黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

女性なら誰もが迎える更年期。その症状は個人によって差があります。今回の相談者さんのお母様は、イライラしたり気分が落ち込んだり、寒くなったり熱くなったり、さまざまな症状に悩まされたとか。そのため、まだ40代の相談者さんもいまからちょっと憂鬱です。

私にもそういう症状が出るのかな。うまくやり過ごす方法はないのだろうか。悩める相談者さんに黒田さんがアドバイスします。

【相談】
更年期の症状は個人差があるとは聞きますが、私の母はちょっと深刻でした。気分がいらつき、ひどく落ち込むになっただけでなく、からだのほてり、ホットフラッシュもひどく、傍で見ていて気の毒になるほど。私も同じように悩まされるのかと思うといまから心配でなりません。「あの人、いつもイライラしてるよね」と言われるのだけは避けたいです。いつも笑顔が素敵な黒田先生はどのように対応する予定ですか? うまく乗り越えるコツがあったら教えてください。(40代・女性)

*上半身ののぼせ、ほてり、発汗などがおこる、更年期障害の代表的な症状。急に顔が熱くなったり、汗が止まらなくなったりする(参考:女性の健康推進室ヘルスケアラボ)。

■更年期の症状と更年期障害は違う

お母様、大変でしたね。つらい症状に悩んでいる姿を近くで見ていると、こちらもつらくなりますよね。心配な気持ちはわかりますが、更年期って人によって差があるんですよ。お母様の症状が重いからといって娘の相談者さんまで重いとは限らない。人それぞれです。

まず、私は医療者ではありませんので、実際に更年期の症状が重くなった場合、かかりつけ医や婦人科などに相談されることをお勧めします。ただし、今から約10年前に乳がんと診断され、その際に受けたホルモン治療の副作用によって、数年間、更年期の症状に悩まされました。そのときの経験や感じたこと、医療者から聞いたアドバイスをご紹介したいと思います。

女性はおおむね50歳前後で閉経を迎えます。閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた時期を「更年期」といい、この時期にはいろいろな症状が現れます。代表的なのが、ホットフラッシュと呼ばれるほてりや発汗ですが、そのほかにも、冷えやイライラ、動悸、息切れ、頭痛、めまい、疲労、不安、不眠、憂鬱感など本当にさまざま。

こうした更年期の症状には7〜8割の女性が悩まされているそうですが、症状がある=更年期障害ではありません。更年期障害とは、日常生活に支障が出るほどの重い症状がある状態を指します。

ちょっとイライラしたり、ホットフラッシュがあったりするからといって、それは必ずしも更年期障害ではない。日常生活をなんとか送ることができれば、それはあくまで症状であって、多くの女性が経験することなのです。

■鈍感力と敏感力を使い分けよう

では、更年期症状に直面したらどうすればいいのか。一般的に、更年期障害に有効と言われる「ホルモン補充療法」(詳しくは後述)は、私の場合、乳がんの再発リスクを考えると、治療は慎重に考えなければなりません。ですから、例えば、急なほてり感や発汗に対応できるよう服装を工夫する。ゆっくりお風呂につかって血流を良くし、気持ちをリラックスさせる。漢方を利用する等々。それぞれの症状に合わせて、対症療法で乗り切るしかありません。なかでも、自分ができる効果的な対処法だと感じたのは、メンタル的な気持ちのありようを工夫することです。

それは「鈍感力」と「敏感力」を使い分けること。鈍感力をわかりやすくいうと、「ま、いっか」とスルーする力のことです。完璧を求めず、適度に手を抜き、イライラすることがあっても怒らずに流す。「〜しなければならない」という発想から解放されましょう。

私は、40代でがんを経験したことを機に、極力、怒ったり、イライラしたりしないようにしています。悲しみや怒り、イライラという負の感情は、免疫力を低下させると聞いたからです。

そんな感情をコントロールできるんだったら苦労しない、と思われるかもしれませんが、何事もトライ&エラーです。自分のストレス解消法を見つけて、嫌なことは早く忘れてしまうんです。私の場合、家族と食事しながらお酒を飲んで、さっさと寝ます。翌日はきっと楽しい1日が待っていると想像しながら。

規則正しい生活も心がけるようになりました。食事はバランスよく、腹八分目に抑えて、胃腸に負担をかけない。早寝早起きをして、適度な運動やストレッチをする。朝はご飯をしっかり食べる。がんだからといってがん治療によって起きる症状に向き合いすぎないことで、つらい治療期間を乗り切ることができたように思います。

■正しい知識は不可欠

更年期も同じです。更年期からくる症状に正面から向かい合っちゃだめですよ。イライラしても、そこにどっぷりと浸からない。ホットフラッシュが起きても、ほとんどの女性が経験するんだからと深刻に考え込まないことです。

ただし、更年期に関する正しい知識を持つことは必要です。ふつう、更年期の症状は突然訪れることが多く、なにも予備知識がないまま症状が出るとパニックに陥る人もいるそうです。周囲の経験者から知識を得ておくことも大事です。

正しい知識を持った上で、適度な運動をすることもおすすめです。自分のからだの変化を日頃から知っておくために、できれば基礎体温も毎日つけましょう。私もいまでも毎朝必ず測っていますよ。

運動のほか、アロマを使ったり、音楽で気分転換を図ったりするのもいいですね。更年期ってこういうものなんだと思ってやり過ごし、いろいろな工夫を取り入れてみましょう。そうすると気持ちが前向きになれます。このメンタルがとっても大事。

40代を過ぎると、外見には内面の美しさが現れるようになりますからね。良い歳の取り方をしたいじゃないですか。私にも、ちょっと年上の、といっても60~70代ですが、素敵だと感じる人生の先輩がいます。自分もあんな風にキレイに年齢を重ねていけたらいいなと考えています。

■好きなことにアンテナを張っておこう

もうひとつの力である敏感力とは、自分がやりたいことや興味があることに敏感になるということです。好きなことにはアンテナを張っておく。そうすると、毎日の生活が潤いますよ。

アンテナの対象は、趣味に関することでも、俳優やアイドルでも、映画でも、とにかく何でも構いません。自分が夢中になれること、やってて楽しいことがいいですよね。先日、仕事の関係で、ある俳優さんを生で拝見する機会があったんです。そのあまりの美しさ、格好良さに舞い上がってしまいました(笑)。思っていた以上に喜んでいる自分を発見したことが新鮮な驚きです。これも敏感力のたまものです。

違う世代の人たち、とくに若い人とおしゃべりするのも楽しいです。自分の子どもと同じ10代から20代の大学生、新社会人など、異なる世代の話に耳を傾けると、考え方や言葉のセンス、選び方に刺激を受けることが多いのです。見たくないもの、聞きたくない言葉、自分をイライラさせる行動や態度には鈍感力を発揮し、好きなことしか見ないと開き直るぐらいがちょうどいいのではないでしょうか。

■更年期障害の解決策は!?

冒頭でお伝えした通り、日々の生活に支障が出るほどのひどい症状に悩まされる場合は、ちゃんと病院で治療しましょう。これはもう単なる症状ではなく、更年期障害なのですから。

更年期障害の治療法としては、ホルモン補充療法などがあります。これは、閉経前後に体内で不足してしまう女性ホルモン(エストロゲン)を補充するための療法です。

骨や血管、脳に働きかけて機能を維持しているエストロゲンが低下すると、骨粗しょう症や動脈硬化などのリスクも高まりますが、ホルモン補充療法を継続するとがんのリスクが高まるとされる報告もあるようです。くれぐれも担当のお医者さんにしっかりと相談して、適切な治療を受けてくださいね。

たかが、更年期障害と侮ることなかれ。次から次へと現れる症状に悩まされて、日常生活や仕事に支障が出ると、人間関係や家計にも影響が出てきます。いずれは、症状がおさまり、終わりがきますので、乗り越えられるよう準備しておくのも一つです。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子