ライフネットジャーナルが今回取材に伺ったのは、モスバーガー大崎店。同店では2020年7月に、オリィ研究所の協力により分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を使った「ゆっくりレジ」の実験導入を行いました。

「OriHime」とは、育児や介護、持病や障害など、さまざまな事情により外出が困難な人のもう一つの身体として活用できる、オリィ研究所開発の分身ロボットです。過去には「分身ロボットカフェ」を期間限定でオープンし、ライフネットジャーナルでもその様子をご紹介しています。現在も、自治体の行政サービスでの実証実験などが行われており、分身ロボットは徐々に身近な存在となってきています。

モスバーガーのゆっくりレジは、そのOriHimeを使った新しい接客サービス。平日、時間を限定してレジにOriHimeを設置。OriHimeを操作するパイロット※と会話をしながら、じっくり商品を選べるというものでした。2020年7月から実験を行い、10月末をもって終了しました。

代わりに11月より開始したのが、OriHimeを使用した「アシストセルフレジ」のサービス。果たしてどういったものなのでしょうか?

※パイロットとは:OriHimeを分身として操作し、リモートで会話や動作を行う人のこと。

■モスバーガーのアシストセルフレジとはどういったサービス?

近年、飲食などさまざまな業界で、慢性的な人手不足が共通の大きな課題となっており、モスバーガーも例外ではありません。そこで各店舗の人手不足解消などのため、2018年11月にセミセルフレジ、2019年12月にフルセルフレジを一部店舗に導入しました。

レジ操作を利用者自身で行ってもらうことで、その間に店員は注文を確認して商品の用意をできるなど、他のサービスに注力できるメリットがあるといいます。しかし、セルフレジであれば利用者自身のタイミングでスピーディに注文できるのが良いという声がある一方で、どこか無機質で味気ない感じがする、という声もあったそうです。そうしたメリットを生かしつつ課題を克服するために選ばれたのが、OriHimeでした。

今回、モスフードサービスの広報担当者の方に、OriHimeによる「アシストセルフレジ」サービス開始の経緯と、ユーザーの反応について伺いました。

──「アシストセルフレジ」サービスの概要と、なぜ導入を決めたのかを教えてください。

モスフードサービス広報担当者(以下、広報):もともとは人手不足解消のために始まった取り組みですが、フルセルフレジ自体にも課題があり、操作方法がわからないなどでつまずき、お客さまが諦めてしまうということもありました。人による接客のあたたかみと利便性を両立できる手段を探す中で、人の分身として動かせるOriHimeと出会ったんです。

アシストセルフレジサービスでは、注文の入力などはお客さまが行い、OriHimeはその横に付き添ってご案内をしています。たとえば注文したい商品のボタン位置がわからない時や、操作方法を間違えてしまった時などにご説明をしています。

広報:OriHimeがいるだけで気軽に質問できるので、安心してご利用いただけますし、「モスバーガーでOriHimeとコミュニケーションをした」という良い印象が残ると思います。

OriHime導入にあたっては、外出が困難な方へ働く場を設けられる社会貢献の意味も大きい要素です。障害をお持ちの方ももちろんですが、介護や育児で外出は難しいが働きたいというニーズに応えられるようになるのではと考えています。

■地域に愛される存在となりつつあるOriHimeならではの距離感

──実際にフルセルフレジをOriHimeのパイロットの方とお話ししながら使ってみましたが、すぐそこに店員さんがいるように感じました。接客用ロボットというと、パターン化された文言を繰り返す印象があったのですが、自分に合わせた接客をしてくれるのが嬉しいですね。

広報:パイロットとのお話を通じて、「今対応してくれている方はこんな人なんだな」と、お人柄まで感じていただけるようです。向こう側に人がいる、というのが想像できるあたたかさがあると思います。

OriHimeを導入してから数ヶ月程が経って、お客さまの認知度も高まってきました。意外だったのが、お子さまがOriHimeに親しみを感じてくれることです。通常では注文や支払いは親御さんが行って、お子さまはそれを待っているだけ、ということが多いですが、お子さまがOriHimeに興味を持って話しかけたり、OriHimeのパイロットに聞きながらセルフレジを操作して注文したりする光景も見られます。

ほかにも、SNSで「分身ロボットに接客してもらった!」と投稿をしていただいているようです。エンターテインメント性でも喜ばれたのが嬉しいですね。

──近隣の方に愛される存在になっているんですね。自分の分身ロボットを操縦して接客する大変さもなかなか想像できないのですが……遠隔での接客は、パイロットの方にとっても難しいところがあったのでしょうか。

広報:これは私も導入後に知ったことなのですが、遠隔操作のため、音声や動作のタイムラグがあるそうなんです。たとえば、お客さまがレジの前に立たれてから挨拶をすると、お客さま側からは少し遅いと感じることもあるようです。電話などでも、相手の返答が遅れると不安な気持ちになりますよね。そこでパイロットの皆さんが、お客さまが見えたタイミングで早めに挨拶をするなど、違和感のないよう工夫をしてくれています。

来店された方や商品の出来上がりを待っている方とも、コミュニケーションを取ってくださっていますね。ちょっとお喋りしたり、一緒に写真を撮ったりする間に商品が出来上がるので、待ち時間も楽しく過ごしていただけるようです。

■セルフレジの利便性と人のサポートを受けられる安心感の両立

──OriHimeがサポートする接客を通じて、変わったことはありますか?

広報:人手不足の解消とともに、働き方にも影響があると思います。現在、OriHimeは1台に4人のパイロットがついており、時間帯ごとに入れ替わって接客をしています。そのため、短時間でも働くことができています。また、これはまだ可能性の話になりますが、お客さまが来店されたのを確認して該当の店舗の接客に「移動」する、ということも実現するかもしれません。OriHimeがいれば、パイロットが働く場所は関係がないので、人が足りないところに柔軟に移動できます。非接触で対応ができるのも大きなメリットですので、今後も色々な可能性が広がると思います。

──OriHime導入にあたって、社内や店舗で働く人の反応はいかがでしたか?

広報:最初はロボットと聞いて、社員も少し構えていたところがあったようです。それこそ人のあたたかみや直接の対話を大切にしている「モスらしさ」をきちんと体現できるのかと心配する声もありました。しかしいざ導入してみると、パイロットのお人柄も伝わってくるので違和感もなく、新しい「モスらしさ」の実現を感じられていますね。

店頭のOriHimeは、他の店員とお揃いのコスチュームに身を包んでいます。小さなリボンが愛らしいです。

──私自身、ファストフードのレジだと、働かれている方の忙しい様子も見えるので、注文は失敗できないぞ、と緊張してしまうこともあります。OriHimeと話しつつゆっくり選べると、ホッとできますね。

広報:いざレジに並んで店員が目の前にいて、メニューがたくさん並んでいる、そうした状況に緊張される方も少なくないと思います。そうして焦って、本当に食べたいものではないけれどとりあえず目に付いたものを頼んでしまうかもしれません。ゆっくりでいいですよ、とパイロットの方が声をかけてくれるので、安心して選べるのではないでしょうか。

──ライフネット生命でも、すべてお客さまご自身がネット経由で申し込みを済ませることも、電話サポートで一緒に画面を見ながら申し込みをすることもできます。そうした選択肢があることは、嬉しいことなのかもしれませんね。

広報:じっくりメニューを選びたい方には、OriHimeとお話をしながら選ぶ楽しみを感じていただけているようです。レジの操作でわからないことがあっても、それをきっかけにOriHimeにサポートをしてもらえるので、わからないことがあっても面白い! となったら良いなと思いますね。コミュニケーションがあるもの・ないものどちらかだけですと、その選択肢が合わない人にはつらくなってしまうかもしれません。選べる、ということはとても重要なのだと思います。

今後のOriHimeを活用した新しい取り組みについては、検討を進めているとのこと。OriHimeの可能性を生かした活躍の機会が、さらに増えていくと期待されます。

■OriHimeのパイロットに聞く、分身ロボットを通じた新しい活動

モスバーガー大崎店では、現在4人のOriHimeパイロットが交代でお仕事をされています。その中で、「分身ロボットカフェ」や「ゆっくりレジ」などでも活躍されたパイロットの一人、まやさんにお話を伺いました。

「いらっしゃいませ! モスバーガーへようこそ。今日は店内でお召し上がりですか?」スピーカーからまやさんの声がはっきりと聞こえてきます。OriHimeの後ろには、パイロットの方の写真が。

はじめてのOriHimeとの対面に、興味深々な編集部員。動きすぎて、ブレてますよー。

──こんにちは! OriHimeのフォルム、ぽってりしていて可愛いですね……。ついつい話しかけたくなってしまいます。これまでOriHimeを使って働いていた中で、お客さんとのやり取りで印象に残っていることがあれば、教えていただけますか?

まやさん(以下、まや):先日、親子連れで来店されたお客さまのことなのですが、OriHimeを初めて見たお子さまがすごく喜んでくださって、翌日も来店してくださったんです。とても嬉しくなりましたね。OriHimeはお子さまに人気で、声を掛けられることが多いんです。「何してるのー?」「お仕事してるんだよー」といった感じで、待ち時間にお話ししています(笑)。

──お子さんから見ると、OriHimeは特にかっこいいんでしょうね! まやさんとお喋りをしたくて来るという人もいそうです。

まや:そうですね。けれど中には急いでいてお喋りは遠慮したいのかな、と入店時の雰囲気から伝わってくる人もいるので、そういう場合は様子を見ながら、見守ることに徹しています。

お店に入ってすぐに、セルフレジエリアがあります。一番右側に、ちょこんと座るOriHime。私達がレジに向かうと、両手をパタパタさせて出迎えてくれました。編集部員も、釣られて手を振りました。可愛い……

──まやさんの声かけがとってもスムーズで、初めての利用でも気構えることなく注文ができました。OriHimeを使ってお仕事を始めた前後で、ご自身に変化があったなと感じたことはありましたか?

まや:OriHimeを使うまで、お仕事をしたことはありませんでした。今まで接客業は、自分ができるなんて考えたこともないくらい、縁のないものだったんです。ですが、OriHimeと出会って接客をするようになってから、人と接するのは楽しいと知りました。私は人見知りですけれど、お仕事であれば知らない人とも喋れるんだ、と新しい自分を見つけられた。それが一番の変化ですね。

「おすすめの商品ってありますか?」「今の期間限定メニューは皆さんにぜひ食べていただきたいです! セットにするのでしたら、私はポテトが好きですよ」「いいですね、じゃあセットはポテトにします」なんて、優柔不断な編集部員にはぴったりの接客をしてくれました。

商品を選び終わり、番号札のバーコードを読み取れば完了……と思いきや、なかなか読み取れずに焦る編集部員。しかし、「大丈夫ですよ~、それは横向きにして読ませるのがコツです!」と、まやさん。ひとりであたふたするよりもずっと、安心して操作ができます。

席に着いて数分、出来たての商品が到着しました。まやさんの丁寧な接客とおいしいバーガーで、穏やかな気持ちでゆっくりとランチを楽しめました。

──今後、OriHimeを使ってやってみたいことはありますか?

まや:私は昔からテレビが大好きなテレビっ子なので、テレビ局の受付をやってみたいなと思っています。芸能人の人をいっぱい見られたらな、なんて。

──受付のお仕事、まやさんにぴったりですね。分身ロボットと接したことがなかったので、想像以上にできることの幅が広がるイメージが湧きました。何か最近挑戦されたことはありますか?

まや:実は一昨年の冬くらいに、OriHimeを使って海外旅行へ行ったんですよ。OriHimeを1台、ちょうどモスバーガーで使っているこのサイズのものを、旅行に誘ってくれた知り合いに持って行ってもらって、同世代のパイロット何人かで交代でOriHimeを操作して、観光をしました。

──旅行! とても楽しそうですね!

まや:そうなんです。私達OriHimeのパイロットは、OriHimeがあるところなら、瞬間移動ができるんです。ライフネットジャーナル編集部の皆さんの所にもお邪魔できちゃいますよ!(笑)

■時代の変化に合わせ前向きに「セルフ」へ挑戦を

スーパーやコンビニでも見かける機会が増えているセルフレジ。自分でやればサッと短時間で済ませることもできるし、人とコミュニケーションをしたくない時にはその存在に助けられることもあるでしょう。ライフネット生命をはじめとする、見積りから申し込みまでスマホやPCでできるネット保険が広く皆さんに利用されてきているのも、そういった理由があるかもしれません。

しかし、どんな小さなことでも新しいものに挑戦をするのは、不安でドキドキすることもあります。興味はあるけれど、自分は機械が苦手だから、なんて尻込みしてしまうこともあるでしょう。そんな時にOriHimeのように、必要な時にそっとアシストをしてくれる存在があれば、とても心強いですよね。ライフネット生命でも、チャット・メール・電話と、皆さんの望んだタイミングに温かいサポートをできる仕組みを用意しています。

「自分で選んで、自分で決める」機会は、今後も色々な場面で増えてくるでしょう。もしかしたら将来的には、これを読んでいる皆さんもOriHimeのパイロットとして活躍している、なんてことも……? まずは時代の変化を感じながら、前向きに「セルフ」へ挑戦をしてみるのも、良いのではないでしょうか。

<インフォメーション>
アシストセルフレジ(モスバーガー大崎店)
実施時間:月・火・土 11時~15時、木・金 14時~18時
2021年2月末までは現在の体制で継続(予定)※終了時期未定
*システムメンテナンスなどのため、実施時間内でも「アシストセルフレジ」を実施しない場合があります。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル編集部
文・写真/年永亜美(ライフネットジャーナル編集部)