き)」をするときに、窓口の人に事情を説明してみましょう。事情によっては会社都合ということにしてもらえる場合もあるようです。

たとえば、残業が多すぎた(例:連続した3ヶ月の平均が45時間)、育児・介護休業などを取ろうとしたら不利益に扱われた、など、かなり色々なケースがあります。

また、自己都合の一種ではありますが、会社都合の場合と同様の扱いをしてもらえるケースもあります。たとえば結婚のため転居したら通勤時間が非常に長くなり勤務が難しくなった、家族の介護、看護のため勤務が難しくなった…などです。

ただし、「説明をすれば変えてくれる」といった単純なものではありません。
事前に相談するか、もしくは退職後の場合はその場で結果がわかるわけではない前提で、しばらくは貯蓄などで生活する心づもりが必要です。

※雇用保険加入期間や自己都合、会社都合などの要件については勤務状況等により異なるため、概要にとどめています。自分のケースは? と気になるときはハローワークへ確認しましょう。

<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村 薫

<プロフィール>
1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。